羽柄材量産工場のトップランナー・庄司製材所
国産材製材業大手の規模拡大が顕著である。ただし、その多くは柱などの構造材や間柱の製材を中心に規模を拡大している。材積が嵩み、しかも種類が少ないため、製材コストの削減と効率性向上の両面でメリットが大きいからだ。では、羽柄材製材での規模拡大は進んでいないのか。その先進的事例を求めて、遠藤日雄・鹿児島大学教授が山形県真室川町の(株)庄司製材所(庄司和敏・代表取締役社長)を訪ねた。雪の降り積もる金山工場で遠藤教授を出迎えた庄司社長とは、実に13年ぶりの再会である。
商社が苦手とする多品種製材に活路を見出す
庄司製材所は昭和51年、山形県最上地域の「軒下国有林」地域に創業した後発の製材工場だ。スギ羽柄材製材で次第に頭角を現し、現在、東北では協和木材(株)(福島県塙町、第18・19回参照)に次ぐ量産工場として、確固とした地歩を築いている。東京・首都圏の商社や市売問屋からの評価は頗る高い。
遠藤教授
創業以来、羽柄材製材一筋で発展している。なぜか。
庄司社長
2つ理由がある。1つは、柱などの構造材は商社の扱うシェアが大きい。逆に言えば、商社は羽柄材が苦手だ。だから羽柄材で勝負に出た。2つめは、最上地域のような豪雪地帯のスギは、九州のスギと違って極端に言えばズングリムックリしているため柱取りには不適だ。
遠藤
商社はなぜ羽柄材を苦手とするのか。
工場の説明をする庄司社長(左)
庄司
羽柄材には実に様々なサイズがあるからだ。例えば、当社の扱っている貫(ヌキ)などは7種類もある。おまけに関東では栃木、茨城、千葉で羽柄材のサイズが異なるなど羽柄材の使用には地域性がある。
遠藤
それではとても在庫できない。受注に即納できる製材体制が不可欠だ。
受注に即納できる多様なラインで年6万㎥消費
遠藤教授が初めて庄司製材所を訪れたのは平成7年の夏。当時は真室川工場だけで、年間2万㎥のスギ丸太消費量であった。事務所のファックスには息つく暇もないほど次から次へと羽柄材の注文が入り、事務を預かる庄司社長の奥様が独りでテキパキと裁いていたものだった。
遠藤
当時の真室川工場には4つの製材工場があった。第1工場では36㎝上の丸太ばかりで4分板を挽き、第2工場では6尺の間伐材と16㎝下の4m材、第3工場は3・65mの30㎝上の丸太で板割や筋違い、第4工場では28㎝下の3・65m丸太で筋違いなどを取っていた(その後第5工場ができた)。
庄司
注文に応じたサイズの羽柄材を瞬時に挽くためには、このような専門化された製材工場を設置することが必要だ。もう1つ、国有林王国の最上地域では、素材生産業者は「山を1つ丸ごと買って欲しい」と丸太を持ってくる。全量引き取るためには、いろいろな丸太を挽く製材ラインが必要だ。
遠藤
この金山工場も真室川工場と同じコンセプトでつくった工場なのか。
庄司
そうだ。真室川工場の延長として位置づけられる。2つの工場で年間約6万㎥の丸太を消費する製材規模に拡大した。毎年1億円の投資をしている。補助金は一切もらわず、すべて自力投資だ。
受注製品を瞬時に挽くツインバンドソー
遠藤
それにしても東北のスギ羽柄材製材の地盤沈下が急速に進んでいる中で、なぜ庄司製材所だけが規模拡大できたのか。
静岡まで翌日配送、ホームセンターでニーズ把握
庄司社長は、遠藤教授を製材工場へ案内した。金山工場は第1〜第3の3つの工場からなっている。第1工場と第2工場はツインバンドソー、ツインテーブルなどを中心にした製材ラインで、いずれもコンパクトにまとまっている。第3工場には、乾燥機3基とスイス製の木屑焚きボイラーが設置されている。
庄司
製材品のニーズの変化を的確に読み取り、受注したサイズの羽柄材を瞬時に挽いて納期に届けることが基本だ。そのためにはこうしたコンパクトな製材ラインが必要だ。
遠藤
製品をみても、いずれもモルダーがけで挽き肌がよく、羽柄材なのに曲がりや反りなど皆無だ。
庄司
木の持っている性質に忠実な製材に徹しているからだ。したがって貫なども横暴れしない。そのうえ人工乾燥処理している。
遠藤
なるほど。東京・首都圏市場で「庄司の羽柄材」と評価が高いのも頷ける。
庄司
自慢にはならないが、今まで一度も顔を見たことがない取引先がたくさんある。受注どおりの製品をジャスト・イン・タイムで納入できるので、電話とファックスだけの取引が可能になる。
遠藤
遠い所ではどの辺まで販売しているのか。
庄司
静岡県までなら受注の翌日配送ができる。いちばん遠いところで岡山県。松阪なども注文が多い。
遠藤
わが国屈指の国産材製材産地も面目丸つぶれだ(笑)。製材品の販売先は業態でいえばどこが多いのか。
評価の高い「庄司のスギ羽柄材」
庄司
当社の羽柄材の売り先が他社と違うのは、ホームセンターへの出荷量が多いことだ。今時のホームセンターでは「乾きモノ」(プラスチック製品)は売れない。休日を利用した家のリフォームの材料として羽柄材がよく売れる。構造材は自家用車に積めないから、どうしても羽柄材が中心になる。
遠藤
ホームセンターは都市部を中心に確実に製材品取扱量を伸ばしている。ホームセンターを通してニーズの変化を読み取るというわけか。
庄司
改善点があればすぐに直す。
丸太は相対で現金調達、徹底してロスをなくす
遠藤
それにしても工場内の丸太の在庫量が多いが、どこから来るのか。
庄司
常時1万5000㎥の丸太の在庫がある。山形県森連、秋田県森連も含めた素材生産業者が入れてくれる。遠くは岩手県盛岡市周辺からも入っている。また、国有林のシステム販売で年間7000㎥の丸太を購入している。東北でシステム販売を受けているのは、合板メーカーのセイホクグループなど限られている。
遠藤
庄司製材所なら一山丸ごと買えるからだ。原木市売市場での購入はないのか。
庄司
市場を通すと流通手数料が嵩むだけでなく、製材サイドと山側の関係が切断されてしまう。素材生産業者と同じ目線で取引するためには相対取引がいい。丸太の取引条件は毎月20日締め・10日後の現金支払いだ。搬入された丸太は全量買っている。
遠藤
全量購入となれば、搬入時の検収や仕訳作業が大変だ。
庄司
当社では検収は一切していない。相互の信頼関係で支えられているから「ごまかし」などは皆無。搬入された丸太は3台のヒアブで仕訳する。通常の検収で必要とする20分という時間が不要になり、コスト削減にも寄与する。
遠藤
凄い発想だ。
庄司
国産材製材業界には、量産工場をつくって2シフト(2交代制)で製材すればコスト縮減ができるという考えがあるが、コスト縮減はいかにロスを出さないかが大事だ。私は毎朝5時には工場に出勤し、その日の仕事を把握し従業員に指示する。8時ちょうどにすべての製材ラインが稼働する。他社は8時30分頃から稼働し始める。この30分も1年間でみれば大きな違いになってロスの減少につながる。製材設備も大切だが、いかにロスを少なくするかが製材経営の鍵だ。
(『林政ニュース』第336号(2008(平成20)年3月12日発行)より)