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世界製材戦略の新拠点・中国木材鹿島工場(下)

世界最先端の自動製材システムを導入した中国木材(株)鹿島工場。しかし、堀川保幸社長は、決して現状に満足していない。鹿島工場から世界を見据え、国内林業の再生戦略を練り続けている。遠藤日雄・鹿児島大学教授との対論を通じて、堀川社長のダイナミックな国産材利活用ビジョンが明らかになっていく。

プレカット即納のネットワークで国産材を販売

  中国木材は、来春には広島県北に国産材工場を立ち上げる。また、佐賀県・伊万里工場の隣接地にも大径木と小径木の製材工場をつくる予定。さらに、宮崎県日向への進出も計画中だ。構想どおり実現すれば、呉市にある本社工場とあわせて5か所もの大型製材工場が稼働することになる。

遠藤教授
  すでに国内ナンバーワン製材企業の地位を不動のものにしているにもかかわらず、積極的な先行投資には驚かされる。これほどまでに事業拡大を急ぐ理由はなにか。

堀川社長
  外材輸入の激変に対応できる製材体制を確立するためだ。その中で、国産材を使っていきたい。
  当社の強みは、プレカット工場向けの流通・販売ネットワークができていることにある。今は問屋や小売りに頼る時代ではない。プレカット工場からは、国産材製品だけでなく、ドライビーム(ベイマツの構造用乾燥材)がほしい、北欧産の集成材がいる、ときにはグリーン材(未乾燥材)はないかと、様々な注文が来る。こうしたニーズに即応できる体制が不可欠だ。当社は、名古屋に2万坪、東海(大井川町)に9000坪、東北(仙台市)に2万坪など、全国7か所に物流センターを配置している。このネットワークで国産材を販売していきたい。

目の離せないロシア材、国産材の構造改革急げ

遠藤
  米材と欧州材の対日輸出力には、はっきりと翳りが出てきた。外材の競争力低下は、国産材にとって追い風だが。

堀川
  目が離せないのは、ロシア材だ。来年から丸太の輸出関税を80%に上げて事実上禁輸とし、ロシア国内での加工体制を強化しようとしている。問題は、日本市場が求めている乾燥材・集成材をどの程度供給してくるか。丸太から製品にシフトすると、重量は4分の1から5分の1になり、輸送コストは大きく軽減される。ただし、ロシアは人口が少ない。林業労働者を中国や東欧から入れる必要がある。この問題を解決するのに、5年から10年はかかるかもしれない。いずれにしろ、外材を巡る状況は激変する。その中で、国際競争に耐えられる国産材製材に構造改革することが急務だ。

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堀川保幸・中国木材(株)代表取締役社長

広島新工場でヒノキ活用、伊万里は輸出拠点に

遠藤
  この鹿島工場は東京・首都圏市場をターゲットにしているということだが、ほかの工場の戦略的位置づけを聞きたい。

堀川
  広島県北に新設する工場は、呉にある本社工場の木材乾燥能力と配送力を活かして一体的に経営する。丸太の集荷は、中国5県を視野に入れている。B材も含めて、丸太を可能な限り有効利用していく。とくにこの地域はヒノキが多いので、200年住宅を睨んで、オールヒノキの家づくりを打ち出したい。横架材もヒノキの集成材で、商品名は「ヒノキ御殿」を考えている。
また、佐賀の伊万里工場は、中国や韓国をはじめとした東南アジアへの国産材輸出拠点にしていきたい。伊万里港は、九州で3番目のコンテナ基地であり、立地的に恵まれている。丸太輸出は難しいが、製品輸出ならば見込みがある。欧州産集成材の輸入は「コンテナ革命」によって可能になった。今度は、国産材製品をコンテナで輸出する番だ。国産材製品を入れたコンテナが、伊万里から上海に行き、大連を回って日本に戻る。空荷をつくらない効率的な輸送システムができれば、物流コストを大幅に縮減できる。

切り捨て間伐ゼロへ、あらゆる材を加工・販売する

  堀川社長と遠藤教授は、本格稼働を間近に控えるバイオマスボイラーと発電施設に足を踏み入れた。鹿島工場の製材端材などは、すべて熱と電気に変換して利用するシステムになっている。

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遠藤日雄・鹿児島大学教授

遠藤
  鹿島工場は環境対策にも力を入れている。

堀川
  この工場だけでなく、山元の環境対策も重要だ。とくに、切り捨て間伐をなくすことだ。間伐をしたら温暖化防止になるという説明だけでは、片手落ちではないか。林内に放置されている木質資源を有効利用して、そこから得られた収益を山に還元する循環システムをつくることが、本当の環境貢献になる。
  ときどき、首を傾げたくなるような事例に会う。例えば、木の皮(バーク)からペレットをつくるために、石油を使って乾かしている。ペレットの利用を推進するのはいいが、原料の選択を間違ってはいけない。乾いたプレーナー屑ならいいが、バークや小径の間伐材からペレットをつくっても、投入エネルギーやコスト面からみて「環境にいい」とは言えない。そうした製造施設に国庫補助金が投入されているのも疑問だ。間伐材のペレットに補助金を出すのなら、山に道をつけた方が、切り捨て間伐対策になる。

遠藤
  今の国産材製材は、大径材と小径材を活かし切れていない。また、個々の工場の規模拡大は進んでいるが、孤立分散的で全国的なネットワークができていない。

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本格稼働に備えるバイオマス発電施設

堀川
  それだけ合理化の余地があるということだ。小さなものから大きなものまで、曲がっていようと直材であろうと1か所で加工できる体制がいる。それも中途半端な規模ではダメだ。例えば、物流センターは最低1万坪以上ないと、プレカット工場への即納・欠品ゼロはできない。国産材には大きな可能性があるが、生産だけでなく販売まで考えて構造改革をする必要がある。

『林政ニュース』第339号(2008(平成20)年4月23日発行)より)

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