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国際法解説②〜外交の武器〜

 前回は、国際法とは本質的にヤクザの仁義と同じという事を解説しました。
 今回は、ヤクザの仁義という部分にも通じる本質である、国益を守る武器という本質について、解説したいと想います。
 国際法はヤクザの仁義と本質的に同じという事は、国際法違反を大義名分に、嫌いな他国を制裁できるという事です。また、国際法違反を行った国を、無礼な国家として宣伝できるという事です。
ベルギーという国家があります。この国は永世中立国家なのですが、これは1839年、イギリスというずる賢い人達が、「西ヨーロッパの安定をはかるため」という理由でベルギーの永世中立を言い出し、プロイセン、フランスなどが承認した事で始まりました。
 はっきり言います。ベルギーはイギリスの子分国家です。しかし、1831年前に独立したばかりの国家、それもロンドンで独立を承認した国を属国にする条約なぞ、流石に見栄えが悪すぎてできません。「イギリスは数年前に独立を、自分の首都で、みんなで決めた国家を属国にする国」になりますから。あまりにも強欲です。しかし、イギリスの安全保障上、ベルギーをイギリスの敵国にとられる訳にはいきません。なぜかというと、ブリテン島とベルギーは近いからです。(どれぐらい近いかというと、対馬と朝鮮半島よりも近いです。)
 そんな国を、イギリスの敵国にとられたら脅威でしかありません。そこで、ずる賢いイギリス人は、「ベルギーはどこの国の味方でもない国にしよう。みんなの平和のためにも」と言い出したのです。「みんなの平和のため」ときれい事言ってますが、どう考えてもイギリスの平和のためです。 このようにして、ベルギーは永世中立国家にする条約ができました。この条約を破り、ベルギーを攻め込めば、「みんなでベルギーを永世中立国家にすると決めたルールを破る愚か者」になり、イギリスから制裁されます。
 事実、WW1の時、ドイツがベルギーを攻め込んだ際、イギリスはドイツを愚か者として制裁し、世界中に宣伝する事で、ドイツを叩きのめしました。 
 WW1前から英独は敵対関係にある国でしたから、イギリスにとってドイツのベルギー侵攻は、ドイツを攻撃する格好の大義名分になりました。  
 繰り返します。国際法はヤクザの仁義と本質的に同じという事は、国際法違反を大義名分に、嫌いな他国を制裁できるという事です。また、国際法違反を行った国を、無礼な国家として宣伝できるという事です。
 裏返せば、国際法を破ると、敵国に制裁の大義名分を与えます。国際法を違反する際は、制裁を覚悟しなければなりません。それがイヤなら、国際法を守れば良いのです。
 ここで、少し怖い話をします。「国際法は仁義であり、違反された国には制裁の権利がある」ということは、違反された際に制裁しなければ、「違反を黙認した」とか、「違反したとみなさない」というメッセージになります。前回も言いましたが、仁義違反に対して制裁を加えない国は、他国からなめられます。そして、次から次へと仁義を破られます。そんな時になってから抗議してももう遅い。「え?前は何も言わなかったよね?なんで今更?」と返されるだけです。むしろ、「今まで認めていた事に、急に文句言い出す国」として宣伝されます。「権利の上に眠るものは保護に値せず」という法格言もあるのです。仁義違反を仁義違反としてアピールする必要があるのです。
 ここで現実の問題とも絡めて話をします。
 ロシアがウクライナに侵攻しています。これは明らかに、言うまでも無い国際法違反です。
 しかし、だからといって、言うまでもない事だからと言って、「ロシアのウクライナ侵攻は国際法違反だ!許されない!」と公式に言わなければどうなるか?国際法違反を国際法違反として問題視しない国になり、ロシアの行動に親和的な国として世界中の国々からみなされます。言うまでもない事であったとしても、口に出してアピールしなければいけないのです。
 国際法はヤクザの仁義であり、外交の武器として使いこなす必要があるのです。

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