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究極の低コスト国産材住宅を全国へ!スモリ工業(下)

前回からつづく)基礎着工から完成まで、わずか15日しか要しない〝究極の低コスト国産材住宅〞を売り出したスモリ工業。「スモリの家」は、すでに国土交通省の超長期住宅先導的モデル事業に採択されているが、同社の家づくりはさらに進化を続けている。住まい手と職人の立場から、ムダ・ムラを徹底的に排除する同社が描く〝未来の住宅〞とはどのようなものかーー。

超短工期、解体→再建築を前提とした「動産」住宅

今年の2月14日、スモリ工業が仙台市内で行った〝究極の低コスト国産材住宅〞のデモンストレーションは、大きな反響を呼んだ。1日あれば、壁や屋根をスピーディに組み上げられることを、消費者の眼前で実演したからだ。地元テレビ局は、「通常2週間はかかるとされる仕事が1日で完了。流通コストや人件費が大幅に削減され、価格は一般的な木造住宅より2〜3割安くなる」などと報じた。

遠藤日雄・鹿児島大学教授
工期が短縮されれば建築コストが下がることはわかっているが、なかなか実践できるものではない。どのような工夫があるのか。

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独自開発した高耐久・高断熱の「銀我パネル」を組み立てていく

須森明・スモリ工業社長
土台から構造、屋根下地、内部ボード貼り、サッシまでの基礎構築を1日で完了する技術面のめどはたった。後は基礎をやるだけ。コンクリート基礎はなくす。その代わりに、鉄製の杭を1m間隔で支持層まで打ち込む。この基礎工法の許可が、7月に国土交通省から下りた。
すでに、床や壁などは、すべてパネル化・パーツ化し、施工現場では、はめ込むだけにしてある。鋸も釘もいらなくなった。

遠藤
耐震性や耐久性は大丈夫なのか。

山本達夫・スモリ工業取締役社長室長
つくば市の土木研究所で阪神・淡路大震災級の実大振動実験を行い、構造レベルで全く問題のないことが証明されている。また、パネル化・パーツ化を徹底したことで、解体と再建築が非常にスムーズになった。本社の展示場に、振動実験後に再建築した家がある。断熱・機密性などを測定したが、再建築前と同じだった。

須森
この工法で建てる家は、解体して再建築しても資産価値が減らない。その意味では、土地に定着する「不動産」ではなく、移転可能な「動産」と言える。土地と建物を両方は買えない、30年から35年もの住宅ローンは払えないという人でも購入できる家だ。

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振動実験後に解体し、再建築した住宅

遠藤
今の住宅は、完成後15年もたつと上物の評価がゼロになると言われている。そうした〝常識〞を覆すような工法だ。

情報も資金も山へダイレクトにつなぐ体制へ

スモリ工業が追求し続けている「山からの一貫体制」による家づくりは、山に一番近いところ(産地)で木材を加工し、産地の職人が建て方まで手がける。〝究極の低コスト国産材住宅〞でも、この仕組みは変わらない。したがって、山側のパートナーである、けせんプレカット事業協同組合(岩手県住田町)の役割が重要になる。

泉田十太郎・けせんプレカット事業協同組合専務理事
再建築のできる工法を普及していくには、パネル化・パーツ化された部材の安定供給が前提になる。そのためには、工場段階での品質管理を徹底しなければならない。高品質の部材を安定供給できる産地の職人が町場に行き、1日で建て方を終えて帰ってくるというのは、1つの理想型だ。中間コストが不要になり、収益が直接産地に還元されることになる。

須森
大切なのは、お客様と山で働いている人をつなぐこと。我々は、その仲人役に徹することだ。例えば、お客様に、ドアや窓枠などをサンプル模型で選んでいただく場合、サンプルにはすべてバーコードを付し、直ちに工場に発注できるようにしている。あらゆる情報を、山元にダイレクトにつなぐことが本当の合理化になる。

泉田
須森社長は、現場で働く人が目一杯頑張れる条件づくりに腐心している。当組合に流れてくる図面などは、非常に具体的でわかりやすい。それだけに、求められる水準や素材を見る目は厳しい。お互いにプロとしての仕事をすることで、本物のネットワークができるという考えだ。

須森
山元のプレカット工場がしっかりしないと、山からの一貫体制も低コスト住宅も実現しない。今後は、お客様から直接プレカット工場に資金などが流れるようにしたい。プレカット工場が単純な加工作業に終始していては、元請け会社の意向に左右されるだけだ。私は左官職人から孫請け、下請けをやってきた。その経験から、独り立ちしなければいいものはつくれないと痛感している。ただし、独立すると助けてくれる人はいなくなるから、責任をしっかり持たなければならない。

“人”を大切にする家は、エコな家になる

山からの一貫体制による〝究極の低コスト国産材住宅〞は、エコな家でもある。FSC認証林から持続的に供給される国産材を利用することで、二酸化炭素(CO2)の吸収など環境に配慮できる仕組みができているからだ。

山本
家を建てて森を育てる。住宅メーカーも環境対策に取り組まなければ生き残れなくなった。ただし、社長からは、あくまでも基本は〝人〞だと口を酸っぱくして言われている。

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曲線を活かしたオリジナルドアの強度を確かめるスモリ社長(右は、山本・社長室長、左は、泉田・けせんプレカット専務)

須森
スモリの家は、すべて曲線で仕上げるようにしている。自動車のデザインもそうだが、人にやさしくしようとすれば、曲線が基本になる。丸いものからは、好意や愛が感じられ、それがエコにもつながる。何度も言うが、一番大切なのは〝人〞。家に住む人、そして家を建てる職人が主役であるという根本を、忘れてはならない。

『林政ニュース』第371号(2009(平成21)年8月26日発行)より

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