AIはイラストレーターの敵?殺到した批判、開発側の思い【時事ドットコム取材班】(2022年09月13日08時00分)
人工知能(AI)が「画風」を学習し、そっくりなタッチでイラストを描いてくれるー。そんなサービスがSNS上で物議を醸した。あくまで自分のイラストを模倣させることを想定したものだったが、多くのイラストレーターが懸念を表明。サービスは公開翌日に停止に追い込まれた。創作を助けてくれるはずのAIはなぜ敵視されたのか。開発企業を訪ねた。(時事ドットコム編集部 太田宇律)
画風学習、最短2時間で
問題になったのは、従業員約20人のIT企業が開発した「mimic(ミミック)」。キャラクターのイラストをアップロードすると、AIが画風を覚えてさまざまなキャラの顔を描くサービスだ。学習に必要な「見本」は最低15枚で、多いほど再現度が高くなる。サーバーの混み具合にもよるが、AIは最短2時間ほどで画風を学ぶことができるとされていた。
ミミックのガイドラインは、他人の絵を無断で学習させる行為を禁止しており、AIによって生成されたイラストの権利は、学習元となった絵の描き手に帰属するとしている。生成された絵には、ミミックで作られたことを示す「透かし」が入る仕組みもあった。
「さっさとつぶれろ」
創作の参考にしたり、できた画像をファンにプレゼントしたりすることを想定したサービスだったが、SNS上で情報が公開されると、イラストレーターを中心に波紋が広がった。
最大の懸念は、他人の絵を勝手にアップロードし、できた画像を不正利用する人物が現れるのではないかということ。ツイッター上では「絶対に悪用される」「AIを使った盗作がはびこる」といった声が相次ぎ、多数のクリエイターが自分の作品をアップロードしないよう次々に表明する事態に発展した。
こうしたAIが登場すると、誰もイラストの仕事を依頼しなくなると危惧する投稿もあった。「さっさとつぶれろ」「絵師の敵」ー。運営企業だけでなく、PRのために絵を提供したイラストレーターにも批判が相次ぎ、ミミック公式ツイッターは公開翌日、「不正利用を防ぐ仕組みが不十分だった」と謝罪。サービスをいったん停止し、対策を取った上で正式版を公開すると発表した。
役立つAIアシスタントを
開発したIT企業「ラディウス・ファイブ」(東京都新宿区)はネット上の反応をどう受け止めているのだろうか。広報などを担当する取締役、渡部玲児さんに話を聞いた。
渡部さんによると、ミミックの開発がスタートしたのはおよそ1年前。「これまでに開発してきた画像編集ツールとは違う、クリエイターのもとで新しい価値を提供できる『AIアシスタント』を作りたい」。そんな思いから、社内エンジニアが中心となってプロジェクトを進めてきた。
「トライ・アンド・エラー」を重ねる中で誕生したのが、ミミックだった。実際にイラストレーターに試してもらうと、「自分の絵柄だと分かる」「面白い」と好意的な意見が寄せられた。しかし、PRに協力してくれたイラストレーターにも批判の矛先が向けられ、渡部さんは「クリエイターに役立つものをと思って開発したのに、逆に傷つけるような結果になってしまった」と悔やむ。
「一番の反省点は、クリエイターが安心して使えるような不正防止対策が甘かったこと」。当初はアップされた画像を社員が全てチェックする構想だったが、公開初日、想定の10倍を超えるアクセスがあり、目視でのチェックは難しいと分かった。ミミックで生成できるイラストの完成度は「本人の絵を100点とすると、まだ70点くらい」だが、「クリエイターに取って代わる万能なAI」というイメージが広がったことも想定外だったという。
AI作品は誰のもの?
ミミックに対する批判の中には、「画風を誰かに盗まれるのではないか」「作品の権利を奪われるのではないか」と危惧するものも多かった。イラストとAIをめぐる権利関係はどうなっているのか。ウェブ上の著作権侵害に詳しい中島博之弁護士に話を聞いた。
進化するAI、フェイク被害も
ミミックを開発したラディウス・ファイブの社名は「半径(RADIUS)5メートル」を意味し、「手が届く範囲の人たちの役に立ちたい」という素朴な思いが込められているという。前出の取締役、渡部さんは「インターネットが登場したとき、これで何ができるのかと聞かれても『きっといろいろできる』としか言えなかった。画像生成AIも、どう人の役に立つか分かるのはまだこれから。ユーザーと一緒に、創作活動に役立つものを作り上げていきたい」と話す。