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神戸クラシックコメディ映画祭2021レポ(2)


1月10日(日)神戸映画資料館

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クラコメ映画祭2日目からは、神戸映画資料館に会場を移しての上映です。

2日目は上映する3プログラムともに、早くから予約をいただいており、注目度の高さを感じていました。座席を半数に制限したためすぐ完売に。ご予約いただけなかったみなさん、本当にごめんなさい。


迎春!ニッポンの喜劇『エノケンのとび助冒険旅行』

2日目は日本のコメディからスタート。これまでリクエストの多かった喜劇王エノケンがついにクラコメに登場しました。

エノケン画像国際放映

画像提供:国際放映


戦で荒廃した都で出会う人形遣いのとび助とお福ちゃん。母と別れて笑いを忘れたお福ちゃんと、算術ができなくなったとび助が、日本一のお山にある不思議な果実と、そこに住むお福ちゃんの母親を探して旅に出る物語です。

徳川夢声の訥々とした語りが、おとぎ話の世界に誘ってくれます。

監督は、エノケン喜劇を何度も手がけた中川信夫。この作品はドタバタ喜劇というよりも、こどもたちをワクワクさせるために作られた怪奇風味の強いファンタジック・コメディです。

全編セットを組んで撮影されていて、鬼たちの住む国や、蜘蛛の妖怪が住む地下世界など、美術がかなり作り込まれているのに驚きました。とび助とお福ちゃんが助け合って困難を乗り越えていくバディ・ムービーでもあります。

抑制のきいた演技ながら、やはりエノケンが登場すると画面がパッと華やぎます。これぞスター、これぞ喜劇王!

歌声も披露していて、新年をエノケンの歌で始められることに幸福感を感じずにはいられませんでした。


映画に愛をこめて 『活動役者』

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クラコメ2021のイチオシプログラムのひとつ(いえ、ほんとは全プログラム推しでしたが)。

マリオン・デイヴィス主演『活動役者』(Show People 1928)を上映できたことは、大きな喜びでした。しかもフィルムで!

映画の舞台裏を描く作品は無数にあります。もちろん無声時代からすでに山ほど作られていました。

ヒロインが映画界に憧れて女優になるというストーリーは、メーベル・ノーマンド主演『臨時雇いの娘』(The Extra Girl 1923)や、コリーン・ムーア主演『微笑みの女王』(Ella Cinders 1926)でも描かれています。

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それらの作品とメインプロットは同じながら、映画界のセルフパロディとしても、ショービジネスの風刺や人間ドラマとしても、『活動役者』は抜きん出ています。キング・ヴィダー監督の手腕が冴え渡っています。

キーストン流のドタバタ喜劇へのオマージュが楽しく、実際にキーストンスターだったハリー・グリボンがマック・セネットを思わせる喜劇監督をうまく演じています。

ジョン・ギルバート、ダグラス・フェアバンクス、ウイリアム・S・ハートら大スターたちのカメオ出演も実に華やか。素顔のチャップリンがスクリーンに登場した時は場内がどよめきました。

いくら映画とはいえ、チャップリンを「あの小男」呼ばわりできたのはマリオン・デイヴィスだけだったかも。彼女は新聞王ウイリアム・ランドルフ・ハーストの愛人として有名です。

ハーストをモデルにした名作『市民ケーン』に、酒浸りで才能のない女優スーザンが登場します。このスーザンのキャラクターが、マリオン・デイヴィスを下敷きにしていると長年信じられて来ました。そのため、マリオン・デイヴィスも「ハーストのコネだけで映画に出ていた大根役者だった」というのが通説でした。

でも、それがまったくの間違いだということを、今回『活動役者』を観たみなさんは実感したはずです。

スキャンダラスなイメージだけが先行して、マリオン・デイヴィスの真の才能が無視され続けてきたのは、あまりに不公平と言わざるをえません。

2000年代に入って、ドキュメンタリーが作られたり、作品がソフト化されたりと、マリオン・デイヴィスの再評価はようやく始まったばかり。日本ではまだまだ知られざる存在ですが、今回の『活動役者』上映が、状況を変えるきっかけになればと願っています。

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併映の『紫恋狂乱』は、神戸映画資料館所蔵の貴重な日本の無声作品。時代劇と思いきや、カメラが引いていくと向こうから撮影クルーがやって来て・・・と、洒落た演出が目を引きます。

資料館のフィルム調査によって、作品名と制作会社(賀古プロ)が最近特定されたのですが、制作年や監督などの詳細はなお不明。今後の調査でさらにくわしいことが明らかになるのを楽しみに待ちましょう(情報をお持ちの方は神戸映画資料館までご連絡を!)。

このプログラムで演奏を担当してくれたのは、活躍めざましい無声映画演奏家・鳥飼りょうさん。パイ投げシーンでローレル&ハーディのテーマ曲のモチーフをちらっと聴かせてくれるなど、配慮のゆきとどいた伴奏を堪能しました。

マリオン・デイヴィス扮するヒロインが、シリアスドラマの撮影中にどうしても泣けず、セットにいる楽士に「泣ける曲を演奏して!」と要求する笑える場面があります(無声時代はムードを盛り上げるためミュージシャンが撮影現場に待機していました)。

英語字幕ではHearts and Flowersという具体的な曲名が挙げられていました。日本語字幕には反映できなかったところを、なんと鳥飼さんはわざわざ原曲を探して、伴奏に生かしてくれました。

まさに楽士さんとのコラボで無声映画が生命を得た瞬間!

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鳥飼さんが使っていた楽譜を許可を得て撮影させてもらいました。

鳥飼さん、ありがとうございました。

無声映画振興会HP で無声映画上映会の予定をチェーック!(鳥飼りょうさん主宰です)


奇想の喜劇 チャーリー・バウワーズ特集

今年のクラコメで最大のヒットとなったプログラム。資料館の田中支配人に「今回のMVP」とまで言わしめたチャーリー・バウワーズが、2日目最後に登場しました。

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画像提供:Flicker Alley

チャーリー・バウワーズ(バウアーズ、ボワーズ等の表記もあり)。生年はいまだ不詳。アメリカのアイオワ州の生まれで、舞台の美術や新聞の漫画作家などの職を経て、1916年頃から人気アニメーション映画「マット&ジェフ」の制作に関わる。

1920年代に入ると、彼の興味はストップモーションアニメに移ります。ハロルド・ミュラーという英国出身のカメラマンと共にプロダクションを立ち上げて、自身が主演もする実写短編喜劇を撮り始めたのが1924年。

それから1941年までの間に、ストップモーションアニメと実写を融合した19本のとんでもなくユニークな喜劇映画を制作しました。フランスでは「ブリコロ Bricolo」(日曜大工、修理屋の意)の愛称で親しまれ、プリントの多くがフランスなど欧州で発見されてきました。

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バウワーズ作品を観た衝撃を、多くの方がSNSにあげてくださっています。

初めてバウワーズ作品を観たときの衝撃は、わたしも忘れられません。それから6年あまり、こうしてスクリーンで上映できる日が来るとは。きちんとした形で紹介できたのは、もしかして日本で初かもしれません。

特筆すべきは、この上映に柳下美恵さんがライブ演奏をつけてくださったこと。昨年25周年を迎えた大ベテランの柳下さんも・・・

「途方もない想像力」「ぶっ飛んでる」「パンクなコメディアン」と驚愕、絶賛。

映画のパワーに負けじと、アンデスという楽器やさまざまなガジェットを電子ピアノにプラスして、大奮闘してくれました。資料館の事務室に置いてあったベルを急きょ即興で使うなど、最後まで工夫を重ねる姿はさすがプロフェッショナル!

まさに「ぶっ飛んだ」バウワーズの宇宙と音楽が見事なまでに融合し、唯一無二の素晴らしい上映となったのです。

柳下さん、ありがとうございました。

また今回は、米国フリッカーアレイ社の協力で上映した4本の他に、神戸映画資料館所蔵のアニメ「マット&ジェフ」もデジタル上映しました。詳細不明作品として2017年の神戸発掘映画祭で一度上映されたものです。

「マット&ジェフ」シリーズは、原作者のバド・フィッシャー、アニメを配給していたフォックス社、いずれも著作権の申請をしておらず、オリジナルタイトルを参照するリストが米国議会図書館に存在しないため、原題を特定するのはほぼ不可能に近いそうです。

米国の研究者にたずねたところ、今回上映したマット&ジェフにチャーリー・バウワーズが関わっていた可能性はあり、資料館所蔵の35ミリフィルムは現存する唯一のプリントではないか、とのことでした。

アニメーション史の若い研究者の方もご来場になり、上映後に有意義な意見交換もできました。

チャーリー・バウワーズは、またなんらかの形で紹介していけたらと思っています。

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画像提供:Flicker Alley


レポは最終日へ続きます!


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