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進取独立の精鋭部隊・フォレストテクニック

平成20年度版の『森林・林業白書―林業の新たな挑戦―』は、なかなか読み応えがある。副題にふさわしく、林野庁の森林・林業を改革する姿勢が随所にみられるからだ。その中に、「チャレンジ精神をもった担い手が森林づくりに取り組んでいくことが重要」(要約)という指摘がある。文言としてはわかるが、具体的にどのような「担い手」をイメージすればいいのか。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授は、天竜林業地(静岡県)を訪れた。平成19年夏、1通の挨拶状をもらったことが脳裏にあったからだ。文面には次のような件があった。「このたび天竜森林組合より独立、フォレストテクニック(株)(静岡県浜松市)を設立し、7月3日より発足いたしました。森林施業における機械化技術の向上を目指し、現場と事務との新しい関係を築き上げることを目標に、再出発いたしました」。差出人は、同社の代表取締役に就任した吉良達氏。横浜出身の36歳。吉良社長は、早速、遠藤教授を現場へと案内した。

ロングアームと特性ヘッドのハーベスタを活用

最初の伐出現場(スギとヒノキの間伐現場)にはケトー社(フィンランド)のハーベスタ(伐倒、枝払い、玉切りなどを行える高性能林業機械)が1台置かれていた。10mも伸びる長いアームと、そのヘッドにあるキャタピラが遠藤教授の目を引いた。

遠藤教授
天竜川は昔から「暴れ川」として有名。それだけに流域の地形は急峻だ。ハーベスタが本来の役割を発揮できるのか。

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ハーベスタのヘッドを説明する吉良社長(左)

吉良社長
ハーベスタという固定観念を捨て、造材作業に使いながら、急峻な場所でも作業路から届く範囲については長いアームを活かして立木の伐倒から玉切りまでを行っている。

遠藤
ヘッドの送材装置にあるギザギザはみたことがない。

吉良
円錐形の突起なので丸太に素直に食い込み、素直に抜けるメリットがある。しかも、丸太を掴んでいるときはグリップ力があらゆる方向に均等に働く。見た目は荒々しいが、これはイケルと思い、フィンランドの伐出現場で視察したときに導入を即決した。

伝統の殻を破り、1人で年1300m3の高生産性

吉良社長は、遠藤教授を次の現場に案内した。7haの間伐現場に2台のフォワーダが並んでいる。

吉良
2台とも中古を改良したものだ。設備投資をできるだけ軽減するために中古を活用している。林業作業は土木作業よりも現場の条件が厳しく、キャタピラの損傷頻度が高い。新しい部品は高額なので、できるだけ中古品を利用している。破損したキャタピラは舗装路の側溝を渡るときの下敷きに再利用できる。
また、この2台のフォワーダは、天ぷら油の廃油を使ったバイオディーゼルで動く。コスト削減とともに、環境にやさしい伐採作業をどう実行していくかが大きなテーマだ。

遠藤
ところで、吉良社長が森林組合に入ったきっかけは?

吉良
日本大学で森林科学を学び、平成8年に天竜森林組合に月給制職員として就職した。親方の下で下刈りから架線集材まで基本的な林業技術は習得させてもらった。その後、労務班(出来高制職員)への転向を希望し、機械班を立ち上げた。

遠藤
なぜ独立したのか。

吉良
天竜は戦前からの先進林業地。それだけに現場には伝統に固執する雰囲気が濃かった。その殻を打ち破り、新しい林業の確立にチャレンジしたかった。

遠藤
独立後の仕事の内容は?

吉良
大部分は天竜森林組合からの請負だが、機械班当時と決定的に違うのは、自分たちのカラーが出せるようになったことだ。道づくりから間伐の選木、伐採・搬出まで、現場を見ながらベストの作業をじっくり考えられるようになった。

遠藤
独立の目的には伐出生産性の向上があったのではないか。

吉良
弊社では、間伐で5・3〜5・5m3/人・日、皆伐で6・5m3/人・日を採算の目安にしている。今は間伐が多いが、このペースで1300m3/人・年はこなしている。

遠藤
すごい生産性だ。一般的に、森林組合の林産事業では500m3/人・年をこなすのが精一杯ではないだろうか。

吉良
林業の現場では、大きな組織ほど小回りが利きにくくなる。弊社のような小さな組織が得意な技術力をベースに一貫して請け負う方が効率的だ。機械は燃料の補給とメンテナンスをきちんとしておけば文句を言わないが、現場の作業員は違う。給料を上げてくれとか、昨夜夫婦喧嘩をしたので思うように仕事がはかどらないとか、メンタル的な側面も考慮しなければならない(笑)。機械よりも付帯費用のかかる人間の稼働率をあげ、スキルアップさせる。これがキーポイントだ。

遠藤
フォレストテクニックの社員は何名か。

吉良
私も含めて4人。うち事務が1名。作業管理と先行作業は私がやる。基本的に、現場は2名が理想だ。雇用形態は日給月給+出来高制度。朝8時から夕方5時までの仕事だ(現場時間)。伐出現場は、今日中にこの作業を終えれば、明日から別の作業に着手できるというケースが少なくない。したがって、会社全体で出た利益を現場の出来高に応じて配分する方式をとっている。工夫して頑張った分は必ず現場に返すのが弊社のポリシーだ。

鹿も近づかない急峻地に860mの作業道開設

吉良社長が最後に遠藤教授を導いたのは、約3haの間伐現場。高低差107mの急峻な地形で、架線集材もままならないという難所だ。ここに860mの作業道を開設して間伐を行ったという。

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谷筋をのぞき込むようにして作業道の開設状況を説明する吉良社長(右)

遠藤
源義経は一ノ谷の合戦における「鵯越の逆落し」の際、「鹿は四足、馬も四足」という名台詞を吐いて手勢を鼓舞したが、ここは鹿は通るのか。

吉良
鹿の害が発生したことは聞いていない。鹿も怖くて近づけないのだろう(笑)。

遠藤
こんな急峻なところにどうやって作業道を開設したのか。

吉良
この谷筋に集落がある。そこを目指して尾根から谷に向かって幅3mの作業道を、「ユンボ」にチェーンソーを載せて開設した。立木はバケットを利用して倒し、チェーンソーで処理しながら進んだ。正直怖かった。通常の現場よりも水の処理が難しかった。スウェーデンのトラック架装メーカーの技術者にこの現場を見せたら「オー、クレイジー!」と目を丸くしていた。

チャレンジ精神を体現するクローラトラック

事務所に戻った吉良社長は見せたいものがあると隣の空き地に遠藤教授を招いた。現在改良中のクローラトラック(高速フォワーダ)だ。フォレストテクニックの技術革新の真骨頂ともいうべき機械で、同社の提案で林業機械化協会とキャタピラー三菱(当時)とが開発したものだ。

遠藤
クローラトラックを思いついたきっかけはなにか。

吉良
10t以上の大型トラックが伐出現場近くまで入るのは難しい。大型トラックが進入可能なところまでフォワーダを使って丸太の搬出にトライしたが、片道1〜2㎞以上になると空車時の走行速度の遅さが無駄になる。また、現場にトラック道をつける例もあるが、キャタピラ道と違って一定の勾配を保ったり、車輌の回転半径に合わせた設計が必要になる。土工量が多くコストがかかりすぎる。ふと頭に浮かんだのが、雪上車。早速、林業機械化協会に提案した。問題は山積みだが、今も現場にマッチするように改良を重ねている。

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クローラトラック(高速フォワーダ)

遠藤
失敗を恐れない起業家精神と弛まぬ技術革新志向が、このクローラトラックによく現れている。『白書』のいう新たな「担い手」像を代表するモデルとして、さらにチャレンジを続けてほしい。

(『林政ニュース』第358号(2009(平成21)年2月11日発行)より)

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