「左利き用トランプあります」海外からも客◆身近な不便に応えた店主の思い【時事ドットコム取材班】(2022年07月21日10時00分)
相模原市に、左利きの人向けの商品を数多く取り扱っている文具店がある。棚に並んだ商品はおよそ100種類。評判を聞いて海外から客が訪れることもあるというが、日本人の多くは右利きな上、そうそう買い替える品物とも思えない。左利き向けに力を入れる理由はどこにあるのだろうか。「自身は両利き」という店主に聞いた。(時事ドットコム編集部 谷山絹香)
左利きグッズが約100種類
JR相模原駅から歩くこと約15分。商店街の一角にその店はあった。1973年出店という「菊屋浦上商事」の中に入ると、奥から「いらっしゃいませ」と明るい声がする。ノートやボールペンなどの文房具が所狭しと並んだ店の奥から顔を見せたのは、3代目店主、浦上裕生さん(46)。あいさつをすると、「最近の小中学生は文房具屋に来たことがないそうです」と笑った。
左利き用グッズを集めたコーナーは、入り口のすぐ近くにあった。定番のはさみやカッターはもちろん、左利きの人が注ぎやすいように持ち手が左側に付いた急須や、注ぎ口が右側にあるお玉、刃が一般的なものと逆に付いた草刈り鎌、果てはトランプまで並んでいる。
はさみだけでも、工作用から裁縫用、医療用などさまざまだ。マドラーは右利き用と何が違うのかよく分からなかったが、反時計回りにかき混ぜる左利きの人が使いやすいよう工夫されているのだという。急須は、脳卒中などで右半身が不自由になった人の家族が買っていくこともあるそうだ。
サンプル品も多く展示されており、買い物客は手に取って使い勝手を確認することができる。「やっぱり触ってみないと、物の不便さや使いやすさは分からない。100分説明するより1秒触ってもらった方が早い」と浦上さん。「触って体験できるところは、世界で探してもうちぐらいじゃないかな」と話す。
きっかけは弟のけが
店内に左利き用グッズコーナーが設置されたのは1995年。左利きの弟が紙工作で右利き用カッターを使い、誤って手を切ってしまったことがきっかけだ。店で左利き用カッターを売っているのに、息子に与えていなかったー。店主だった母の幾久子さんが、自分を責めると同時に「左利きの文房具を欲しがっている人は、実はいっぱいいるんじゃないか」と考え、コーナーを常設したのだという。
海外客も
「急須が使いにくい」「扇子をうまく開けない」。利用客やインターネット上の声を受け、2000年、日用品も取り扱い始めた。その後、英語で左を意味する「レフト」にちなみ、0・2・10が並ぶ2月10日を「左利きグッズの日」として「日本記念日協会」(長野県佐久市)に申請・認定を受けるなどして左利き用品の認知度を高めていった。
すると、「あそこで左利き用のカッターやはさみが売っている」と口コミが広がり、全国から問い合わせが来るように。メディアに取り上げられ、テレビ番組で一瞬だけ映った草刈り鎌を見た人が店に電話をかけてきたこともあった。新型コロナウイルスの感染拡大前は中国やドイツなどからも買い物客が訪れ、ブラジルから来た家族はカッターや急須、はさみなどをまとめ買いし、「ブラジルでは左利きの道具はほとんどない。ネットで左利きの道具を調べているうちに、この店にたどり着いた」などと話したという。