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【第16話】小さな命

スイミングの帰り道、いつものように隆史(仮)と歩いているとドブ川の縁に置いてある段ボールに気が付いた。

何やろう?

捨てている割には小綺麗な段ボール。

2人して川を覗き込んでいたら段ボールが少し動いたように見えた。

う、動いたやんな??

互いに顔を合わせた直後、隆史がヒョイっと縁に降りた。

そんなに高さは無いけど雨が降ると水かさが増えて降りれない位置にある段ボール、その日はたまたま晴れていた。


段ボールはガムテープで軽く留めてあるだけで、慌てるように隆史は引きちぎった。

キュゥ…ゥ

なんと仔犬。

私は隆史が持ち上げた仔犬入り段ボールを上から引き上げた。

重い…

登ってきた隆史と改めて中を見てみたら…

「3匹おるで…」

内訳は焦げ茶2匹に、茶色1匹。

隆史と私は、初めて捨て犬を見つけてしまったのである。

2人とも動物が好きなので、捨てたやつに対する怒りより先に可愛いなぁという感情で見ていた。

ソッと触れてみた。

動いてない…冷たい…固い…

焦げ茶の1匹は手遅れだった。

タオルも何もない段ボールの中で互いに寄り添い震えていた子犬たち。

段ボールは湿ったりはしていなかったと思う、いつからここに…

何より雨が降ったら増水して流される位置、処分する気で置いたのは明白。

目の前で死んでいる仔犬を目にしたら怒りが…

隆史も同じ気持ちだったと思う。

怒りの後に不安も押し寄せた。

「どうしよう」

残された2匹、このままじゃあかんのは子供の目にも明らかだった。

隆史はスイミングのカバンからバスタオルを取り出した。

私も慌てて取り出した。

2人とも乾燥室に長く入るためかバスタオルはほぼ乾いた状態。

生きている子をソッと取り出して互いのバスタオルで包んだ。

動く元気もないのか、大人しい。

2匹を私が抱えて、隆史は冷たくなった仔犬が入っている段ボールを近くの交番に持っていくと言い出した。

交番にいたお巡りさん、事情を聞いた途端に冷蔵庫から牛乳を持ってきてくれた。

そして裏で少し暖めてくれた、冷たい牛乳をあげたらお腹壊すからと。

(当時仔犬用ミルクはメジャーじゃなかった)

どうやら仔犬の扱いには慣れているようだった。

そして冷たくなった仔犬は電話して引き取りに来て貰うからと言った。

温い牛乳をお皿に入れて置いてみたら、2匹ともヨチヨチ歩き出した。

そして顔を突っ込むように飲み始めた。

よかったぁぁぁ…

隆史と私は、座り込んで飲む姿を見守った。

お皿が綺麗になった後は、お巡りさ仔犬をガシッと掴んでお尻をテイッシュでポンポン…

「こうやって、出してあげるんやでー」

ほうほう、なるほど。

食い入るように見ていたら、お巡りさんが言った。

「この2匹、どうするんや?飼うんか?」

ハッとした。

助けないと!って意気込んだはいいものの、その後どうするか考えてなかった。

もちろん飼いたい気持ちはある。

2人とも二つ返事だった。

「家に連れて帰って飼うから!」

「親に頼むから!」

大丈夫か、おい…


交番を後にして、隆史と私は立ち尽くした。

腕の中には小さな命。

隆史は焦げ茶、私は茶色の仔犬を抱いていた。

「俺は番犬にするって頼むわ…店の手伝いもするって言う!」

なるほど、番犬…

「あたしも何とか頼んでみる」

最大の難関はオカンやな、動物大嫌いやからな…人間も嫌いやねんけどな、あの人。

鶏のピヨちゃんは…まぁ大丈夫やろう。

隆史と別れ際、互いを鼓舞するように目で会話した。

隆史はきっと親を説得する。

でも私は自信がない。

足が重い…説得できるかな…

ふと、帰り道にあるスーパーの搬出口にある段ボールが目についた。

山積みでご自由にどうぞ、と。

私はおもむろに、ポテトチップスの段ボールを取り出した。

自転車の前かごに仔犬、脇に段ボール…

(まさか…?)


人気のないところで立ち止まり、段ボールを何とか組み立て仔犬を入れた。

前かごにはどうしたって入らないので、置いて手で押さえながら自転車を押して帰った。

捨てることは考えられなかった、=殺すことだと分かったから。

でも、説得する自信もなかった。


そこで思い付いたのが隠れて飼うことである。

…はい??


ここに引っ越してきた当初、山を教えてくれたリーダー格の男の子。

そこそこ広いシャッターガレージ付きの家やったけど、引っ越して空き家になっていた。

何度かそのシャッターガレージを開けて入ったことがある。

電気はつかんけど隠せる…

説得のネタが見つかるまで数日、ここでこっそり飼おう。

給食の牛乳を持ってかえって、近くの公園には水もあるし…

何とかなるやろうと、すぐに隠しにいった。


案の定、ガレージは鍵も掛かっていないし人目にも付きにくい。

段ボールを覗いて無事を確認し、タオルを敷き直した。

「少し我慢してな、必ず朝来るから。」

ミルクを飲んだ後やからから、眠そう。

撫でていたら眠ったのでゆっくりシャッターを下ろした。

ひと息ついて…

猛ダッシュで自転車を漕いだ。

すでにいつもの帰宅時間は余裕で過ぎている。

バスタオルの件も突っ込まれるやろう。

言うても近いのですぐ家には着いたけど、まさかのオカン玄関で仁王立ち…

…Σ(゚д゚lll)

仔犬隠してきて良かった…少なくとも今日はアカン。


その日の夜、遅くなった理由とタオルの在りかを問い詰められ…それはもう地獄だったことを覚えてる…。

タオルはスイミングに忘れた。

遅くなったのは帰り道、珍しい虫を見つけて追いかけてたから。

これで通しました。

オカンは隆史の事を疑っていたけど、頑なに認めず違うと繰り返した。

隆史は上手くいったやろうか…

そうそう、学校行く前には何か仔犬にご飯を持っていかないと…

朝からミッションが待ち受けていると思うと、あれこれ考えを張り巡らせてしまう。

また眠れない…

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読んで頂きありがとうございました!

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