座談会スギ合板大量供給時代へ 秋田プライウッドの衝撃
合板メーカーのスギ使用量が増え続けている。業界トップを走るセイホクグループは、スギへの原料転換路線を強化。なかでも、同グループの中核メーカーである秋田プライウッド(株)(秋田市川尻町、井上篤博社長)の積極姿勢は、地元に大きな衝撃を与えている。そこで、秋田の林材業界に詳しい3氏に、スギ合板大量供給時代の現状と課題について語り合ってもらった。
渡辺一徳・秋田プライウッド(株)常務取締役
福田隆政・林野庁東北森林管理局長
遠藤日雄・鹿児島大学農学部教授(司会進行)
スギ使用量が年1万㎥から24万㎥に急伸
遠藤教授
今でこそ合板メーカーが普通にスギを使うようになったが、最初に着手したのは秋田プライウッドだった。その動機は何だったのか。
渡辺常務
当時、秋田県ではスギの蓄積量が非常に増えていたが、単価は下がっていた。その中で、当社の企業理念である地球環境保護と地域社会への貢献に合致する事業として、国産のスギ丸太を合板原料に使うプロジェクトを立ち上げた。
遠藤
本格生産は、平成13年からだったと聞いている。
渡辺
13年のスギ丸太使用量は1万㎥だったが、昨年の使用量はカラマツ、アカマツ等の1万㎥を含めて23万8000㎥、原木消費量の約35%相当になった。
遠藤
まさに急増だ。スギの供給量が増えればもっと使えるのか。
渡辺
まだまだ使える。今年度の当社のスギ丸太使用量は、対前年度比15%増、原木消費の40%を占めるのが目標だ。今後さらに製品開発をしながら50%以上を目指すことにしている。
原木の半分は国有林材、山元の意識変革進む
遠藤
それだけのスギ丸太をどうやって確保しているのか。
渡辺一徳・秋田プライウッド常務取締役
渡辺
昨年使った約24万㎥のうち、22・7%を国有林材のシステム販売で調達した。このほかの主な仕入れ割合は、秋田県素生連が21・4%、県森連が27・8%、秋田プライウッド支援グループが28・1%となっている。
遠藤
素生連の扱う材も含めると国有林材のウエイトが約半分を占めている。東北国有林の存在の大きさを感じる。
福田局長
確かに、東北国有林の持つ潜在的な供給力は大きい。ただし、秋田県内にある人工林のha当たり平均蓄積を比較すると、民有林が260㎥であるのに対し、国有林は160㎥。また、面積は、民有林の23万5000haに対し、国有林は13万ha。つまり、国有林は民有林よりも若く、かつ資源量も少ない。そうした中で、国有林の低質材を中心に合板メーカーに供給している。
遠藤
これから国有林材の供給力を強化する計画は?
福田
素材生産の合理化とコストダウンが不可欠だ。昨年から、国有林の現場職員と素材生産業者がユニットを組み、効率化に向けた検討をスタートさせた。東北局管内は、まだ列状間伐の割合が低く、昨年は全体の1割しかやっていない。これを今年中に3割強から4割に引き上げる。併せて、収穫調査の簡素化なども進めている。職員や素材生産業者の皆さんには、「日本一の合板メーカーと付き合っているのだから、我々も日本一の仕事をしよう」と言っている。
遠藤
現時点での手応えはどうか。
福田
システム販売をベースにして、素材生産業者が高性能林業機械を導入し、事業の通年化、経営の安定化に向かっている。国有林の仕事を請け負うという意識が薄れ、自分達が伐り出した材をどう売っていくかという発想が出てきた。この意識改革が国有林・民有林を通じて広がれば、秋田林業全体の底上げにつながるだろう。
スギの切削に苦心、土場整備などにも設備投資
遠藤
合板にスギを使うにあたって、技術的な問題はなかったか。
渡辺
まず、切削が大変だった。そこで、機械メーカーとタイアップして、ロータリーレースの刃先角の改善を進めた。一番大きかったのは、コンピューターを取り入れた研磨機の導入だ。スギは夏目と冬目の密度の差が大きく、死節は非常に硬い。こうした特性を踏えて、どの角度で切削するのが最適かを研究して刃先をつくった。
遠藤
どのくらいの径の間伐材まで剥けるのか。
渡辺
径14cmまで剥ける。出てくる剥き芯は径5cmになる。
遠藤
切削以外の工夫は?
渡辺
ロータリーレース、乾燥機や研磨機、蒸煮室、バーカーなども、スギに対応できるように1つ1つ設備してきた。丸太のストックヤードも、外材時代の水面取りから土場取りに整備し直すなど、相当額の設備投資をした。昨年も11億円を投資し、スギの使用比率を高める準備をしている。
遠藤
北洋カラマツも秋田スギも同じ針葉樹だから、すぐに合板用に使えると思いがちだが、長い努力がここにきて結実してきたことを再認識させられる。
”縦使い”と”見せる合板”で需要は伸びる
遠藤
合板は国際商品だ。インドネシア産やマレーシア産の合板、MDFやOSBなどとのグローバルな競争にさらされている。
渡辺
昨年は、厚物合板中心に品薄が続き、値段も上がった。その結果、合板の代替品としてOSBの輸入量が増えている。OSBは、強度的には合板より劣るが価格競争力がある。
遠藤
これから合板の需要量を確保していくためには、商品開発が重要だ。ただ単にスギの丸太を使うのではなく、住宅工法の変化に対応したマーケティングが必要になる。例えば、合板を壁用に使うことで建築物の耐震性が高まるという提案が出ている。
福田
いわゆる合板の”縦使い”は、これから需要が伸びる分野であり、国有林もそれに合わせたかたちで材を供給していきたい。
秋田プライウッドでは、内装用合板の「杉小町」をブランド化しているが、このフェイス(表板)には、節のない、年輪の緻密な材を使っていただいている。
福田隆政・東北森林管理局長
渡辺
スギを多く使用するには、さらなる厚物合板(ネダノン)の需要拡大が重要だ。また一方では、「杉小町」のような”見せる合板”という方向がある。「健康」や「家族」というコンセプトで住宅が造られる中で、合板は内装用として、見て使っていただきたい。そのためには、剥き肌をきれいに仕上げなければならない。
当社では、スギの剥き肌を重視して、丸太を一端蒸煮し、水分率を一定にしてから乾燥している。乾燥された単板は密度計で測定を行って、構造用・内装用など強度に合わせて工場で製品化している。
工場着価格は平均9000円/㎥だが…
遠藤
次に、取引価格の問題を検討したい。秋田プライウッドでのスギの工場着価格は㎥当たり9000円ということだが。
渡辺
それは平均の値段で、実際は径級によって異なる。スギの2m材の場合は、径級を14〜16cm、18〜24cm、26〜40cmに3区分しており、それぞれ買取値段が違う。
福田
国有林材は若干細いので、工場着価格は平均8500円になっている。
遠藤
北洋カラマツの価格が石6000円なので、㎥当たりにすると約2万円になる。スギはかなり安い。
福田
ただ、スギは北洋カラマツよりも歩留まりが悪く、乾燥の難しさなどもあってコストがかかり増しになる。単純に値段を比較することはできない。
大量の「秋田杉合板」が供給され始めた
渡辺
合板の原料として、最終的にフェイスとバック(裏板)に使える強度があると、北洋カラマツと同様の評価となり、当然、価格も高くなる。
福田
我々も、そうした需要ニーズを勘案して予定価格を設定し、販売している。フェイスとバックに本格的に使われる材については、これにふさわしい価格で評価していただきたい。
(『林政ニュース』第312号(2007(平成19)年3月7日発行)より)
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