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海外も視野に内装材の需要開拓・池見林産工業

戦後の拡大造林によって造成されたスギやヒノキの人工林から大量に出材される並材をどう有効活用するか。これまでは木造軸組工法住宅で多用される柱などの構造材に焦点が当てられていたが、今後は2×4住宅やマンションを含めた内装材分野が需要先として有望視されている。しかし、内装材に針葉樹のムク(無垢)材を利用する場合、節の処理や捻れ・曲がりの問題がつきまとう。どう解決すればいいのか。そこで遠藤日雄・鹿児島大学教授は、「国産針葉樹ムク1枚もの内装材」のトップメーカーであり、中国や韓国など海外輸出も軌道に乗せている池見林産工業(株)(池見正人・代表取締役、大分県大分市、以下「池見林産」と略)の扉を叩いた。

欠陥箇所も「コマ型埋木」で再生し、表面材に活用

遠藤教授を出迎えたのは、池見林産の久津輪光一・専務取締役。同社に入る前は、福岡市でプロ・スポーツを中心としたイベント・コーディネーターをしていたという。その洗練されたビジネス感覚で、国産針葉樹内装材のマーケットを開拓している。

遠藤教授
最近の業績はどうか。

久津輪専務
弊社は来期で50周年の節目を迎える。今期(平成21年6月~22年5月)は売上げで対前年比5%増、生産量で9%増という見込みだ。50周年を節目にさらに業績拡大を目指したい。

遠藤
半世紀の歴史には紆余曲折もあったと思うが。

久津輪
一時期、複合フローリングや集成材製造に手を出そうかと迷ったこともあったが、「ムク1枚もの」に特化した企業として歩んできた。国産材針葉樹の時代が必ずやってくるという確信があったからだ。内装材市場は集成材が主流になりつつあるが、弊社が売上げ、生産量を伸ばせば、その結果として「山元還元」ができる。

遠藤
しかし、スギやヒノキなどの針葉樹を1枚ものの内装材に使おうとすると、節の処理が厄介だ。とくに、戦後の拡大造林で造成された針葉樹は枝打ちなどがほとんど行われていないだけに、節の問題解決は大きな課題だ。

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久津和光一・池見林産工業専務取締役

久津輪
そのとおりだ。例えばヒノキの場合、死節・腐れ節の欠点を補修なしで使用できる役物の比率は5~10%といわれている。役物以外の並材は、そのままでは内装用の表面材には使用できない。

遠藤
では、どうしているのか。

久津輪
「コマ型埋木」で解決している。死節・腐れ節といった欠陥箇所を取り除き、ヒノキの枝でつくったコマ型の埋木で補修して良質な板材に再生する技術だ。これによって、下地材としてしか使えなかった欠陥材を付加価値の高い表面材として活用できるようになった。

遠藤
なるほど。だが、そもそも節があること自体、消費者は嫌がるのではないか。

久津輪
その心配は無用だ。逆に、ヒノキ無節のムク板を見せると、「これってプリント合板?」という反応が返ってくる。節があってこそ本物の木というのが、とくに40歳代の消費者のニーズだ。

遠藤
スギやヒノキの原板は自社で製材しているのか。

久津輪
グリーン(未乾燥)のラフ挽きの形で、製材メーカーから集荷している。ヒノキが60%、スギが30%、残りはアカマツなど。ヒノキは富士山以西から、スギは九州を中心に仕入れている。原板は50年生以上の丸太の辺材取りを基本にしている。節は丸節のみで、しかも木表しか利用しない。間伐材は流れ節が多いので利用しにくい。とはいっても、間伐材利用は今後の大きな課題なので、芯材を利用したデッキ材(外装材)への利用なども考えている。

「ムクだから暴れる」は禁句、月2600坪体制へ

JAS認定工場である池見林産の製造工程は、佐野乾燥基地(原板の集荷、検収、桟積、天然乾燥、人工乾燥、養生)→戸次工場(埋木ライン)→佐野基幹工場(モルダーによる加工ライン)→本社工場(壁用UV塗装、床用UVセラミック塗装)となっている。

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原板の天然乾燥。原板は産地ごとに仕分けられ、トレイサビリティラベルが貼られている。

遠藤
池見林産は、乾燥技術の高さと厳しい品質管理で有名だ。

久津輪
弊社では「ムクだから暴れる」という言い訳は禁句になっている。そのため、乾燥には細心の注意を払っている。仕入れた原板は3~4か月の天然乾燥を施し、その後人工乾燥する。原板の備蓄は6万坪に達する。例えば、床暖房用のヒノキムク板の含水率は5%、収縮は0・3㎜以下に抑えている。以前、長さ2mに対して6㎜の矢高のフローリング製品ができたことがあった。ただちに工場を止め、なぜこのような製品になったのか従業員と徹底的に検証した。

遠藤
1000分の3㎜ならフローリングJAS(日本農林規格)の許容範囲ではないか。

久津輪
その程度では満足していない。弊社は限りなくJIS(日本工業規格)を目指している。社名が池見林産ではなく池見林産工業というのもその決意の表れと見てほしい。妥協は一切ない。クレームの件数も昨年度でわずか23件にとどまっている。

遠藤
工業製品並みのムク板製造だ。しかし、消費者には「ムクは高い」という先入観がある。

久津輪
「ムク材だから値段が高い」という神話を崩すため、生産量拡大によるコスト縮減に取り組んでいる。現在、月間2000坪の生産実績をあげているが、今後は1・5シフトで月間2600坪を目指したい。

大手住宅メーカーが関心、中・韓に輸出、北米も

乾燥の徹底化と厳しい品質管理でムク1枚もの板を生産・販売する池見林産には、「桧舞台」(純木桧ムクフローリング)、「ゆかだん桧舞台」(同)、杉並木(純木杉ムクフローリング)、松三宝(松銘木ムクフローリング)など、多彩なラインナップがある。

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国産材針葉樹ムク板のラインアップ

遠藤
製品のデリバリー体制にも、目を見張るものがある。

久津輪
現在、年間1万6000~2万坪の製造能力がある。工事物件は指定日、指定時間に配送。邸別配送に関しては1坪から受注、翌日配送が可能だ。

遠藤
5月に「公共建築物木材利用促進法」が成立し、学校などの公共建築物に国産材を利用する途が開かれた。大手住宅メーカーからのオファーも多いのではないか。

久津輪
大手住宅メーカーはCSR(企業の社会的責任)、木材の二酸化炭素(CO2)固定、森林の整備促進などの視点から急速に国産材にシフトしている。ここ2~3週間、大手住宅メーカーから弊社の商品に対する問い合わせが急増している。

ただ以前、ある大手ハウスメーカーから産地証明について、「現状で製品がなくとも、後日、その産地から木材を調達すれば帳簿上は問題ないだろう。証明書を発行して欲しい」との依頼があったが、断った。たとえ取引量が増えても、偽装は絶対行わないというのが弊社の方針だ。

遠藤
ところで最近、池見林産の取り組みで注目されているのが、内装材の海外輸出だ。とくに、中国沿岸部の富裕層が購入するマンションを中心にムク内装材需要が拡大していると聞くが。

久津輪
弊社では8年前から海外輸出に挑戦してきたが、本格化したのは2年前からだ。現在は、中国、韓国を中心に年間平均50コンテナ(ヒノキ床材や壁板)を輸出している。今後は、北米輸出も視野に入れている。

遠藤
国産のスギ、ヒノキで勝負できるのか。

久津輪
十分可能だ。スギサイディング(外装材)、ヒノキの壁板、オンドル用のヒノキフローリングなどが有望商品だ。中国では雲南スギや柳スギなどが、またカナダではウェスタン・レッド・シーダーが流通しているが、品質・価格の面でジャパニーズ・シーダー(国産スギ)が代替できる自信はある。

(『林政ニュース』第390号(2010(平成22)年6月9日発行)より

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