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おさかな天国?「タマゾン川」◆熱帯魚なぜ生息【時事ドットコム取材班】(2022年06月16日10時00分)

 東京都と神奈川県の境を流れる多摩川で、本来生息しないはずの熱帯魚や大型肉食魚などの外来魚が次々と見つかっている。南米アマゾン川になぞらえ「タマゾン川」という言葉も生まれたが、河川の「アマゾン化」は多摩川に限らず、各地で進んでいるという。なぜ日本の河川に熱帯魚が生息するのだろうか。生態系に影響はないのか。(時事ドットコム編集部 横山晃嗣

 【時事コム取材班】

ガーが釣れる川

 「バスっ子!バスっ子!」―。2022年5月30日午後、多摩川の二ケ領上河原えん堤下流で生息する魚の生態調査を行っていた淡水魚研究家、山崎愛柚香(あゆか)さん(29)=川崎市=が興奮気味に叫んだ。胴長姿で浅瀬をざぶざぶ進み、逃げるブラックバスの稚魚を玉網に追い込む。俗に「バス」と呼ばれるオオクチバスとコクチバスは、雑食性で食欲が旺盛だ。在来種の魚やエビ、昆虫などを捕食して生態系に深刻な影響を与える恐れがあるため、特定外来生物に指定されている。稚魚は逃げたが、山崎さんは近くに産卵場所があると分析した。

 調査地点の十数キロ下流で、同じく特定外来生物のロングノーズガーを釣った人もいる。成長すれば全長約2メートルに達する北米原産の大型肉食魚で、21年7月に釣り上げた30代男性=同=は「うわさには聞いていたが、本当にいるとは思わなかった」と語る。

多摩川に生息する魚を調べるため、網を打つ山崎愛柚香さん=2022年5月30日、川崎市

 多摩川は、かつては「死の川」と言われた。1960年代の高度経済成長期には産業排水と家庭排水で水面が泡立つほど汚染されていたが、下水道整備などで水質が改善。90年代には推定で百万匹、2012年には1194万匹のアユが遡上(そじょう)するまでに。数は年によって大きく変動し、21年は32万匹にとどまったが、今年も250万匹が川を遡った。02年にはアゴヒゲアザラシ「タマちゃん」も人気を博している。

 山崎さんによると、現在、多摩川には約200種類の魚が生息する。だが、その4分の3は熱帯魚などの外来種だ。「グッピーやエンドリケリー、レッドテールキャットフィッシュなどペットショップに売っている魚はほぼ全て見つかっている」という。男性が釣ったロングノーズガーも「飼育していた誰かが、大きくなるなどして飼いきれなくなり、多摩川に放した可能性が高い」と話した。

越冬できる?

 しかし、グッピーなどの熱帯魚を飼育するには温度管理が重要なはずだ。東京でも冬には雪が降る。冬を越えて生き続けられるのだろうか。

2002年8月16日、東京都大田区の多摩川で撮影されたアゴヒゲアザラシの「タマちゃん」

 国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室の五箇(ごか)公一室長(57)によると、冬場の水温が5度以下まで下がる多摩川でも、生活排水がたまりやすいエリアでは15度前後で維持される。「下水処理施設は水質を良くすることはできても、水温を下げることまではできない。排水で温かい水が入り込むところには、外来魚が住みやすい環境が生まれる」と解説する。

 東京都下水道局によると、処理場から多摩川に流れる排水の平均温度は夏場で27度、冬場で18度前後。担当者は「生活が便利になり、お湯を使うことが当たり前になったことで、昔と比べて温度が上がっている」という。

駆除は

 五箇室長は「外来種は生態系が人の手でゆがめられ、在来種が弱まったところに侵入しやすい」と話す。侵入した外来種が生態系に溶け込んでしまっているケースも多く、「一種だけ駆除してしまうとバランスを崩し、ほかの外来種が爆発的に増えることもある。管理や駆除は、生態系がどうなっているのかを考えながら科学的に行う必要がある」という。

 魚ではないが、外来種が人間の役に立っているケースもある。餌を集めるのが上手なセイヨウオオマルハナバチは、在来種の餌も奪ってしまっているものの、トマト農家が受粉に利用している。五箇室長は「外来種がもたらす影響に注目し、今ある人間社会と自然との関わりを考慮して駆除するのか、減らすのか、あるいは利用するのか考えないといけない」と語る。

後半では家庭で飼育できなくなった熱帯魚やコイ、カメなどを引き取り、新しい飼い主を探す「おさかなポスト」という取り組みを紹介します。犬や猫の里親を探す活動の「魚版」。預けられたケヅメリクガメやウーパールーパーの写真も掲載しています。

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おさかな天国?「タマゾン川」◆熱帯魚なぜ生息(時事ドットコム)