国産材を中国へコンテナ輸出、山下回漕店
「100年に一度の大不況」を打開するためには、内需の振興とともに、アジアの経済成長を視野に入れた新たな需要拡大策が不可欠である。しかし、国産材輸出は試行錯誤の連続で、未だビジネスモデルが構築できていない。なぜなのか。そこで遠藤日雄・鹿児島大学教授は、コンテナ輸送を手がける(株)山下回漕店(田中久米雄・代表取締役社長、鹿児島県志布志市)を訪ねた。同行したのは日本貿易振興機構(ジェトロ)鹿児島貿易情報センターの水谷俊博係長。3人のディスカッションから、国産材輸出の突破口が見えてくる。
帰りコンテナの空荷対策に国産間伐材を活用
鹿児島県の志布志港は、平成8年に中核国際港湾に指定された。同港の沖合は環太平洋の国際海上コンテナルートに位置し、国内外の中継地となっている。この恵まれた立地条件を活かし、現在、中国、韓国、台湾、香港、フィリピンへの定期コンテナ航路が開設されている。
コンテナが積まれる志布志港
遠藤教授
「回漕店」という社名からは、北前船を連想する(笑)。
田中社長
弊社は大正元年の設立。爾来、北前船と同じように船舶の荷受、輸送、決済業務を行ってきたが、4年前に造船・海運・サービス業を手がける常石グループ(広島県福山市)の傘下に入った。また、同グループの一員である(株)グローカルジャパンと提携している。同社の母体は常石造船(株)と神原汽船(株)。神原汽船は、100年以上の歴史をもつ世界的な海運会社だ。平成6年に日中航路を開設し、上海、大連、青島、廈門などの主要港と日本国内各港にサービス網を広げている。志布志港もその1つだ。
遠藤
国産材との接点は何だったのか。
田中
志布志港には東南アジアの主要港からコンテナが入るが、帰り荷の大部分が空だ。20年度実績で約7万コンテナ(20フィート換算)が入港したが、そのうち2万コンテナ(3割弱)が中国から。その中国への帰り荷の5%に古紙、プラスチック、鶏糞灰などを積むが、残り95%は空荷だ。この空荷対策として、3つの輸出商品にトライした。第1は、鹿児島県産のミネラルウォーター。だが、世界レベルでの大量生産・大量流通を余儀なくされるので勝ち目はなかった。2番目は有機肥料を扱ったが、これも結果的にダメだった。需要はあるが、動物検疫が厳しい。中国の農業試験場と共同して条件をクリアしなければならずハードルが高い。3番目が国産材、とくに間伐材(B材)だった。
小ロットでどこでもデリバリー、丸太300m3が単位
遠藤
コンテナ輸送にはどのような強みがあるのか。
田中
バラ積みの大型船には大量輸送というメリットがあるが、積み卸しに時間がかかる。船の速度も遅い。また、輸出側ではロットをまとめなければいけない。これに対して、コンテナ輸送は小ロットですむ。2m×2m×12mの箱の中にいかにバンツメ作業の効率化を図るかがポイントだ。さらにコンテナ輸送は、「ドア・ツー・ドア」で世界中どこにでもデリバリーできる。
遠藤
スギ丸太の場合、具体的にどのようなコンテナ輸出を考えればいいのか。
国産材輸出の可能性について語る田中社長
田中
コンテナ1本に丸太が約30m3入る。10本で300m3。これが丸太燻蒸の1幕に当たる。一方、志布志港には大連から週1便、上海から週1便、合計週2便、神原汽船のコンテナ船が入港する。週10本(300m3)、4週(1ヵ月)で1200m3。この程度の材積なら森林組合や素材生産業者が連携すれば供給できる。国産材を輸出したい場合は、弊社の丸太置場へ搬入するだけでOK。あとの業務は、すべて弊社が引き受けている。
「世界の工場」は製材品よりも丸太を欲しがっている
遠藤
輸出先の話に移りたい。隣の韓国はどうか。
田中
韓国はマーケットが小さい。狙うなら中国だ。それにロシア材の輸出関税80%が実施されれば国産材の競争力はつく。
遠藤
その中国への木材輸出だが、国産材業界には丸太ではなく付加価値を付けて製材品で輸出すべきという意見が少なくない。
田中
それは製材業や建築業サイドの考えだ。もっと大きな視点で中国を捉えて欲しい。中国は原料を輸入し、それを加工して世界に輸出する国だ。「世界の工場」とも言われる。木材に限っても、丸太で輸入して家具にしたりオモチャにして日本や欧米に輸出するケースが多い。中国は原料としての丸太が欲しいのだ。
遠藤
商魂たくましい中国が丸太輸入に関税をかけない理由がわかった。喉から手が出るほど丸太が欲しいということか。ところで、コンテナ輸送のコストはどうなっているのか。
田中
燻蒸処理費、バンツメ費込みのCIF(「Cost Insurance and Freight」の略で運賃保険料込み)で志布志港-中国沿岸部の主要都市までの輸送コストは、1m3当たり4000円、30m3で12万円だ。これは東京に船輸送するコストより安い。
国産農林水産物の輸出に詳しい水谷係長
水谷係長
志布志港を中心に半径1000㎞の円を描くと東京と上海が入る。昨秋、遠藤教授と上海へ行った折り、上海木材輸出入有限公司の建材担当者から「日本から輸出するなら丸太のほうがベター。日本で加工すると人件費が嵩みコストパフォーマンスが悪くなる」とアドバイスを受けた。また、上海着値130米ドル(昨秋)なら日本のスギ丸太も競争力が出るとも指摘していた。CIFで4000円/m3の輸送コストなら可能性は大きいのではないか。
価格と使い勝手、そして合法性が決め手になる
水谷
中国のスギは福建省を中心に3000〜5000万m3が出材されているといわれる。日本のスギの評価はどうか。
田中
日本のスギが中国産スギとどう違うのか。どのように利用すればよいのかがまだわかっていない。だから、日本の林野庁の協力を仰いで上海などの主要都市周辺にスギやヒノキの丸太常設展示場を設置したらどうか。家具やオモチャメーカーには中小企業が多い。5〜10m3単位で丸太を購入したがっている。
水谷
グッドアイデアだ。中国沿岸部では日本からの農林水産物展示会がよく開催されるが、食品以外にも継続的に品物が展示できる場所が増えていけば効果はさらに高まるだろう。
田中
フローリングや壁などの内装材にターゲットを絞ったPRも有効だ。欧米ではこれらは消耗品扱いで、傷がどうのこうのといった細かな注文はつかない。極端にいえば、丸太の長さは40㎝以上あればいい。要は価格と使い勝手だ。
もう1つ重要なことがある。合法木材という条件だ。中国はこれまでアフリカや東南アジアの熱帯材や南洋材を原料にして加工・輸出してきたが、欧米では合法木材として認められていない。その点、日本のスギやヒノキの間伐材には合法性がある。
遠藤
合法性の問題は大きなテーマだ。詳しく教えて欲しい。
燻蒸処理されたスギ丸太
田中
以前、鹿児島県のある素材生産企業がヒノキ丸太をオモチャの原料として中国へ輸出しようとした。その際、欧米の玩具メーカーから中国の加工業者へ合法木材証明書を提出するよう求められた。鹿児島県では林材協会と県森連で認証を行っている。その認証を英訳、中国語訳してクリアできた。中国産オモチャの塗料に有害物質が混入しているということで結果的にはキャンセルになったが、ことほどさように欧米は合法性にうるさい。逆に言えば、日本の〝合法的な〞間伐材を輸出するチャンスだ。輸出先が見えれば、間伐も一層進むことになるだろう。
(『林政ニュース』第362号(2009(平成21)年4月8日発行)より)
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