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【バイトテロ論評】 バイトテロを採点する


 僕はバイトテロが好きだ。

 彼らの犯してしまった愚かな行為は、彼らの手によってネット上にアップロードされる。それは恐らく100年後、200年後もネット上を漂っているのだろう。今生きている人が全員死んだ後の世界でも、彼らの遺したバイトテロは暗い世界を彷徨い続ける。まるで自分の安眠の地を探すかのように。


 今回は、バイトテロ好きな僕が自分なりの視点でバイトテロを論評、採点してみた。
 ぜひ、皆さんも付けているであろう採点表を手元に、照らし合わせながら楽しんでいただきたい。

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弁当屋アルバイト【冷蔵庫入り】

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 弁当屋で起きたバイトテロ。アルバイト店員が6月の暑さに耐えきれず冷蔵庫に入り、それを仲間が撮ったものと思われる。

 まず非常に分かりやすくて良いと思う。パッと見た時に「人が入るべきでない場所に入っている」とすぐ思えるため、バイトテロ感は感じやすい。素人にもできる「入るだけ」の楽々簡単なバイトテロだと言える。リスクもそれほどなく、何かを汚したり破損させたりという取り返しの付かなさもあまりない。

 だが、いまいちインパクトに欠けるところは見逃せない。これでは男が冷蔵庫に入っているだけになってしまう。もう少し派手さが欲しい。例えば動画にするとか、入るシーンと出るシーン、それぞれセリフを付けるなど、バイトテロに必要不可欠な「暴れ感」を出すための工夫はいくらでもできたと思う。

 やはり良いバイトテロというのは「誰が見てもバイトテロ」でなくてはいけない。

 だが、彼の優秀な点はツイート本文を「今日暑くね?」という簡潔なものにしているところだ。これはとても好感が持てる。行為が派手ではなく、明らかな「暴れ」ではないということを本人も自覚しているのだろうか、この本文によってバイトテロ全体のバランスが保たれている。

 例えばこの本文が「今日暑すぎて冷蔵庫で涼んだわ笑」「バイト先涼しくて最高!」といった押し気味の文章だった場合、行為のイメージから逸脱してしまい空回ってしまうためダメ。

「今日暑くね?」あくまでも彼自身にとっては日常的な行為をしているのであって、おかしな点はこちら側が勝手に見つける、こちらにおかしさを見つけさせる「引き」の技術だ。欲を言えば、文章を一切書かずに、冷蔵庫に入っている画像のみをアップするのでも良かったのかもしれない。受け手を選ぶバイトテロにはなるが、万人受けを狙い中途半端になるよりは、詩的な方向へ持って行って欲しかったという気持ちもある。


 総評【60点】非常にバランスの取れたバイトテロだと思うし、彼の真面目な性格もしっかりと出ている。ただやはり「バイトテロだなぁ!」と唸らせる強さがないと評価は伸びにくいのかもしれない。また、バイトテロ界隈の地盤(拡散、炎上など)が固まっていない2013年のバイトテロということで、行為事態に勢いが感じられなく、彼と身内だけのパーティーギャグになってしまっているところが惜しい。ぜひ、8年越しの挑戦をお願いしたい。


🍢

コンビニアルバイト【しらたき食う】

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 コンビニで起きたバイトテロ。アルバイト店員が仲間に動画を撮影してもらい、商品のおでん「しらたき」を食う。売り物であるおでんを無銭で、しかも勤務中に食うという、法律的にも衛生的にもアウトなバイトテロだ。

 まず、彼の笑顔がすごくいいと思う。バイトテロを楽しんでいる感じがよく伝わってくる。バイトが終わった喜びを仲間と分かち合い、勝利のおでんを食う。そのパッションや高揚感が伝わってくる。

 スポーツ、音楽、勉強、何をとってもそうだが、やっている本人が楽しんでいないと全く意味がない。だるそうにめんどくさそうにバイトテロをされても、見ているこっち側には何も伝わってはこないのだ。

 その点、彼の笑顔はとても良い。笑顔に嘘がない。

 そして、肝心の「おでん食い」だが、おでんの具を「しらたき」にしているところがとても良い。これは彼のチョイスなのだろうか? 動画を見る限りは誰かに指示されたわけではなく自分で選んで食べているように見える。これが彼のチョイスなのかどうか判る方がいたら教えて欲しい。

 「具」というのは非常に大事で、例えばこれが煮卵だとあまりにもふざけすぎるし、餅巾着や牛すじだと普通の食事になってしまう。大きく口を開けて何かに噛み付いていく。というこの野生的でダイナミックな動き「テロだな!」という感じを実現させるのは、しらたきかはんぺんのどちらかなのだ。手前のはんぺんでも良かったんじゃないか。と思わせるところもあるが、まあでも物体感というか、箸で持った時の重力のかかり方的にはしらたきが順当だろうか。

 だが、非常に残念なことに、彼はしらたきを最後まで食べず箸を置いてしまう。これはもったいない。これではただ食材を無駄にしただけだ。どうせなら鍋の中を空にする勢いですべて平らげて欲しかった。完食は無理だとしても、それぐらいの姿勢を見せていれば点数はもっと高かったと思う。


 総評【68点】行為自体の完成度は低い。が、まあバイトテロを楽しんでいる感じは伝わってきた。ただし、しらたきもまともに食わず、箸を置いた後、お笑い芸人のギャグをそのまんまやり、カメラに背を向けてタバコを触ったりする。正直言って、ただふざけているようにしか見えない。

 威勢だけあって、他は何もかも中途半端というのはあまり評価できない。もちろん「ただ暴れたい」というのがバイトテロの本質ではあるのだが、編集されない短い動画というコンテンツの性質上「暴れ」の中にもある程度の規範がなければ、受け手を満足させるのは難しい。リスクを恐れずに突き進んだことは評価したい。

 若気の至り。映画や小説など、もう少し他の知識も吸収してバイトテロに役立てて欲しい。今後に期待。


👽

レストラン【下半身露出】

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 レストランで起きたバイトテロ。宇宙人のマスクを被った従業員が下半身を露出させ、右手を横に広げて軽いダンスを踊る。

 んー。

 正直見ていて良い気分にはならない。行為の大胆さからして開店前か閉店後の客がいなくなった安全な時間帯でのバイトテロと思われるが、いくらでも暴れられる状況でやることが、なぜ「宇宙人のマスクを被って下半身を出す」なのだろうか。

 まず宇宙人のマスクで顔の表情を隠しているところが嫌い。バイトテロの醍醐味は暴れている従業員の笑顔や幸せそうな表情であるはずだ。マスクを被られてはそれを評価する術がない。

 そして下半身を出すという行為。こう言っちゃ悪いが、彼は誰にでもできることをしているだけだ。下半身(性器)は生まれ持った体の一部であり、彼の特権ではない。さらにそれを出す行為が暴れだと思っている点が好ましくない。性器を露出することが問題であるのは、それを社会が問題にするからであり、彼のバイトテロは「社会ありきのバイトテロ」と言わざるを得ない。ハナから自分の実力だけでバイトテロを起こそうという気がないのだ。

 オマケにこの「なかなかやばい😂」という投稿者のコメント。

 自分たちでも「なかなかやばい」程度の評価しかできないバイトテロを他人に見せることが失礼だと思わないのだろうか。こちらは「なかなかやばい」ではなく「やばい」を求めているのだ。


 総評【10点】ふざけているだけ。勤務中にこういった行為をし、それをSNSに投稿することが、店を利用する客に不快な思いをさせ、店舗や企業に多大なる迷惑をかける事になると、なぜ分からないのか。こんなものバイトテロではない。ただの迷惑行為だ。こんなものは新年会の隠し芸大会でやっていればいい。本当は0点をつけたいが、情けない彼らへの同情の10点。

 もう二度とこんなことをしないで欲しい。


🍚

牛丼屋【おたま股間当て 氷投げ】

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 牛丼屋で起きたバイトテロ。一人が床にひたすら氷を投げつけ、一人がおたまを股間に当て、それを仲間が撮影している。最後に「ヤバこれ絶対クビ」と言って終わる。

 まず、彼らが他のバイトテロと明らかに違っているのは「自分たちが何をしたいのか」「どういうバイトテロを理想としているのか」が明確に示されているということだ。このバイトテロでは一人が氷を床に投げつけ、一人がおたまを股間に当てる。というふうにそれぞれの役割がきちんと分けられている。もちろん撮影者とも意思の疎通ができており、二人の動きとカメラワークの間には少しのズレも感じない。

 さらに、これは動画を見ていただければ分かると思うが、一人が氷を2個投げ、一人がおたまを股間に当てるという作業を僅か7、8秒間でやり遂げている。おそらくリハ無しの一発撮りだと思うが、相当なチームワーク、そして何よりもバイトテロをみんなで作り上げようという強い熱意みたいなものがなければここまで完成度を上げることはできない。少なくともただふざけているようではこのようなものはできない。

 少し技術的な話をしたところで中身の話に移ろう。

 まず、3人とも楽しんでいるのがいい。それこそまさにバイトテロの真骨頂だ。そして彼ら自身が持つスピード、カメラが移動するスピード、氷を投げるスピード、おたまを股間に当てるスピード。全てのスピードが最高の状態で行われることで、バイトテロ全体にダイナミズムが生まれ、まるでアクション映画の一幕を見ているように思えてくる。

 さらに、そのスピードに乗ることで「ヤバこれ絶対クビ」というセリフに臨場感が感じられるし、画面上の「くびかくご」という言葉の真実味、リアリテイが強くなる。

 こいつら本当にクビを覚悟してるんじゃないか。と思わせられるのだ。

 考えてみれば、これまで日本でバイトテロを起こした人の何割が本気で「くびかくご」していただろうか。入ってはいけないところに入ったり、食べ物で遊んだり、不衛生なことをしたり。なんのリスクも背負わずに行われるバイトテロ。その場で楽しむためだけのバイトテロ。

 結局はただ仲間内でふざけている動画をSNSにアップしているだけじゃないか。

 それでバイトテロだなんて考えが甘いのではないだろうか。

 バイトテロをするのであれば、「くびかくご」で氷を床に投げ付け、「くびかくご」でおたまを股間に当てなければならない。彼らはそんなメッセージさえもこの7秒間に含ませたのだ。

 大きな成功を手に入れたいのであれば、大きなリスクを背負う必要がある。リスクを背負うのが怖いのであれば成功を手に入れるのも諦めなければいけない。それはルールではなく摂理なのだ。

 僕には彼らがそう言っているようにさえ感じた。


 総評【91点】質、量ともにハイレベル。大満足。自分たちが楽しむこと、好き勝手暴れるという本質を失うことなく、魅せるバイトテロを起こした彼らを称賛したい。「くびかくご」というリスクと引き換えに行われるバイトテロ。行為のスピード感や勢い、引くに引けない彼らの魂がバイトテロに込められている。
 残りの9点は次なる希望のための余白。今後、より素晴らしいバイトテロを起こしてくれることを期待している。

💯

 ということで、今回は4つのバイトテロを論評した。

 皆さんの評価とは異なる部分、納得できない採点もあったかもしれないが、ご容赦いただきたい。

 まだまだ他にも期待の持てるバイトテロがたくさんあるので、今後もバイトテロ論評を続けていこうと思う。


バイトテロに光あれ。


渡辺浩平




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