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究極の低コスト国産材住宅を全国へ!スモリ工業(上)

未曽有の不況に見舞われている住宅業界が、生き残りを賭けて国産材シフトを鮮明にしている。大手木造住宅メーカーが主要部材を外材から国産材に切り替えたほか、プレハブ住宅や2×4住宅、さらにローコスト住宅を売り物にする新興メーカーも国産材の使用に乗り出した。業界地図が一変するような状況だ。その中で、10年以上前から国産材を使い続け、着実に業績を伸ばしている住宅会社が仙台市にある。年間270〜280棟を建築するスモリ工業(株)(須森明・代表取締役社長)だ。全国に先駆けてスギ集成材を本格採用した同社は今、〝究極の低コスト国産材住宅〞の開発を進めている。栄枯盛衰の激しい住宅業界にあって、なぜ同社はここまでの成長を遂げることができたのか――。その理由を探るべく、遠藤日雄・鹿児島大学教授は、同社に国産材部材を納入しているけせんプレカット事業協同組合(岩手県住田町)の泉田十太郎・専務理事を伴って、須森社長を訪ねた。

お客様に迷惑をかけないためにスギ集成材を採用

遠藤教授と泉田専務が初めてスモリ工業の門を叩いたのは、平成10年のことだった。目的は、スギ集成材の販路開拓。当時は、住宅部材といえばムクのグリーン材(未乾燥材)が一般的であり、スギ集成材の認知度は極めて低かった。遠藤教授と泉田専務がスギ集成材の将来性を訴えても、業界内の反応は冷ややかだったという。

遠藤教授
あの頃は、スギ集成材のことを話すと、頭がおかしいとまで言われた。須森社長との出会いがなければ、これだけスギ集成材が使われるようにはならなかったと思う。

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須森明・スモリ工業社長

須森社長
山からお客様に迷惑をかけない。お施主様に品質のいい家を提供する。そのためには、スギ集成材が不可欠だった。

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泉田十太郎・けせんプレカット事業協同組合専務理事

泉田専務
須森社長は、グリーン材やムク材は使わないと最初から言っていた。それは、狂うからだ。お客様のことを考えたら、品質のいい動かない木で家を建てるのは当然のこと。しかし、これが現実には行われていない。建築コストを下げるために、グリーン材や中途半端な乾燥材を使用する住宅メーカーが後を絶たない。

須森
今、伐採されている樹齢50年程度の木はまだ若く、どうしても暴れる。とくにスギはクセがあり、人工乾燥も難しい。そうした木で家を建てると、お客様に迷惑がかかる。100年、200年の木であれば落ちついてくるが、やむを得ず若い木を使うのであれば、暴れないように集成材にするのは当たり前のことだ。建築費に占める木材費の割合はたかがしれており、ムク材を集成材に替えてもコストは大して上がらない。

泉田
スモリ工業は、品質のいい家を建てるために、大変な苦労を重ねてきた。建て直しも厭わない痛みを伴うような過程を経てきたからこそ、キャッチフレーズである「正直な家 正直な価格」が実践できている。当組合とは、FSC森林認証のCoC(加工・流通過程の認証)も形成されており、仙台市内で認証材住宅の建設も進めている。スギ産地の住田町は、認証材住宅1棟に対し20万円を補助することを検討しており、信頼性の高い国産材住宅を供給できるパイプが確実に太くなってきている。

「山からの一貫体制」を無償で支援する財団を設立

スモリ工業は、自社で開発した「スモリの家」を建築する権利を全国のビルダー会員に無償で与えている。顧客と職人を大切にすることなどを謳った「スモリの家」の思想を理解し、実践することに関する合意書を取り交わせば、高品質の国産材住宅を造るノウハウが誰にでも提供される仕組みだ。すでに、ビルダー会員により、年間100〜200棟の「スモリの家」が建てられている。同社では、このネットワークをさらに拡充するため、7月に「スモリ財団」を設立した。同財団の運営を担当しているのは、須森社長の右腕と言える山本達夫・取締役社長室長だ。

遠藤
なぜ今、財団設立なのか。

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山本達夫・スモリ工業取締役社長室長

山本室長
当社が追求し続けてきた「山からの一貫体制による家造り」により、輸入材で建てるよりも性能がよく、コストの安い国産材住宅が建てられるようになった。この十分な市場競争力を持つ国産材住宅を全国に広げていきたいというのが須森社長の考えだ。そのために、財団を発足させた。財団は、職人の教育や工場生産の合理化を支援するため、講師・指導者の派遣などを行う。一方、現場レベルでより実践的な事業をする「NPO法人スモリ」も立ち上げた。NPOの活動を財団がサポートするかたちになる。

須森
私が「スモリの家」の思想をまとめたのは、十数年前のことだ。だが、時代とかけ離れていたのか、余り広まらなかった。それがここにきて、共益・互助の思想に共鳴していただける方が増えてきている。

「スモリの家」の思想
「スモリの家」の思想は、家族愛に満ちた家造りと、現場職人さんへの感謝と敬意を現実の形にするものである。家族全員にとって終生の安らぎの場となる住宅は、資産としていつまでも美しく丈夫で長持ちし、健康と安全を実現し、更に地球環境にまで配慮されていなければならない。そのような住宅を建てる為には、質の高い提案に始まり、充分な量の良質な材料と、職人さんの心のこもった家造りが欠かせない。この住宅を提案し、そこに住まう家族全員の賛同を獲得し、更に現場の職人さんが本来の力を発揮する為には、「言葉」「文字・記号」「白黒図面」(これらは非常に分かりにくい)に頼った意思伝達は、可能な限り禁じて行かねばならない。更に、ただ単に低コストで良質に建てるだけでなく、建てた後もその住宅に責任を持ち守り続け「地域社会全体」からの「信用と信頼」を獲得する事により、真の繁栄を実現する事がスモリの家の思想の目的である。同時にその目的は、日本の住宅の社会資本としての真の充実に貢献するものである。

遠藤
須森社長に先見の明がありすぎたのかもしれない。ようやく時代が追いついてきたとも言える。今回の不況を乗り越えた後の家造りは、地域で支えることが基本になるだろう。その際の拠り所の1つが、この財団になるのではないか。

山本
新設した財団は、いわゆる一般財団ではなく公益財団にする。事業内容は、もっぱら奉仕活動になるので、実働部隊としてNPO法人が活動する。ただし、当社で設立するNPO法人に限らず、「山からの一貫体制による家造り」に取り組んでいるところは、すべて財団の支援対象になる。社長から常々注意されているのは、必ず人に働きかけなさいということだ。

須森
人とのつながりを大切にしたい。とくに、山で働く人、工場で働く人、現場で働く人をもっと大事にしたい。一方通行ではなく、山もお施主様も両方よくならないといけない。これが、すべての答えだ。

ムダ・ムラを徹底的に排除し、着工後15日で完成

左官職人から独立し、1代でスモリ工業を築き上げた須森社長は、家造りの主役は家族であり、職人であると言い続けている。そのポリシーは、同社が出している「スモリの家」のパンフレットにも明確に表れており、各ページに子供達と職人の笑顔が溢れている。大手住設メーカーの商品カタログも、家族と職人を中心にしたスモリバージョンに作り替えるほどの徹底ぶりだ。

遠藤
住まい手とつくり手のことを第一に考えるのが基本だが、実は今の家造りで一番欠けているところだ。

須森
家は何のためにあるのか。親は、子供のために家を建てる。では、お子さんのための家造りとはどうあるべきか。例えば、「スモリの家」には、柱にしろ幅木にしろ角がない。すべてを丸く、曲線になるように仕上げている。手間暇はかかるが、この方が人にやさしいし、安全だ。一方で、従来の家造りにつきまとっていたムダ・ムラは徹底して取り除いてきた。「スモリの家」の思想にあるように、言葉や文字・記号、白黒図面などは、現場の職人さんが本来の力を発揮する上では不要なものだ。こうした見直しを積み重ねて、最終的に辿り着いた工法の1つが、現在開発が最終段階にある究極の低コスト国産材住宅だ。基礎着工から完成まで、15日しかかからない。

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「スモリの家」のパンフレットの一部、本体工事以外の費用も含めた「正直な価格」が明記されている

遠藤
わずか15日で完成!一体どのような住宅なのか?(次号につづく)

『林政ニュース』第370号(2009(平成21)年8月5日発行)より


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