小規模工場を再生させるトーセンの「母船式システム」
スギ量産製材工場の規模拡大が進んでいる。南東北・北関東地域では、何と言っても協和木材(株)(第306・307号参照)と(株)トーセン(東泉清寿代表取締役社長、本社=栃木県矢板市)が双璧だ。協和木材が単独で日本一に迫っているのに対して、トーセンは「母船式木流システム」という独特の経営方式で国内トップの座を狙っている。では、「母船式木流システム」とは何か? 今後どのような展開をみせるのか? 遠藤日雄・鹿児島大学教授が、トーセンの最新拠点である群馬工場(藤岡市)を訪ねた。
シンプル・低コストを極めた群馬工場
トーセンの群馬進出(第294号参照)は、林材業界に大きな驚きを与えた。そもそもは、利根川の河川敷にあった群馬素生協の原木市売市場が手狭になったため、藤岡市(旧・鬼石町)への移転話が持ち上がったのがきっかけ。群馬県は、ミニコンビナート方式で移転するよう、つまり量産工場とセットで移転するよう指導した。しかし、不況の真っ直中という事情もあって、県内の製材業界で手を挙げる業者はいなかった。そこにトーセンが隣の栃木県から進出し、最新型の量産工場を建設したという経緯がある。
遠藤教授
想像以上にシンプルな工場だ。
東泉社長
この群馬工場は、柱と間柱製材に特化している。とくに、これからお見せする4か所に注目してほしい。まず、丸太の仕訳機だ。丸太は2つの盤台から搬入される。1つは隣接する群馬素生協市場から買った丸太、もう一方は伐採現場から直送した丸太だ。仕訳機にはもう1つ見所がある。ターンテーブルだ。丸太の末口と元口を揃えて製材機械にかけるためだ。
遠藤
初めて見た。ところでリングバーカーから出た樹皮(バーク)は、どのように処理しているのか。どこも悪戦苦闘しているが。
ターンテーブル方式の丸太仕訳機
東泉
木屑焚きボイラーの燃料にしている。ここには当社の工夫が凝縮されている。まずバークを粉砕機で粉砕し、それをサイロが吸い込む。その過程で乾燥する。次は、長い距離をとって燃料室へ落とす。既存のものより長い距離をとったのがミソだ。
遠藤
本邦初と言われるツインバンドソーを見せてほしい。
東泉
帯鋸と丸鋸とがセットになっている。通常はメリーゴーランド方式だが、当社のはワンウェイ方式で太鼓挽きした丸太がそのまま向こうに行き反転して角材になる。
遠藤
見所はこれで3つ。もう1つは?
東泉
精度を高めるため、修正挽きのモルダーは菱形で4面カンナをかける仕組みにしている。このように群馬工場は、シンプルでコストもエネルギーも可能な限り縮減した工場になっている。
提携工場をサポートし、柱角を1日9千本供給
栃木県のスギ素材需給量は平成18年で54万2000㎥、対前年比25%増である。県北の八溝山系や日光山系から素性のいいスギが産出され、県外からの移入量も多い。関東圏では一頭地を抜いた産地である。ここの牽引力になっているのがトーセンだ。提携工場15工場を含めた同社のスギ原木消費量は19万㎥に達する。
大手住宅メーカー プレカット工場 ホームセンター
遠藤
「母船式木流システム」とはどんなものか。
東泉
かつて南氷洋で盛んだった捕鯨の母船とキャッチャーボートをイメージしてほしい。母船は、栃木の本社とこの群馬工場になる。キャッチャーボートは、当社と連携してくれる製材工場だ。
このシステムには、多くの利点がある。まず母船に集中させることで、設備稼働率や乾燥コストの低減が図られる。乾燥機は31基ある。また、製品の品質・量を安定させ、一元管理ができる。さらに、在庫を管理するダム機能を果たせる。母船が一種のダムとなり、需要に弾力的に対応することで、国産材の価格提示力がつく。
一方、提携工場は、山元に近いという地の利を活かして物量コストを削減し、仕入れ・販売などを気にせず得意分野製品の生産に集中できる。当社では、提携工場の資金繰りの一部や経営指導などの支援も行っている。
遠藤
連携工場も含めると、例えば柱角の場合、1日当たりでどれくらい供給可能なのか。
東泉
1日9000本弱は供給できる。
遠藤
それは凄い。銘建工業(株)(岡山県)のホワイトウッド集成管柱の供給量が1日約1万本といわれているから、これに肉薄する勢いだ。国産材製材はここまできたのか。
原木集荷に苦心、森林組合の改革が不可欠
遠藤
19万㎥もの原木を集めるのは大変ではないか。
東泉
当初は苦労した。とくに、群馬県内には素材生産業者が少なく、切り捨て間伐も多かった。そこで、自社で素材生産組織をつくるなど、安定集荷の体制を整えた。
遠藤
群馬県の原木価格は全国で一番低かったが、トーセンの進出で上昇に転じたという声を聞く。
東泉
立木の入札に行くと、「(㎥当たり)7〜8000円だったが、倍の1万5000円近くになった」という話が出るようになった。最近は、1万2000円くらいで安定して取引されている。この価格ならば、森林所有者にも森林組合にも利益を還元できる。
遠藤
原木不足の現状は改善できるのか。
東泉
日本林業を改革するポイントは、森林組合にある。補助金に依存する体質のままでは、今の国産材需要には対応できない。民間の競争原理を導入し、緊張感を持った経営に切り替える必要がある。私も森林組合員なので、内部から経営改革したい。
販売先は市売市場からホームセンターなどヘシフト
日本の製材工場数は8482工場(平成18年)。年々500〜600工場が転廃業している。小規模零細工場は資金力に乏しいからグリーン材(未乾燥材)しか挽けない。製品市場に出しても相場形成力はない。買い叩かれて、倒産する。この悪循環が続いている。
東泉
土地を造成し、配電設備を入れ、建物をたてて製材機械を入れると少なくとも2億円はかかる。1年間に500工場減ったとして、国全体として毎年1000億円の富が失われている計算になる。施設だけではない。販路から製材技術を身につけた人材まで喪失することになる。「母船式木流システム」で、何とか小規模零細工場が存続できる道をつけていきたい。
遠藤
「母船式木流システム」の展開で販売先は変わったか。
東泉
大きく変わっている。製品市売市場への出荷量が大幅に減り、代わって大手住宅メーカーやホームセンターへの出荷が増えた。これにプレカットを含めると全体の約半分を占める。
遠藤
製品市売のネックは何か。
東泉
売れているときはいい。しかし、手数料収入で経営しているので、売れなくなると安売りしてしまう。これに対して、ホームセンターは、年間あるいは半年契約で値段を決める。大手住宅メーカーの場合も、4〜5か月契約。だから値崩れしない。
遠藤
市売出荷の弱点はもう1つある。誰かが買ってくれるだろという想定で、見込み製材になっていることだ。
東泉
そのとおり。消費動向やニーズに関係なく製材していた。ホームセンターや大手住宅メーカーの場合は、ニーズに的確に対応できないと外されてしまう。品質とデリバリー能力が問われる。
群馬工場のラインを説明する東泉社長(右端)
◇ ◇
「母船式木流システム」は、敵対的M&A(合併・買収)で規模拡大を図るものではない。信頼関係に基づいたネットワークの中で各製材工場の良さを活かしていくという、全く新しい経営コンセプトのもとに展開されている。人と工場を再生させるポリシーのもとに、価格・品質・性能で外材に負けない製品の安定供給を実現している。これまでになかった国産材製材のニューモデルと言える。
(『林政ニュース』第317号(2007(平成19)年5月30日発行)より)
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