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【第18話】思わぬ発覚

仔犬を隠しているガレージは空き家、売り出し中。

死角になるガレージには無いけど、玄関口にはしっかり看板が立て掛けられ、ポスター広告も貼り付けられていた。

小4の私にはあまり意味がないように見えた、その看板と広告。

仔犬を隠してから数日経過し、その日は土曜日だった。

隆史(仮)から貰ったフードを食べる仔犬を見つめながら、今日こそ明日こそ説得をと決心を固める努力をしていた。

その時…、人の足音が聞こえてすぐシャッターを開ける音が聞こえたと同時に日差しが入り込み一気にガレージ内が明るくなった。

「だれやっ!!」

知らないスーツを着た大人…

「い、犬が…」

あまりの驚きに、とっさに出た言葉は言葉にならず。

仔犬の糞尿は出来る限り片付けてはいたが、ガレージ内を見渡せば一目瞭然。

仔犬をここで世話していたことはすぐにバレた。

どうやら翌日の日曜に見込み客を案内するため下見に来た不動産屋のようだ。

突然のことにパニックになり、言われるがまま仔犬を抱えて自宅に案内させられた。

チャンスか?

…否!

熱すぎでも鉄板でもねぇわ。

この機会に説得を…なんて思うわけもなく。

腕のなかにいる、この仔犬がどうなってしまうのか…そればかり考えた。

不動産屋とおぼしき大人は、チャイムを鳴らし…

「この子のご両親は?」

と、尋ねた。

私は仔犬を見えない角度に抱きながら知らない大人の後ろに隠れた。

その日は家族全員が在宅。

子供のヤラカシは自分の恥と考えるオカンは不動産屋だと名乗った大人が言う事の経緯に顔が真っ赤だった。

(子供のヤラカシは自分の恥ではなく責任やと思うけどな、親になった私としては。)

おじいちゃんとおばあちゃんは謝りつつ、私を気遣う目線をくれたのを覚えている。

でもオカンの手前、口を出せない。

そんな感じやった。

一通り話を聞き、オトンが深々と謝罪をしてからこう切り出した。

「とにかくすぐ掃除をさせます」

そう言って私を見た。

仔犬の事には触れず、とにかくすぐいけと掃除道具を渡され不動産屋と空き家のガレージに戻った。

道中、不動産屋のオッチャンが言った。

「オッチャンもガレージに鍵してなかったからなぁ、そやけどアカンことやで?!」

ごもっとも。

「ごめんなさい」

初めて不動産屋のオッチャンに謝った。


水道の蛇口をポケットからとりだし、オッチャンはガレージに水を撒き始めた。

仔犬はダンボールに入れておいて、私もデッキブラシで一生懸命擦った。

汗水垂らして掃除をした。

自分がしたことへの責任とか難しいことは考えていなかったけど、やらないといけないことやとは理解していた。

掃除の間、オッチャンは水を撒きながら仔犬を拾った経緯や親に言えず隠して飼っていたことを全部聞いてくれた。

「命を救ったことは良いことや、それをちゃんと両親に言うた上で飼いたいと言わなアカンなぁ」

ほんと、ごもっともです。

掃除が終わり、私はもう一度オッチャンに謝った。


オッチャンと仔犬と家に戻り、話がついた様子の大人たちを尻目に私は仔犬を抱き締めて考えていた。

でも今さら何をどう説得するのか全く分からない。

去り際にオッチャンが言った。

「一度隠したら何回も隠すことになるんやで、頑張って犬のこと頼みや。」

そのままガレージがある家の方へ歩いていった。

仔犬を抱いている間、私はずっと親に背中を向けるか隠れるかしていた。

意を決して振り向いた先にはオトンとオカンが立っていた。

また仁王立ち…

顔は般若

「こめんなさい!!」

オカンはこの一言を聞いて私に背を向け家に入った。

「この子を飼いたい!!」

オトンに向けて精一杯叫んだ。

「アカン、元のところに置いてこい。」

それって殺せと同じやんかと、そう思ったら泣きそうになった。

そこで私は感情に任せてこう言った。

いや、正しくは泣き喚いた。

「お願いやから!お願いやから!!この子を助けて!!!あの川に戻したら絶対この子死ぬから!!!」

こんな風に親に対して泣き喚いたのは多分初めてやったと思う。

オトンは何も言わなかった。

涙も通用せんか…

私は泣きすぎたせいか、過呼吸のような状態に陥った。

少しの沈黙の後…

「ちゃんと世話するんやな」

その言葉で、スゥ…っと息がしやすくなった。

オトンの目を見てはっきりと言った。

「する。」


仔犬はやっと家の犬になった。

オカンは口を聞いてくれなかったけど、それはどうでも良かった。


翌日の日曜日、オトンは私に3000円くれた。

それで首輪とリードと餌を買ってこいと。

おじいちゃんは朝から家にある木材で犬小屋を作ってくれていた。

おばあちゃんは犬小屋にいれる寝床を端切れで作ってくれていた。

オカンは相変わらず仔犬に触れることはなく…


仔犬は「チビ」と名付けた。

涙は武器になるんかなぁ…と、首輪とリードをつけたチビと散歩しながら思った。


チビを保護した日に助けてくれた交番のお巡りさんに次のスイミングの時にお礼と報告をした。

いつか不動産屋さんのオッチャンにもお礼と報告をしたかったけど、知らぬ間にあの空き家は売れていて二度と会うことはなかった。


後日オトンから聞いた。

発覚したあの日にチビを保護した経緯をオッチャンから聞かされていたとの事。

だからお前が世話をすることも諦めないことも分かっていたと。


オッチャン、ありがとう。

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読んで頂きありがとうございました!

今日は雨風やば…


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