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丸太供給の担い手を自覚、日田の有力原木2市場

昨年度(平成18年度)にスタートした「新生産システム」が2年目に入り、徐々に課題が浮き彫りにされつつある。なかでも丸太の安定供給にかかわって、原木市売市場をどう位置づけるかは大きな問題だ。現場の関係者も困惑を隠さない。前号(第319号)の「ルポ&対論」で取り上げた日田市森林組合でも、原木市売市場の位置づけが重要な検討課題になっていた。そこで、年間5万㎥以上の丸太を扱う原木市売市場が軒を並べる大分県日田地域を、遠藤日雄・鹿児島大学教授が再度訪れた。迎えたのは(株)九州木材市場(以下「九木」と略称)の田中正史・取締役社長と(株)ナンブ木材流通の武内達男・代表取締役社長の2人。「新生産システム」を実施する中で、原木市売市場はどのような存在意義を発揮できるのか。当面する課題と今後の方向が2人の話から浮き彫りになる。 

九州木材とナンブ木材で丸太流通の4割占める 

遠藤教授 
  日田地域(旧日田市郡)には2つの森林組合系統共販所を含めて7つの原木市売市場がある。総丸太取扱量は約40万㎥/年。地域内製材工場80社のほとんどが原木市売市場経由で丸太を仕入れている。このうち2社の丸太取扱量はどれくらいか。

田中社長 
  弊社は約10万㎥、ナンブは6万㎥。ともに8割がスギだ。2社で日田地域の丸太流通の4割を占める。だから、我々2社市場の問題は、日田地域全体の問題に通じる面がある。 

遠藤 
  月2回の市とすると7市場で月14回、これに隣接の福岡県浮羽地域や大分県山国地域の原木市売市場を入れると、ほぼ毎日、どこかで市が行われていることになる。

田中
 弊社市場では常時60〜80人の買方が市に参加する。1市の丸太取扱量は4000〜5000㎥、わずか2時間で市はお開きになる。 

原木市場への依存度高い“地域性”に配慮する 

  新生産システムでは、山元からの原木(丸太)直送によるコストダウンが目指されている。だが、日田地域では、原木市売市場と製材工場が一体となって日本有数の製材産地を形成してきた。このような地域特有の“事情”を踏まえておかないと、新生産システムが描くシナリオは、画餅に帰す恐れもある。 

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原木市場の役割を力説する田中社長(左)と武内社長(右)  

遠藤 
  日田地域では、原木市売市場の発展と表裏をなして製材工場の分業化・専門化が進んできた。現状はどうか。 

武内社長 
  当地域の特長である周密な仕訳が今でも行われている。一例を挙げると、日田の原木市売市場では、タルキ用の末口径10㎝以下の丸太でもA材、B材、C材に仕訳するのが普通だ。直送をする山土場で、こんな周密な仕訳をすることは難しい。 

遠藤 
  『木材流通構造調査報告書』をみると、九州の製材工場は丸太を仕入れる際に、原木市売市場への依存度を高めている。ところが、同じスギ材産地の東北では、逆に依存度を低下させている。地域性の違いだ。新生産システムの実施に当たっても、この地域性を無視することはできない。とくに、日田地域を含む大分圏域では、原木市売市場を組み込んだ地域モデルを確立すべきだろう。 

武内 
  そのとおり。原木市売市場のもつ丸太集荷能力と周密な仕訳・配給機能、それに価格形成機能をきちんと評価した上で、直送を取り入れる際のメリットについて議論すべきだ。 

田中 
  しかも、日田地域の原木市売市場には、製材業者で組織した買方組合がある。新生産システムを進めるにあたって、買方組合との調整は必須事項だ。

6万㎥増産へ、専属の素材生産業者も活用  

遠藤 
  大分圏域では、新生産システムが終了する4年後には、製材規模の拡大に伴って6万㎥の丸太供給増が見込まれている。計画どおりの増産は可能なのか。 

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原木市売市場の丸太仕訳機

田中 
  原木市売市場の素材生産者的側面に注目してほしい。弊社では、受託販売のほかに、自社で立木を購入してその伐出を素材生産業者へ請け負わせたり、素材生産業者に立木を購入させて丸太にして弊社市場へ出すケースがある。こうした弊社専属の素材生産業者が5、6組いる。 

遠藤 
  森林組合系統共販所を除く民間の原木市売市場では、そのような丸太の集荷方法が増えているという。とすれば、原木市売市場を素材生産業者と見立てて、ここと製材工場との相対取引方法の姿を追求できるのではないか。 

架線で1人1日10㎥、コストは4600円/㎥  

  翌日、九木の田中昇吾・専務取締役が、専属の素材生産業者の手がける伐採現場へ遠藤教授を案内した。800mの索道を張った集材、玉切り作業が行われている。グラップルを操作する親方を含めて5人の作業員がいる。緊張感と集中力が張りつめている。彼らが持ち場を離れるのは水を飲むときと用を足すとき、昼飯を食べるときだけ。そのほかは朝6時から夜7時までぶっ通しで作業に当たる。 

遠藤 
  久しぶりに架線集材をみた。どれくらいの伐出コストか。 

田中専務 
  4600円/㎥だ。1人1日10㎥はこなす。ほかの伐出現場でも、車輌を使ったり、高性能機械を使ったり様々だが、いずれにしても注目してほしいのは、原木市売市場の原木集荷量増大は、このようにして実現していることだ。

◇      ◇ 

  新生産システムを遂行する上で、原木市売市場にまず求められる役割は丸太 の集荷機能だ。日田地域では、原木市売市場自らが立木を購入するなど、丸太供給の主要な担い手となっている。次のステップは、原木市売市場の丸太配給機能、つまり製材工場との丸太取引形態などを、時代にあわせて改善・発展させていくことだ。高品質で適正な価格の製品を、最終需要者のもとへ効率的に届けるために、蓄積されているノウハウを見直す時期に来ている。

『林政ニュース』第320号(2007(平成19)年7月11日発行)より)

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