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夢から始まる話

咳が止まらない。落ち着こうと呼吸を深くし、余計に咳き込む。とにかく急がなくては。そんな焦燥感を背に、ぼくは操縦席の埃をはらっていた。

これは動くのだろうか。大きな衝撃があったのだろう。あちこち変形し、スクラップのような装いだ。しかし、ぼくは動かさなくてはならない。これしか道はないのだから。

なぜぼくはここにいるのか、ここはどこなのか、何もわからない。ただ、早くここから出なくては、逃げなくてはという思いに駈られる。

じわりと滲む汗を腕で拭う。埃と混じって、余計に汚れた気がする。腕を見ると、少し血がついていた。

ここに来た時に傷ができたのだろうか。目の前にある変形した乗り物に乗って来たのだとしたら、相当な衝撃があったことが予想できる。自分の体をチェックしてみたが、痛みはない。多量の出血というわけではないようだ。他は眼鏡にヒビが入っていたくらいで、今のところ大きな怪我は無い。とにかくこれを動かさなくては。

操縦席の埃を、なんとか表面が見えるくらいには払い終えた。取れかけのボタンを確認し、改めて乗り物の全体を見渡す。これは車とは言えない。タイヤもないし、形も球体に近い。なにより操縦席がボタンだらけだ。変形していて分かりにくいが、前後で二人までなら乗れそうだ。

後ろに回り込んでみると、ひしゃげた後部座席。そしてこの乗り物を制御しているであろう基板や電子部品がまるみえになっていた。よく見てみないとわからないが、何個か部品がとんでいる。床に数個、部品らしきものが確認できた。よくみると見たこともない部品がたくさんある。ぼくの知っている世界のものではないのかもしれない。

そもそも、本当にこれは動くのだろうか?これに乗ってきた気はしているが、先ほど数十年放置されていたかのような埃をはらったばかりだ。わからない。数分前に目が覚めた時には、これから少し離れたところに横たわっていた。でもぼくは、迷いなく振り返り、この乗り物の操縦席を確認した。そこからずっと、必死になって埃をはらっていたのだ。

目が覚めてから、一度も周りを見ていないことに気付いた。

教室ほどの広さの部屋だ。壁はコンクリートだろうか。白く無機質で、窓もない。壁一面を見渡すが、出入りできそうなところはなく、全面コンクリート張りのようだ。

見上げてみると、高い天井。中央に、乗り物と同じくらいの大きな穴が空いていて、澄んだ青空が見えた。きっとぼくはあそこから落ちて来たのだ。

”はやく、はやく何とかしなくては。「あそこ」に戻らないと―――”

”急いだってどうしようもない。落ち着いて確実に動こう。あの乗り物が動けば、時間も戻せ..―—―”

”ここはどこなんだ。これはゆめなのか。ぼくはいったい、なにをしているのだろう―――”

考えていることが出ては消えてを繰り返し、しっかりと考えることができない。頭がふわふわとしている。何か自分の状況を示すものが出てきた気がするが、どこかに消えてしまった。

ふと、音がした気がして振り返った。

部屋の中央付近には、ほぼスクラップ状態の乗り物。ところどころに部品や瓦礫が散乱している。少し離れたところに、大きな白い布が落ちていた。カーテンか何かだろうか。しわくちゃなその白い布を、なんとなく捲ってみる。



あとがき

前回までの投稿とは違い、初めて小説のような感じのものを書いてみました。

すごい中途半端ですね。続きが気になった方がいたらすみません。これはここで終わりです。

やってみたかったことの一つとして、小説を書くというのがありまして、こんなのも少しずつ投稿していけたらと思います。完結まで書くパターン、長編短編、いろいろと試してみたいと思っています。


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