見出し画像

集団間伐とミニコンビナート・かが森林組合

私有林の間伐をいかに推進していくか? 日本林業の大きな課題である。対策のポイントは2つある。1つは間伐対象地の集団化であり、もう1つは出材率を高めて市場のニーズに結びつけることだ。その両方で成果を上げているのが、石川県小松市に本所を置く、かが森林組合(有川光造・代表理事組合長)。遠藤日雄・鹿児島大学教授が同森組を訪ね、有川組合長から集団間伐の秘訣などを聞く。

毎年200haの実績、細かな集材路で出材率向上

  かが森林組合は平成12年4月に、旧小松市、辰口、加賀、山中の4森林組合が合併して誕生した。
  有川組合長は遠藤教授を、旧加賀森林組合管内熊坂地区の集団間伐現場(約3ha)へと案内した。
 
遠藤教授
  集団間伐はいつから行っているのか。  

有川組合長
  旧小松市森林組合で平成8年に始めた。それが、かが森林組合に継承されている。毎年200ha前後の集団間伐を実施している。平成17年度の実績は、面積で183ha、材積(出材量)で6775㎥だった。
 
遠藤
  間伐作業の手順はどうなっているのか。
 
有川
  まず、バックホウで集材路を開設する。出材率を高めるために、できるだけきめ細かな集材路をつくる。その際、所有者が判別できるように道端に杭を打っていく。

遠藤
  地籍調査はしないのか。

画像2

有川組合長(右)から説明を受ける遠藤教授
(手前の丸太は中国への輸出用)

有川
  集材路から尾根筋を見上げるとだいたいの境界線はわかる。林相が微妙に違っているからだ。集材路開設と併行しながら間伐作業を行う。チェーンソーで伐倒した後の集材・搬出には2通りの方法がある。1つはプロセッサにウインチをつけて集材し、枝払いと玉切りを行う方法。もう1つはウインチ付グラップルで集材し、チェーンソーで枝払い、玉切りを行うケースだ。その後、両方ともフォワーダで搬出している。

117名の林産組合長がまとめ役、労務班を分社化

遠藤
  一口に集団化というが、森林所有者の合意形成などとりまとめは難しいのが実状だ。相当な苦労があるのではないか。

有川
  集団化のとりまとめは地区座談会で行っている。他の組合では、森林組合職員や林業改良指導員がとりまとめをしているケースが多いが、うちの場合は林産組合長制度が機能している。現在、各町内ごとに合計117名の林産組合長がいる。彼らは、いわば町内会長格の人たちだ。信頼関係や互助精神が生きている町内会を基盤に集団化のとりまとめを行う。理屈ではできない集団化の妙がある。
 
遠藤 
  なるほど。今はやりの言葉でいえば「共」の精神を基盤とした集団化ということになる。
 
有川
  そのとおりだ。「共」の精神は個々の森林所有者の利害を超えて、地域全体の森づくりをどうすべきかという点にまで及んでいる。
 
遠藤
  17年5月に取得して話題を呼んだFSC(森林管理協議会)認証とも関連があるのか。
 
有川
  ある地区座談会で、組合員から「将来の森づくり像を提示して欲しい」と言われた。持論を披露したが、その後、考え込んでしまった。組合長が交代するたびに森づくりの理念が変わったのでは一貫性に乏しい。それではということでFSCを取得した。
 
遠藤
  かが森林組合で注目したいのは、労務班を分社化したことだ。断腸の決断だったと思う。
 
有川
  直傭2人を残して、60名の労務班員を分社化させた。その効果が現れつつある。例えば、うちの集団間伐は枝打ちとセットで行う。補助事業の枝打ち予算は樹高6mまで。でも、入札に出すと「わが社は12mまでできる」と意志表示する会社がある。競争の中で間伐や枝打ち技術を向上させている。

中国輸出の拠点でもあるミニコンビナート 

  集団間伐現場の説明を終えた有川組合長は、遠藤教授を車で加賀地域木材加工流通拠点へと導いた。ここには、かが森林組合の製材工場(那谷工場)のほか、丸太の共販施設(原木市売市場、年間取扱量約6000㎥)、高次加工施設(南加賀木材協同組合が経営する柱・板・桁等のモルダー加工事業)、木材乾燥施設(人工乾燥機5基、同木協が経営)がある。その敷地面積は5ha。さながらミニコンビナートの観を呈している。集団間伐で出された間伐材はまずここに搬入される。

有川
  搬入された間伐材は、自社製材向け、共販所向け、そして中国向けの3通りに分けている。中国・大連へは集成材用の丸太として根曲がり部分の2m材を輸出している。

遠藤
  製材工場ではどんな製品を挽いているのか。  

有川
  台車とツイン丸鋸がある。台車では丸太を角挽きしてギャングリッパーで間柱などを製材している。ツイン丸鋸では主に柱を挽いて、隣接の乾燥施設に納入している。
  今後は、徐々に出材量が増える中目丸太から垂木、筋違い、板材などを製材して天然乾燥をし、「かが杉の家づくり」に貢献していきたい。目標は月50棟だ。

画像1

かが森林組合那谷工場で製材された柱角の人工乾燥

◇       ◇ 

  かが森林組合は、集団間伐=地域ぐるみの森づくりという明確な位置づけのもとに事業展開を図っている。そこには、組合員の利害を超えた高い志が窺える。そして、地域ぐるみの森づくりと川下のミニコンビナートが有機的に結びつくことで、中国への丸太輸出も含めた高い競争力を発揮している。完成度の高い間伐推進のモデルの1つが、ここにある。

(『林政ニュース』第310号(2007(平成19)年2月7日発行)より)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?