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新春座談会 「国産材時代」元年 国際競争力と中国輸出(下)

(前回から続く)国産材の国際競争力が高まり、中国への輸出も現実味を帯びてきた。トップリーダー4氏の座談会は、グローバルな視点から、「国産材時代」元年の可能性に切り込んでいく。
   
堀川保幸・中国木材(株)代表取締役社長  
林雅文・(株)伊万里木材市場代表取締役社長(西九州木材事業協同組合代表理事)
山田壽夫・林野庁九州森林管理局長
遠藤日雄・鹿児島大学農学部教授(司会進行)

外材の都合に左右されない世界レベルのシステムへ

遠藤教授
  国産材の国際競争力が高まった背景として、グローバルな木材市場の変化がある。今までのように、怒濤の如く外材が入って来る状況ではなくなってきた。
 
堀川社長
  最近のユーロ高で、ヨーロッパ材の対日輸出は益々難しくなってきた。ドイツやフランスの景気回復も影響している。
  アジアでは、やはり中国の台頭が大きい。あれだけ巨大な木材消費市場ができると、従来の貿易バランスが狂ってくる。例えば、ロシア材の対中国輸出量は、10年前は年100万㎥程度だったが、今は2300万㎥に増えている。そのロシアでは、原油高で資金的な余裕ができ、国内の労働力が1次産業から3次産業にシフトする現象が出ている。ルーブルも高くなっており、昨年までのようなロシア材の輸出ペースが続くとは考えにくい。総じて、世界市場の木材価格は底を打ち、上昇基調に入ると見た方がいい。

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堀川保幸氏(左)と林雅文氏

山田局長
  そこで注意すべきなのは、世界的に木材が不足するから国産材の価値が高まるという構図を乗り越えることだ。まず、世界レベルで見てもコスト競争力に優れた国産材製品をつくるシステムをつくり上げる。外材の供給量が再び増えても、互して戦えるような体制づくりをすることだ。
 
遠藤
  そのとおりだ。平成4〜5年にベイツガの輸入量が激減したが、国産材の供給量が十分ではなかったため、ヨーロッパ産ホワイトウッドに席巻されるという苦い経験をした。外的要因の変化に頼っているだけでは、国産材の競争力は高まらない。
 
山田
  トヨタの車が世界中で使われているように、国産材製品もグローバルに使ってもらえるようにしたい。1ドル=90円の円高でも、国内の新設住宅着工戸数が落ちても恐くないという基盤を今つくっておけば、中国への輸出もできるようになる。

中国輸出の狙いは上海、丸太でなく製品で

遠藤
  今話の出た中国への国産材輸出は、今年の大きなテーマだ。
 
山田
  ぜひ、この伊万里から、中国向けに第1船を出してもらいたい。そして、国産スギ製品が中国市場で通用することを証明してほしい。「日本の技術はすごい」と言われる1年になればと思う。
 
堀川
  そのつもりだ。まず市場調査をして、どういう国産材製品が最も好まれるかを掴みたい。輸出先は上海がいいだろう。大連にはロシア材が入っており、ここ伊万里からは1100kmもある。上海の方がはるかに近く、魅力的な市場だ。
  現在、九州では在来軸組住宅が年間3万戸しか建設されていない。つまり、40万分の木材需要しかない。これに対し、国産材の供給量は益々増えていく。したがって、九州以外の関東、近畿、中部などとともに、上海が市場開拓の大きなターゲットになる。地球儀で見ると、中国と日本はものすごく近い。九州は輸出産業を育てるのに最適の立地条件にある。

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山田壽夫氏(左)と遠藤日雄氏

山田
  国産材を中国に輸出する場合も、日本で使われない悪いものを持っていくのではなく、あくまで世界で通用する製品を輸出するというスタンスが大切だ。そのためには、原材料のままでなく、付加価値をつけた充分利益の出るものを輸出すべきだ。
 
堀川
  丸太よりは製品輸出だ。さらに、中国で加工のしやすい半製品での輸出が現実的だろう。

オール九州を船で結び物流コストを大幅ダウン

遠藤
  中国輸出まで視野に入れると、改めて国産材原木の安定集荷体制づくりがクローズアップされてくる。
 
林社長
  中国木材伊万里の生産計画に照らし合わせると、我々の年間原木集荷目標量は30万㎥くらいになる。これに当社の市売り分として10万㎥がプラスされるので、合計40万㎥の原木を集めなければならない。山に木はあり、加工設備も整ってきた。問題はいかに生産し、どうやって運ぶかだ。
40万㎥の原木をトレーラーで運ぶとなると、1日に40台以上になり、まず不可能だ。
  そこで、九州内の産地近くにある港にストックヤードをつくり、船で運んではどうかと検討を進めている。各港を船が回り、伊万里であればB材、熊本はA材、鹿児島は柱材というように、原木をまとめて届ける。もちろんストックヤードに集まった材を地域の需要者に供給してもいい。国有林、県有林、公社、民有林材をすべてストックヤードに集めて、販売価格はオープンにする。今までの木材流通とは別に、年に10万㎥、20万㎥というレベルで新しい需要に対応していくには、こうした仕組みがないと難しい。
 
遠藤
  海運に着目した新しい発想だ。

林 
  船が即トラックより安くなるかはよく検討したいが、九州を回るだけでなく、対馬や屋久島などの島や、四国にも寄れる。九州で生産された原木を、必要な人にきちんと配れる体制をつくらないと、このままでは材の取り合いになって、共倒れになる恐れもある。

国産チップの有効利用を、問われる「現場力」

遠藤
  ここまで主としてスギを念頭に国産材の新戦略を議論してきたが、戦後造林したヒノキの利用も課題になっている。
 
山田
  ヒノキの需要拡大は今年の重要なテーマだ。ヒノキのA材については、それなりの品質と価格が維持できるが、B材を何に使うかが難しい。工場着で㎥当たり1万2千円くらいで買ってもらえるような工夫が必要になる。
 
堀川
  ヒノキのB材は全部板にして、使えるものは国内で使い、そうでないものは人件費の安い中国で加工してはどうか。そういう棲み分けをして、ヒノキの歩留まりをあげていく。中国の特長、日本の特長、物流を考えて、木の価値を高めるようにしたい。
 
遠藤
  B材や小径木の活用という新しい流れをつくると、チップがたくさん出る。この有効利用も迫られている。
 
山田
  本来、チップは最後の付加価値を生むのだが、今は価格競争力がない。世界市場でチップがどう評価されているかも見て、国内の製紙工場に適正な価格で買ってもらえるようにしなければならない。
 
堀川
  スギのチップは、赤身と白身では価値が全然違う。製紙用として求められるのは白身のチップなので、それを適正な価格で買ってもらい、赤身のチップは、ハイブリッドビームなどに使えばよい。我々の役割は、いいチップを安定的につくること。そして、少しでも多く山にお金を返すことに尽きる。
 
山田
  今年は、文字どおり「国産材時代」元年になる。九州では、昨年までの努力で、大規模流通の流れができた。この流れをどう定着させるか、大変重要な年だ。そこで問われるのは「現場力」。それぞれの現場で様々な創意工夫を凝らし、これまでの取り組みを着実に根付かせて発展させる。今年は「現場力」がキーワードになる。

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中国木材伊万里を視察する4氏

遠藤 
  新春座談会というと、当たり障りのない一般論に終わりがちだが、今回は非常に具体的な議論ができた。その材料を与えてくれたのが、ここ伊万里だ。伊万里が「国産材時代」元年のモデルになりうるか、大きな試金石になる。どうもありがとうございました。
(於・中国木材伊万里事業所会議室)

『林政ニュース』第309号(2007(平成19)年1月23日発行)より)

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