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進む「共学化」伝統校も◆令和の教育の形【時事ドットコム取材班】(2022年06月09日10時00分)

 男子高校、女子高校が急速に減少している。少子化などを背景にした流れで、「共学化」に生き残りを懸けた高校が多いとみられるが、「歴史と伝統」が重荷になり、閉校を決めたケースもある。男女平等の考えも広まった令和の時代、男女別学校は消える運命なのだろうか。(時事ドットコム編集部 谷山絹香

 【時事コム取材班】

進むリニューアル

 「よろしくお願いします!」。青色のユニホームに身を包んだ「光英VERITAS高等学校」(千葉県松戸市)の野球部員50人が、真新しいバックネットが設置されたグラウンドに一礼し、一斉に駆け出した。はつらつとした男子生徒が走り回る姿は昨年度に入るまで見ることのなかった光景だ。そう、同校は21年3月まで「聖徳大付属女子高等学校」だったのだ。

光英VERITAS高校野球部の練習風景=2022年5月26日、千葉県松戸市

 校名を改めた昨年春、1983年の創立以来初の男子生徒47人が入学。制服は地元で「かわいい」と評判だったセーラー服から、男女で統一できるブレザーに変わり、女子生徒はスカートとスラックス、好きな方を着て登校できるようになった。野球部のほか、サッカー部、ディベート部などが新設され、これまでは女子のみだったバドミントン部に男子生徒が入部した。

 川並芳純校長は「学校に新たに一色が加わった。彼らの将来が楽しみです」と笑顔を見せる。

女子高は4割減、男子高は半分以下に


 文部科学省が実施する「学校基本調査」によると、国立・公立・私立を合わせ、21年時点の男子のみが通う高校は98校で、01年の203校から51.7%減った。女子のみが通う高校は21年に281校。01年(503校)比44.1%減だ。男女が通う高校(01年4634校、21年4371校)も減ってはいるが、減少率は5.7%にとどまっている(学校数は本校のみ、分校を除く。以下同)。

 男女別高校が多い私立校に限って比較してみた。01年に169校あった男子だけが通う私立高校は、21年には84校に、女子だけは394校から249校に減っており、減少は男子・女子合わせて230校に上った一方、男女が通う私立高校は744校から974校に増えていた。増加分は男女別高校の減少分と同じ230校だ。統廃合もあり、一概には言えないが、男女別だった私立校が共学校へと「リニューアル」を進めたことがうかがえる。

◇伝統校も免れず

 教育とジェンダーに詳しい昭和女子大の友野清文教授(教育学)によると、私立校で共学化が進む最大の要因は、終わりの見えない少子化だ。私立は入学者数を確保できなければ、経営が厳しくなる。閉校せざるを得なくなる前に、生き残りを図る動きが進んだという。

 難関私大や海外大に多くの合格者を輩出する東京都内有数の進学校として知られる「広尾学園中学校・高等学校」(港区)も、そんな学校の一つだ。もともとは明治時代の自由民権運動指導者で、「板垣死すとも自由は死せず」の言葉で有名な板垣退助や妻・絹子らが1918年に創設した「順心女学校」。同校によると、最盛期の1980年代には1800人を超える生徒が在籍していたが、2003年には486人まで減少した。

国会議事堂中央広間に立つ板垣退助の銅像=2008年1月24日、東京・国会内

 同校は創立90年を目前にした07年に共学化し、校名を変更。入学希望者向けの説明会で「進学校になる」と宣言した。「腹をくくるしかない」(同校関係者)と覚悟を決めた伝統校のリスタート。反発も予想されたが、「消滅するよりは残ってほしい」と、むしろ後押しされたという。

歴史が重荷に

 伝統が重荷になったケースもある。1963年に開校した「札幌聖心女子学院中学校・高等学校」(札幌市)は2021年10月、23年度以降の生徒募集を取りやめ、25年3月末に閉校することを決めた。定員は1学年80人だが、21年度の入学者は中学が17人、高校が34人で、現在の在校生は中・高合わせて134人。かれこれ10年以上、大幅な定員割れが続いている。

 1学年当たりの生徒数が少なくなると、人間関係も固定化する。同校関係者は「何とか、1年でも長く続けたかった」と語ったが、校内には共学化を探った文書は残っていない。1908年に来日した修道女らが設立した財団法人「私立聖心女子学院」(現・学校法人「聖心女子学院」)の流れをくんでおり、「女子教育を進めてきた歴史が長く、女子校としてのイメージが強かった」という。

共学化は私学ばかりではありません。21年の男子だけが通う高校は01年比20校減の13校、女子だけの高校は同77校減の31校でした。ただ、共学化が進む背景に、私学とは別の事情もあったようです。後半で取り上げます。

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