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年10万m3のスギ板挽き量産工場・くまもと製材

国産材の安定供給体制づくりを目指す大型プロジェクト「新生産システム」もいよいよ残すところ1年になった。各圏域の進展状況はまだら模様だが、その中で完成度の高い圏域モデルをつくりあげているのが、協同組合くまもと製材(中島浩一郎理事長、熊本県あさぎり町、以下「くまもと製材」と略)である。そのモデルとはどのようなものか。残り1年の課題とは何か?遠藤日雄・鹿児島大学教授が、くまもと製材を訪ねた。

1・5シフト体制でフル稼働、間柱の品質に自信

遠藤教授を出迎えたのは、工場で陣頭指揮を執る渡辺公昭工場長と田辺聡工場長補佐の2人。田辺氏はITCグリーン&ウォーター(株)(旧伊藤忠林業(株))から出向し、原木集荷に携わっている。

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渡辺公昭・くまもと製材工場長

遠藤教授
デフレ不況から脱却できない中、製材業界には繁閑格差が広がっているが、くまもと製材はおおいに繁盛していると聞いている。

渡辺工場長
朝6時から夜9時までの1・5シフト体制で稼働している。1日の丸太消費量は350~400m3だ。

遠藤
350m3としても月間約8000m3、年間9万6000m3に達する。新生産システムの事業計画では年間10万m3が目標だったから達成寸前だ。ところで、主力製品のアイテムは何か?

渡辺
間柱と構造用集成材のラミナだ。両者の比率は6:4。もちろんニーズに応じて弾力的な製材をしている。

遠藤
以前、中島浩一郎理事長(銘建工業(株)代表取締役)からこんな話を聞いたことがある。「製材品と集成材は峻別すべきものではない。板挽きを前提に、ムクの需要があれば間柱として、集成材としてのニーズがあればラミナを生産販売すればいい」と。そのコンセプトを絵に描いたような、スギ板挽き量産工場だ。しかも、くまもと製材の間柱の品質はきわめて高いと評判も上々だ。

渡辺
製材品の品質管理には細心の注意を払っている。特に人工乾燥処理の徹底化は、くまもと製材の至上命令だ。モルビック製(オーストリア)の人工乾燥室10室(150m3/室)を設置し、今後さらに6室を増設することにしている。

遠藤
現在、間柱の相場は約4万円/m3前後だが、くまもと製材の間柱は4万3000~4万4000円というからかなり評価が高い。「新生産システム」の取り組みで、くまもと製材が成し遂げた1つの成果は、目粗とか目細とか、色合いがいいとか悪いとか、丸太の質を問わず、一定の基準を満たした丸太を買い取り、それを高度の品質管理技術で加工し、高品位の製材品を出荷するシステムをつくりあげたことだ。

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高品質スギ間柱の桟積み

価格の先出しで丸太を集荷、だがまだ足りない

遠藤
丸太集荷の話に移りたい。丸太の買取り基準はどうなっているのか。

田辺工場長補佐
末口径24㎝上(最大40㎝)の3m材、4m材のスギ丸太が中心だ。3m材から間柱を、4m材からラミナを製材している。3m材の場合、矢高は3㎝以内というのが受け入れ条件だ。

遠藤
長さ3mに対して矢高3㎝というのはA材丸太か?それともB材丸太になるのか?

田辺
微妙なところだ(笑)。市場の仕訳基準によっても違う。我々としてはA材とB材の中間材と認識している。

遠藤
24㎝上3mというスギ丸太は、くまもと製材が開設されるまでは市場では流通しておらず4mが主流だった。3m材を集めるのには、相当の苦労があったのでは?

田辺
3mと4mに価格差をつけている。3mが1万2000円/m3(工場着値)、4mが1万1500円/m3。以前は1000円の差をつけていた。丸太価格の取決めは、3ヵ月ごとに交渉している。

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田辺聡・くまもと製材工場長補佐

遠藤
くまもと製材が丸太集荷でつくりあげたビジネスモデルは、価格の先出しだ。森林組合や素材生産業者は、工場着値を念頭に採算ベースにあった山買と伐出ができる。ところで丸太はどの辺から出てくるのか?

田辺
熊本県阿蘇、小国を中心に鹿児島県、宮崎県からも集荷している。しかし、丸太は足りない。1日の丸太消費量に対して、210~300m3の供給がやっとというのが実状だ。

遠藤
どのような打開策を考えているのか?

田辺
国有林のシステム販売を受けることにした。末口径14㎝上、3m、4mの丸太で3000m3(半年間)の供給が受けられる。山土場渡し価格で9500円/m3だ。

遠藤
トラック運賃を加算すると工場着値1万1000円/m3。価格はともかく、24㎝よりも細い丸太を購入して何を製材するのか?

渡辺
10・5㎝角の集成管柱生産もオプションの1つと考えている。

遠藤
その柱だが、需要が縮小している。背景には何があるのか?

渡辺
国産材の使用量を増やしている大手住宅メーカーの1つ、タマホームが柱をムク材ではなく集成材にしたことが大きいのではないか。柱挽き製材工場がいっせいに間柱にシフトし始めた。

遠藤
昨年末、九州の主立った原木市売市場から納市の相場表を取り寄せた。スギの場合、いずれも24~28㎝の丸太が一番高かった。これまで丸太相場をリードしてきたのは柱取り用の16~18㎝だったが大きな様変わりを見せた。

渡辺
もともとスギ24㎝上丸太は安かったが、くまもと製材が稼働してから価格が上昇した。

残り1年の課題は製品価格と丸太価格の引き上げ

遠藤
丸太の安定的確保のため、国有林のシステム販売以外の選択肢も考えているのか。

田辺
間伐一辺倒ではなく、南九州の場合、小面積皆伐も選択肢の1つに入れないと大規模国産材製材の稼働は順調に進展しないのではないか。

遠藤
同感だ。そのためには丸太価格を上げるための方策を考えるべきだ。新生産システムの基本的な考え方は、大規模国産材製材が山側と丸太の売買をした場合、どのような人工林管理ができるのか、そのモデルを構築することだ。今、議論されている「森林・林業再生プラン」は、これとはまったく逆行している。ニーズを度外視した間伐を増産をし、使い方は川下が考えろという発想だ。

3月2日、都内で開催された新生産システム報告会のパネルディスカッションの中で、きわめて興味深い指摘があった。曰く、「新生産システムで製材規模を拡大している圏域では丸太価格が上がっているし、製品価格が多少安くてもそれを製材業の技術革新で吸収できるシステムが形成されつつある」と。この好例がくまもと製材だと位置づけたい。

渡辺
ただ、製材品価格がここまで下がることは、事業計画策定時には想定外だった。製材品価格が上がってくれれば、そのぶん丸太価格もあげることが可能になる。残された1年の課題は製品価格を上げることと、それに連動させて丸太価格をあげることだ。これが達成できれば、新生産システムのモデルになれると思う。

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銘建工業へ出荷する構造用集成材スギラミナ

(『林政ニュース』第386号(2010(平成22)年4月7日発行)より

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