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【第25話】別れの時

観覧車を降りて、私と隆史(仮)は駅に向かう人の波に加わった。

2人とも手を繋ぎながら下を向き橋を渡った。

あやめ池の駅は奈良駅方面と生駒駅方面と改札も乗り場も別れている。

奈良駅方面に乗る私、生駒駅方面に乗る隆史。

橋を渡ってすぐの駅前広場に着いたとき、どちらからともなくベンチに座った。

私は改札に、隆史は改札脇にある地下道を降りて反対側に行く事になる。

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その改札を眺めながら、またボーッとしていた。

今日でお別れとも、これから頑張ろうなとも…何も言えずにいた。


これから私と隆史、どうなるんかな?


もし、この言葉が言えていたら…何か変わったかもしれん。

なぜそれが言えなかったのかは、距離に尽きる…と思う。

今までいつも一緒にいたから、次にいつ会えるかなんて不透明な約束に依存は出来なかった。

それが分かっていたからこその今日…

最初で最後のデートやったんやと思う。


夕陽が落ちて、暗くなり始めた頃。

チケット売場のおばちゃんが私と隆史を迷子と思ったのか声を掛けてきた。

「お父さんかお母さん待ってるの?」

2人して顔を振った。

手を繋ぎながら下を向く2人を怪訝そうな目で見ながら、おばちゃんは去っていった。

そろそろ限界か…。

時刻は20時になっていた。

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今ごろ、互いの親が大騒ぎしているかも。

警察に届け出たとしても、ここには辿り着けんやろうけど。


あと1分、

あと1分を繰り返した。

繋いだ手にギュッと力が入ったと同時に隆史が立ち上がった。

「帰ろうか…」

「…うん。」

目の前の改札、2人で切符を買った。


そして、ずっと繋いでいた手が離れた。


私はそのまま改札を抜け、隆史は脇にある階段を降りて反対側に。

線路を挟んだ反対側に隆史がいる。

どっちのホームに先に電車が来るんやろう、あと何分あるんやろう…

言葉を探しながら立ち尽くしていると、カンカンカンカンと音が鳴り響き自分がいるホームのアナウンスが始まった。

あたしが先か…

「ばいばい…」


聞こえるか聞こえないか絞り出した言葉。

隆史が手を振った瞬間、電車に目の前を塞がれた。

ドアが開き、乗ろうとしたけど足が動かなかった。

隆史に伝えたい言葉を伝えていない。

一番言わんとあかん言葉。

…白線の内側に戻った私を隆史が心配そうな顔をして見ていた。

電車が発車して、今度はちゃんと隆史の顔を見た。

隆史「どうしたん!?」



意を決して私は精一杯、声を絞り出した。


「ありがとう!

隆史、ありがとう!!」


少しビックリした顔から隆史はすぐに笑顔で答えた。


「俺も!ありがとう!!」


大好き、またな、元気で、さよなら…色々言葉はあるけど…

何よりも"ありがとう"

私の隆史への想いはこの言葉に尽きる。

隆史は電車に乗った。

互いに目を離さずに、見えなくなるまで手を振った。


隆史が見えなくなった瞬間、我慢していた涙がこぼれ落ちた…というより咽び泣いた。


家に戻ったのは22時くらい、どこをどう帰ったのか覚えていないくらい泣いて泣いて。

警察に届け出る寸前やったとか、どこにいってた、だれといたと捲し立てられたけどなにも言わなかった。

友達との別れが辛かったんやろうと折り合いをつけた両親を横目に私は段ボールが山積みの自分の部屋に閉じ籠った。

小学校の事を、隆史の事を思い出すものは段ボールのまま出さないでおこう。


もし、私が引っ越さないであのまま同じ中学に通って…そのまま大人になっていたら100%今は無いな…

かといってそれを望むわけではないけど。


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読んで頂きありがとうございました。

光と闇は表裏一体。


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