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空を仰ぎ、雲を見つめる

わたしの家には、
ずっと見ていたくなるような雲が描かれた絵がある。
その絵は、わたしがボランティアで絵画教室に通っていた時の、先生の絵だ。

聞いたはずなのに、名前は忘れてしまったが、
「○○に、あなたの雲は素敵、って、言われたのよ」
と、嬉しそうに話していた、あの時の顔は、忘れない。

そのひとは、癌サバイバーで、お金もなくて、気難しくて、でも、優しくて。
わたしたちは、少しずつ、ゆっくりと距離を縮めていった。

ある日、ホームパーティーに呼ばれた。
お金がない、と聞いていたのに、食べ物に溢れていて、皆を心からもてなしていると感じた。

その後、個展に呼ばれて、そのひとの絵を買った。
付き合いではなく、本当に、素敵な雲が描かれていた。

そうやって、わたし達が心の距離を縮めていく中、そのひとは、白血病を発症した。
「弟から、骨髄液をもらえることになった」
と、そのひとは言った。

そうしているうちに、わたしの引っ越しで、わたし達は離れ離れになった。
手紙の行き来が何度かあったが、わたし達は、少しずつ、疎遠になった。
地球の裏側、という事情もあったかもしれない。

しばらくして。
Facebookで、彼女が旅立ったことを知った。

わたしは、あのひとが描いた絵を、仰ぎ見た。
どこまでも、澄み渡る空、白い雲。
まるで、あのひとの生き様のようではないか。


今も、わたしの家には、あのひとの絵が飾ってある。
一見、骨壷とはわからない状態の、愛犬の骨壷の上に、澄み渡る空と、白い雲。
最高のレクイエムだ、と、わたしは空を仰ぐ。

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