C.M.クリステンセン『イノベーション・オブ・ライフ』


経営学の著名な先生の本。イノベーションのジレンマやジョブ理論が有名かもしれない。

あるときハーバードの同級生が一見成功しているようで不幸に陥っている状況に気付いたらしい。それも仕事に熱中しすぎて家庭の崩壊といったものだけでなく、エンロンの事件に加担したとか児童買春とかで塀の向こうに行っているとかなかなかのやらかし方で、そういった道を見失う状況にならないためにはどうしたらよいか、経営学の考え方を援用して追究した結果がこの本である。

簡単にまとめると、人のモチベーションには2種類あり、報酬や職場環境のような、少しでも欠ければ満足度が著しく下がる「衛生要因」と、自分の内にある欲求を満たし満足感を与えてくれる「動機付け要因」があり、これは「ハースバーグの動機付け理論」というものらしい。

これを人生にあてはめてみると、前述の不幸な状況に陥ったひとたちは、動機付け要因を顧みずに衛生要因のみを追求したためであろうと考えた。


これは、雲の上で生きていて星座と語りあってるようなひとにとってはその通りで、衛生要因を多少放棄してでも動機付け要因について考えることが重要なのかもしれないけど、実際のところ、多くのひとはそうではない気がする。

そうではないひとにとってまず重要なのは衛生要因を確保することで、具体的には当面~将来に生活できる賃金であったり安定した生活環境の構築であったりを優先せざるを得ない。明日のハースバーグより今日のハンバーグである。

ただ、本来的には動機付け要因を追求すべきひとたちが衛生要因の最大化に走らないといけなくなる状況は不幸だと思うし、不況の時代が長くなるとそういうマインドのひとが大多数になるのではないかな。


続けていこう。

次は「ジョブ理論」というものが紹介される。これはすべての商品やサービスは顧客の片づけるべき用事(=ジョブ)をこなすために雇われていると考え、その傍証としてイケアを取り上げている。

これを先程のように人生、というよりは家庭での顔をもった人間に援用すると、家庭の中で自分はパートナーのどのようなジョブを片付けようとしているのかというのが重要な視点になるらしく、お互いに対して最も誠実な夫婦とは、お互いが片付けなくてはならないジョブを理解しあっている2人、ということになるようだ。

これもその通りだと思う。が、苦境において人間の本性が出る、苦しいときの友達こそ本当の友達、というのも真で、ゆとりのある状況ではお互いのジョブを理解して配分するというのは出来るのかもしれないけれど、大変な時にそれができるのか、その難しさをもっと聞いてみたかった。


このようなひねくれた、というよりも賤しいものの見方をしている自分がいたので、さらに教育についても「カリキュラムマップ」という提言がなされるものの、子どもという新たな自我こそ自分の思うようにならないものの最たるものではないか、という疑念がぬぐえなかった。生活に余裕がなかったとしてズボンにつぎはぎを当てる力を持たせることができても、心に余裕がなければそれは難しい。


先生のいうような不幸への道に進まないためには、まずそういった条件を選べる、選択の自由がある環境を獲得するところから始めないといけないのかなと思った。ただし、そういった環境を構築することができたら、そこからはクリステンセン先生の言うような生き方、選び方をすることが自分や周りの人を不幸にしない要諦であり責務であろう。


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