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米マツからスギに転換した量産工場・ネクスト


外材筆頭格の米材丸太の年間輸入量が、ついに300万㎥を下回った。40数年ぶりの低水準だ。米材丸太の8割強は米マツ(ダグラスファー)。その米マツ製材は、中国木材(株)を中心に瀬戸内港湾量産4工場への集中が進んでいる。このため内陸部に立地する米マツ製材工場は輸入コスト高で窮地に追い込まれ、転廃業を余儀なくされている。こうした中で、生き残りをかけて米マツからスギ製材に転換した工場がある。大分県日田市に本社をおく(株)ネクスト(横山俊英・代表取締役社長)だ。最盛期には月8000㎥の米マツを製材し、業界では「米材のネクスト」と評価が高かった同社が、なぜスギに転換したのか。遠藤日雄・鹿児島大学教授が横山社長に切り込む。

米マツ入手難、代替材も検討したがスギに着目

  ネクストは、日田市の本社工場と福岡県朝倉市に朝倉工場を持つ。遠藤教授を出迎えた横山社長は、原料転換の経緯を語り始めた。

遠藤教授
  「米材のネクスト」がスギへ転換した理由は何か。

横山社長
  当社が得意としていた米マツ尺下丸太(平均径級25㎝)が入手難になったからだ。代替材としてバルサムファーやニージーランド産米マツなども検討したが、結局、米マツ丸太輸入を6年前にストップし、それ以後は米マツ原板を輸入するようにした。スギに取り組み始めたのもこの頃からだ。当初は、朝倉工場で月200〜300㎥程度の丸太消費量だった。

遠藤
  スギを挽き始めた朝倉工場の製材ラインは一部カナダ製で、北米の製材工場と同じスタイル。そのままスギ製材は可能だったのか。

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スギ丸太の原板取りについて説明する横山社長(左)

横山
  柱を量産するには少々効率が悪いが、スギ中目丸太(末口径級24〜28㎝)の原板製材なら十分可能だ。現在は4000㎥のスギ丸太から原板2800㎥を製材している(歩留り70%)。このうち64%を朝倉工場で、残りを本社工場(日田市)で再割している。再割機には、プレーナーギャングを使用している。

丸太→原板→再割加工で羽柄材市場のニーズに応える

遠藤
  原板を輸入して再割するのは米材や北洋材でよくみられるが、スギ丸太から原板を製材するのは全国的にみても珍しい。丸太から一気に製材品を挽かずに一旦原板に製材するのはなぜか。

横山
  当社では原板から間柱やタルキなどの羽柄材を再割製材している。その羽柄材市場は、ここ数年、AD(天然乾燥)材やKD(人工乾燥)材のニーズが大きくなった。このニーズに量産で応えるためには、広大な敷地で原板の段階で3か月間桟積みをし、ADにするのが効果的。ADの需要にはAD原板を再割製材し、KDのニーズには再割後さらに乾燥する形で対応できる。現在スギのADとKD率は約3割だが、今後増やしていきたい。

遠藤
  最近、AD、KD羽柄材が活況を呈しているが、売れ筋商品は何か。

横山
  間柱が売れ筋。ホワイトウッド間柱の輸入が減少したためだ。現在、ホワイトウッド間柱が5万2000〜3000円、これに対して、スギ間柱は4万7000円〜8000円だ(オントラ、㎥単価)。しっかりした製品であれば使ってもらえる。外材と十分に競争できる。

「大分方式乾燥」でKD間柱の量産供給にメド

  間柱市場はこれまで、欧州産ホワイトウッド間柱(KD材あるいはFJ=フィンガージョイント材)の独壇場だった。それが一昨年秋頃から欧州産間柱が値上がりし、スギKD間柱と価格が逆転した。
  間柱とは、家の下地をつくるため、柱と柱の間に入れる小さな柱のこと。その上にクロスを貼るため、間柱が曲がったり反ったりするとクロスが歪んでしまう。したがって、曲がり、反りは絶対に許されない。スギ間柱は、柱を製材した際に出る背板から採るのがベストと言われている。つまり柱製材の副産物。しかし、それでは量産がきかない。そこでネクストではスギ中目丸太から芯持ちも含めて一旦原板に製材して十分にAD(天然乾燥)を施し、その後再割製材することによって品質の高い間柱を量産している。

遠藤
  ネクストではスギKD材製品を増やすに当たって「大分方式乾燥」にも取り組むと聞いているが。

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天然乾燥中のスギ間柱原板

横山
  「大分方式乾燥」とは、ADとKDを組み合わせた乾燥方式で、割れ、曲がり、含水率(20%以下)などに一定の基準があり、これをクリアすると「大分方式乾燥」材と認証される。これまでは柱が多かったが、当社では間柱を中心とした小割で「大分方式乾燥」材の認証をとりたい。乾燥試験を重ねた結果、KD間柱の含水率は13〜16%と上々の仕上がりだった。量産化にメドがついた。

遠藤
  まさに「米マツのネクスト」から「スギのネクスト」への転換だ。ところで、米マツとスギを比較した場合、どちらのメリットが大きいか。

横山
  米マツに軍配を上げざるをえない。原板→製品ベースでは米マツのほうが粗利益が大きい。品質の面では、スギは曲がりやすく、釘持ちが悪いなどの弱点がある。また、米マツに比べると「コシ」がない。ただし、人工乾燥すればこれらの問題は克服できる。だから乾燥に全力投球をし、名実ともに「ネクスト(次)」はスギで勝負に出たい(笑)。

産へ原木を直接調達、採材・価格形成が有利

遠藤
  スギ丸太の確保についてはどうか。

横山
  日田地域には原木市売市場が7つある。月4000㎥程度の丸太ならば原木市売市場で確保できる。ただし、今後増産体制に入った場合は、山元からの直送も視野に入れる必要がある。

遠藤
  なぜか。

横山
  2つ理由がある。1つは実需に対応した採材が必要だからだ。当社の主力商品である間柱を例にとろう。間柱の需要は在来軸組構法住宅以外にマンション工事でも大量に使われる。そのマンション用間柱の長さは2・7mだ。ところが、原木市売市場ではこの長級の椪はない。3mか4mだ。どうしても山元で2・7mに採材する必要がある。

遠藤
  もう1つの理由は?

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スギ間柱原板の再割

横山
  量産製材を進めていく場合、A材(直材)独自の流通や価格形成機能を創出する必要があるからだ。

遠藤
  同感だ。B材(曲がり材)は、集成材、合板メーカーがプライスリーダーになって価格を上げ、むしろ最近では原木市売市場の相場をリードしている。

横山
  それに対してA材は、九州だけでもこれだけ製材規模が拡大しているにもかかわらず、製材メーカーがプライスリーダーになりきれていない。「A材価格は需要が増えても上がらないのでは」といった悲観論も出ている。

遠藤
  KD材の量産工場が山元との直送パイプを太くしようと思っても、丸太取引の際の価格決めは近隣の原木市売市場の相場を参考にせざるをえないのが実状だ。

横山
  その原木市売市場の相場は、グリーン材中心の中小製材メーカーがつくっている。当社としては、相場より高くても丸太が欲しい場合が多々ある。しかし、高い「札」を入れると相場を乱したと反発を食う。悩ましい問題だ。

遠藤
  結局、ネクストのように高品質の製品を安定供給しながら製品価格を上げ、それに連動させる形でA材価格を上げていくしかないのではないか。

横山
  そうだ。外材の場合、製品が売れなくても丸太が高どまりするケースは珍しくないが、スギ丸太は確実に製品価格に連動する。

遠藤
  高品質の製材品を量産しようとすると、製材工場間でかつての米マツ製材のような淘汰が始まるのではないか。最近の情報では、問屋着値4万円/㎥のKD間柱が流通していると聞いている。

横山
  量産によるコストダウン方式だけで生き残れないことは確かだ。

(『林政ニュース』第345号(2008(平成20)年7月23日発行)より)

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