「叱る時には相手を慮らない」

昨日は、知り合いの大学生とその祖母との3人でドライブに行った。

これは私の提案でそうしたのだが、その意図は、主に3つ。

一つ目は、「孫と祖母との楽しい思い出を作ってもらうため」

二つ目は、「その大学生とコミュニケーションを取り、
そこから親戚づきあいを活性化するため」

三つ目は、「自分の大学時代の後悔をさせないよう、
そのためのアドバイスをするため」

であった。

しかし、この狙いに大きく反し、その大学生は、出発から僅か3分で居眠りを始めたのだった。

私からの話しかけには、一応返答するものの、
「1問1答」のような簡潔さで、会話が長続きしない。

車内に沈黙が続き、隣をみると、彼は目を瞑って寝ている。

そこで、彼に具合が悪いのか?昨日何時間寝たのか?
と聞くと、具合は悪くない。睡眠時間は4時間だったが、
本来必要な睡眠時間は6時間くらいだとのこと。

じゃあ何かやることがあって忙しくてそんなに短時間だったのかと聞くと、特に用事はなかったが、夜中に運動していたとのこと。

この回答に納得いかぬまま、目的地に近づいてきた。

目の前には絶景が拡がっている。
本来ならば、ここで盛り上がりたいところだが、彼は相変わらず寝ている。

私の中で、だんだんとモヤモヤした感情が拡がっていく。

確かに、このドライブを提案したのは私であり、
これは私の勝手な「よかれ」という考えであるため、
私の目的を彼に押し付ける訳にもいかない。

しかし、自分の祖母と一緒に楽しくドライブできる機会は、
もしかしたらこれで最期になるかもしれないということは想像してほしい。

少なくとも、何故自分がこのドライブに誘われたのか、
それはコミュニケーションするためであるという意図を察して欲しかった。

確かに、私は彼に対して自分達に付き合ってもらおうと考えていたのだが、付き合ってもらう立場だからと言って、ずっと寝られていては、

「色んな話しをして一緒に楽しい時間を過ごしたい」と期待していた方としては、非常に残念なことであるし、とても失礼な態度ではないか。

そう思い、彼には、その態度と予定に対する準備不足を嗜めた。

そして、これから大学生活や、将来就職して色んな人と付き合う中で、
その態度は大きくマイナスの評価を受けるであろうことを指摘した。

彼は、それを聴いたかどうかは分からないが、
その数分後もまた隣で船を漕ぎ始めていた。

ドライブを終えたこの日の晩、
こうしたモヤモヤがあったことを、ある方に話したら、

次のようなアドバイスをもらった。

それは、「相手を慮った表現」をするよりも、
「相手と同じ土俵に立ち、相手に同じ思いをさせること」
の方がいいということだ。

この場合には、もし自分が同じ事をされたらという
想像をさせるということか。

思い返してみると、私があの時彼に伝えた内容は、

将来、気分を害するであろう彼と関わる誰かの声を代弁しようという
「妙な正義感」と、まだ見ぬ相手からマイナスを評価を喰らわないように
という「慮り」を含んでいたのだった。

しかし、本当に私が伝えたかったのは、
その態度はとても失礼だということと、
そういう態度を取られた相手の立場を想像して欲しい、
という2点である。

確かにその方が正直だし、分かり易いし、説教臭くならない。

目上の者が目下の者に対して物申したくなる時というのは、
つい「自分は中立的で分別がある」という上から目線の前置きをしたがる。その結果、「相手を慮った物言い」となってしまうのだろう。

しかし、それは自分の本心とは乖離した内容となる。

自分の本心は伝えようとせずに、相手の欠点を指摘するというのは、
自分は安全な場所に位置して、相手を非難するということでもあり、
自己保身的である。

だから、相手に伝わらず、それでいて正論なので相手の中にも
それを受け取らざるを得ない負い目が残ってしまう。

昭和世代では、そういう「分別のある感じ」の説教で十分に通用したし、
理性と知性ある大人を演出できていたわけである。

しかし、改めて見て見ると、やはりどこか狡さがある。

要は、双方にとって、不完全燃焼なコミュニケーションであり、
それがモヤモヤした感覚を残す原因となっているのだろう。

最初は、この「居眠り事件」は、
「彼の問題」としてその態度を非難する方向で
私の中に位置づけられていたが、

このアドバイスの御蔭で、彼の問題を一旦切り離し、
自分の課題にフォーカスすることができた。

これは世代間ギャップという現象も含んだ出来事かもしれないので、
この事件だけに限らず、モヤモヤすることに遭遇するかもしれない。

だからこそ、「相手を慮る表現で本心を誤魔化す」という
自分の中の狡さに対して向き合えたことは、とても大きな収穫であった。

そして、この大事な気づきを私が得るために、
彼は居眠り役を果たしてくれたのだと思えば、
割と簡単にこの大学生を許せそうである。

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