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最新韓国事情 国産材・住宅輸出に新たな可能性

日本産木材・住宅の海外輸出に弾みがつき始めている。さしあたりは近隣の韓国や中国がターゲットである。とくに韓国では、中国ほどの派手さはないものの、手堅い経済成長の中で消費者の木造住宅志向が確実に高まっている。しかし、日本の木材・住宅企業が韓国の住宅市場を十分に把握しているかといえば、必ずしもそうとは言えない。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授は、韓国における木造住宅市場の動向と日本産木材・住宅輸出の可能性を探るために、ソウルを訪れた。訪問先は韓国木造住宅建築協会(KoreaWoodConstructionAssociation。Lee Kyong Ho会長〈李京鎬・栄林木材(株)代表取締役社長〉。大韓民国・ソウル市)。同協会のDanny Joo(朱大玄)専務が遠藤教授を出迎え、最新の「韓国事情」を解説した。

木造建築戸数伸び、輸入住宅の参入チャンス広がる

 韓国には、木造住宅建築に関連して2つの組織がある。1つは国土海洋部(日本の国土交通省に該当)の傘下にあり、主として建築設計士をメンバーとする組織である。もう1つが、遠藤教授が訪れた韓国木造住宅建築協会で、山林庁(日本の林野庁に該当)の傘下に置かれている。両組織は、相互に連携をとりながら韓国の木造住宅建築の需要拡大に取り組んでいる。
 韓国木造住宅建築協会は1996年に創立された。組合員(企業)は工務店、建築資材販売業者、建築デザイナーなど。正会員は47企業。準会員は9企業と約300人の関連個人である。

遠藤教授
 韓国ではここ2〜3年、木造住宅に対する関心が急速に高まっているというが。

朱専務
 2004年の木造住宅建築戸数は約2000棟、2006年が3000棟だった。ところが、昨年1〜9月ですでに7000棟に達している。この数字をみても、韓国で木造住宅に対する関心が高まっていることは事実だ。今年は、日本からの輸入木造住宅も増える可能性がある。

遠藤
 韓国の木造住宅の大部分は主としてカナダから輸入される2×4(ツーバイフォー)住宅だ。木造住宅の建築棟数が伸びているということは2×4住宅が伸びていると理解してよいのか。

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韓国の木造住宅市場について説明する朱専務


 数の上ではそうだ。事実、カナダからの2×4住宅の輸入量は2年ごとに40%増加している勘定になる。また、ここ数年、カナダ以外に日本とニュージーランドが2×4住宅で韓国市場に参入してきた。今後、競争が激しくなることも予想される。

狙いは高所得者層、アパートからの住み替えも

遠藤
 地域的にはどのような場所で木造住宅が増えているのか。


 都市部は地価が高いので、木造1戸建ては当分無理だろう。これに対して、ソウルや釜山(Busan)などの大都市の周辺部で木造住宅が増えている。いわゆる田園住宅で、日本の大都市近郊のニュータウンに相当する。

遠藤
 韓国経済は、起伏を伴いながらも堅実な成長を遂げている。


 韓国国民1人当たりのGNPは、2万ドルが目前だ。先進国の仲間入りも間近になっている。これに伴って木造住宅志向が強くなるのは必至だ。ただ、一般の韓国人にとっては、木造住宅には住みたいけれども高いというのが実感だ。したがって、当面は、木造住宅の普及は高所得者層をターゲットにせざるをえないだろう。

遠藤
 韓国ではこのほど新大統領が誕生したが、木造住宅建築になにか影響があるだろうか。


 李明博(イ・ミョンバク)新大統領は、市場重視政策を基調にしている。都市部や周辺の土地利用に関する規制緩和が促進され、木造住宅建築が増える可能性は十分にある。

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遠藤日雄教授

遠藤
 韓国の住宅市場は、圧倒的にアパート(日本のマンションに該当)が多い。しかも、アパートは投資の対象になっている側面が強い。そのアパート建築の昨年の実績をみると、60万戸のアパート建築があったにもかかわらず20万戸が売れていない。アパート・バブルが弾ける危険性はないのか。


 昨年、韓国の景気が少し落ち込んだためだろう。ただし、こうした経済状況の中で、高級アパートを売却して、ソウル近郊に木造住宅を購入する消費者が出始めたことは注目に値する。

在来軸組で「木で主張する高級感」の住宅が必要

 韓国には朝鮮戦争が始まる前まで「韓屋」と呼ばれるP&B(Post=柱&Beam=梁)構法の伝統的な家があった(第41回参照)。日本の在来軸組構法住宅とよく似ている。朝鮮戦争後の近代化の過程で、韓国政府の住宅政策の基調は高層アパート建設になった。朝鮮戦争で森林が喪失して木材が出なくなったことと、P&B構法に精通した大工がいなくなったことで、韓屋建築は激減した。


 ここ数年、韓国人の韓屋に対するノスタルジーは確実に高まっている。2×4構法ではない、韓国の風土に見合った木造住宅が求められている。

遠藤
 日本では30年前に2×4住宅が輸入された。韓国では10年遅れて20年前にアメリカから2×4住宅が入った。当初は、アメリカから技術者が来てきちんとした2×4住宅を建築していた。しかしその後、工事を韓国の建築業者に下請けに出すようになった。その過程で杜撰な建築も少なくなかったと聞いている。そのツケが今になって回ってきているということか。その意味では2×4住宅の反省期に入っているのだろう。日本では2×4住宅が10万戸を超えて、むしろ増える様相をみせているのとは対照的だ。


 先ほども言ったように、ここ数年、韓国人の間に、本当の木造住宅に住みたいという気運が盛り上がってきた。韓国ではここにきて本物志向、というより韓国にふさわしい木造住宅志向が模索され始めたといってよい。

遠藤
 そこで単刀直入に聞こう。日本産木材・住宅が韓国の住宅市場で受け入れられる条件は何か。


 P&B構法あるいは在来軸組構法で、2×4住宅よりも高級感のある住宅の提供が必要だ。例えば、日本の在来軸組構法住宅大手がやっているようなヒノキで高級感(商品差別感)を出すとか、スギやヒノキの小中断面集成材を「現し工法」で使うことなどが考えられる。韓国での木造住宅は「木で主張する高級感」がキーワードだ。

工期短縮でコスト削減、建築基準法見直しへ

遠藤
 2×4住宅は、木造といっても日常生活では木が見えない。日本の在来軸組構法住宅でも大壁構法では、柱や間柱の上にクロスを貼ってしまうから木が見えない。


 そこに着目して、梁などが日常生活で見える「現し工法」を積極的に取り入れることもセールスポイントになる。

遠藤
 ただ、高級感だけでは売れないわけで、建築コストの縮減も重要な課題だ。


 そのとおりだ。例えば、韓屋建築の場合、土壁が基本になる。現在では、土壁工事だけで1か月もかかる。そのぶんコストが嵩む。今後、工期の短縮が必要になってくる。

遠藤
 これから木造住宅を増やしていくためには、建築基準法にも目を向けなければならない。


 そのとおりだ。木造住宅に関してはKBC(Korean Building Cord、韓国木造基準)の第8章で言及されているが、これは2×4住宅を基準としたものだ。つまりカナディアン・スタイルを真似たものだ。P&Bや軸組構法には触れていないが、耐震性や耐火性の検討も踏まえて2011年には法制度が完備される予定だ。そうなると木造住宅市場拡大の新たな局面を迎えることになる。

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ソウル近郊の2×4住宅建築現場

『林政ニュース』第337号(2008(平成20)年3月26日発行)より)

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