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「中目を制する」最新拠点・外山木材志和池工場

新生産システムの実施が4年目に入り、その成果のほどが取り沙汰されるようになった。各圏域の中核製材工場の進展具合には濃淡が出ている。そんな中で、優良モデルの1つとして注目を集めているのが、外山木材(株)(宮崎県都城市、外山正志・代表取締役社長)の大型新工場だ。不況で需要が縮小しているこの時期に、敢えて開設に踏み切った理由は何か?  林業の底上げにつながるのか? 遠藤日雄・鹿児島大学教授が、同社の第5工場となる「志和池工場」を訪ねた。外山社長との対論の中で、新生産システムの具体的な成果が見え始める。

20億円投じ量産ライン新設、フル稼働で15万m3体制へ

外山木材は、年間7万m3のスギ丸太を挽く国内有数の製材企業だ。既存工場は、第1(末口径24〜30㎝丸太を製材)、第2(同30㎝上)、第3(同18〜24cm)、第4(同14cm〜20cm)の製材ラインをもっている。ただし、中目丸太に関しては、台車で足場板や構造用集成材のラミナを製材しており、量産ラインがなかった。

志和池工場は、欧州材やロシア材などの代替需要としてスギの羽柄材、小割製品、構造用集成材のラミナの引き合いが強まっていることを踏まえ、中目丸太(20〜28cm、長さ3m・4m)中心の大型量産工場として整備した。

遠藤教授
広大な敷地(2万8000坪)に四方八方どこからでも入れるオープンシステムのユニークな新工場だ。投資額は?

外山社長
総投資額は20億円。そのうち製材工場建設に17億円を費やした。新生産システムで4億6000万円の補助があった。工場は今年3月から稼働している。従業員は35名。そのうち製材機械を担当しているのは7名だ。

遠藤
「100年に一度」といわれる不況の最中に敢えて大型工場開設に踏み切った理由は何か?

外山
平成23年頃の稼働を目指して、6〜7年前から大型工場の新設を計画していた。国際競争力をもった製材品を供給するためだ。それが新生産システムへの参画で、開設時期が早まった。

遠藤
新工場の丸太の挽き量はどのくらいか?

外山
製材ラインの能力としては全社で1日500m3超、そして志和池工場で180〜200m3のスギ丸太が挽ける。現在は需要が冷え込んでいるので、全社で1日400m3、志和池工場で140〜180m3の消費量に減産しているが。

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新工場の心臓部・ノーマンツインバンドソー

遠藤
現状の平均丸太消費量を160m3としても月3680m3(23日稼働)、年間で約4万4000m3になる。既存工場と合わせると優に11万m3を超える。新工場がフル稼働すれば15万m3の丸太消費量になる。すごい規模だ。どのような製品を生産しているのか?

外山
中目丸太から間柱、垂木、胴縁などを製材している。もちろん、すべてAD(天然乾燥)かKD(人工乾燥)製品だ。このほか20〜24cm丸太で芯持ち柱を、「側」(背板)から平割を製材している。こちらもすべてKDだ。

わずか2秒で最適木取りを指示、2つの材質を活かす

志和池工場の製材ラインの見所は、スーパークリアシステムBT54型(ノーマンツインバンドソー、(株)菊川鉄工所製)だ。第4工場にも同様のシステムが設置されているが、例えば、切削速度は1分当たり25mから50mへアップし、鋸の精度も格段に向上している。ALS(全自動丸太形状測定装置)が、盤台から上ってくる丸太1本を接触式センサーでわずか1回転(2秒)で瞬時に計測、それをコンピューターが解析。最適の木取りパターンを指示する。この木取りソフトには、外山木材が蓄積したすべてのノウハウが投入されている。

遠藤
十数年前までは、「スギ中目材問題」という十字架にも似た重い課題があった。芯持ち柱角を製材するには太すぎる。たとえ柱を取ったとしてもその大半は未成熟部分、しかも節が多くて強度的に問題が残るし、「側」で野地板などを挽いても売れない。さてどうしたらいいのか? この中目問題の一端を解決したのが構造用集成材のラミナ挽きだった。しかし、志和池工場は一部ラミナを挽くものの、中心は羽柄材と小割だ。秘訣はどうやら木取りソフトにありそうだ。

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志和池工場開設の狙いを語る外山正志社長

外山
私の持論は、「中目丸太を制するものが国産材製材業界を制する」だ。スギ中目の競争相手であるホワイトウッドは芯から「側」までほぼ材質が同じだ。ところがスギの場合は、1本の丸太に2つの材質が同居している。ここが難しい。

遠藤
赤身の部分と白太の部分だ。含水率も強度も違う。

外山
2つの異なる性質を無視して、歩止まりを優先させて平角(梁)を取ったり、すべて小割に挽いてしまうのは芸がなさすぎる。中目丸太製材の成否は、材質に合わせた木取りにかかっている。志和池工場では、赤身をツインソーで、「側」(白太)は横バンドソーで製材するのが基本だ。横バンドソーは3・4m用と2・3m用の2台を設置した。大きめの材を横バンドソーで製材するのも新工場の特徴だ。

購入丸太の6割は直送、市場より高い価格を維持

遠藤
中目丸太からムクの製品を効果的に挽いていくビジネスモデルは、志和池工場が端緒を開いたことになる。ところで、丸太(原木)の仕入れはどのようにしているのか。

外山
6割以上が直送で、あとは近隣の原木市売市場から購入している。

遠藤
直送の内訳は?

外山
宮崎県内の大手素材生産業者4〜5社を中心に仕入れ、あとは中小素材生産業者の直送で補完している。

遠藤
新生産システムの根幹をなす協定取引についてはどうか。

外山
素材生産業者とは毎月協議している。こちらがどれだけ欲しいか。先方がどれだけ出せるか。腹を割って話し合っている。昨年の既存工場でのスギ丸太受入れ価格は、1万2000〜1万3000円/m3でほぼ固定されていた。

遠藤
原木市売市場の相場よりも高いのではないか。

外山
そのとおり。新生産システムの狙いの1つは山土場から製材工場へA材(直材)を直送する場合、原木市売市場の相場とは異なる独自の価格設定をして山元還元を実現することだ。その可能性が見え始めたと思っている。

遠藤
都城地区の原木入荷量は約40万m3。これに外山木材と持永木材の新生産システム製材工場(第343号参照)の原木消費量7〜8万m3が加わる。20%増だ。かりにその7割を直送で賄えば、原木市売市場の相場とは別のA材価格形成の仕組みができる。

外山
新生産システムに先行する形で実施された新流通・加工システム(平成16〜18年度)は合板メーカーや集成材メーカー向けのB材丸太供給を目指し、実施前に比べてB材価格は2倍になった。新生産システムでも、A材丸太価格の上昇を目指したい。

遠藤
ところが残念なことに、今回の不況の煽りを受けて丸太価格が暴落している。もっとも、製材サイドにとっては、安い原料が仕入れられるわけだが。

外山
商の秘訣は「仕入」、つまり「利は元にあり」と言われるが、私は企業が安定的な利益を収める基本は、「売れる商品」をつくることだと考えている。これが山元還元の出発点だ。だから社員には「注文をとるよりも売れる商品を見つけてこい。1カ月3件の新企画を出せ。そして、3件の新規取引先を探せ」とハッパをかけている。志和池工場は今年2月に完成したが、本格稼働まで1カ月もかからなかった。この間、若い社員を中心に118回の会議を開いた。彼らのエネルギーは凄い。新生産システムはこんなところにも影響を与えている。

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新工場を担う若い社員たち

(『林政ニュース』第367号(2009(平成21)年6月24日発行)より)

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