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「お気持ちだけで戸籍上の性別が変更できる」は誤り【ファクトチェック】

静岡家裁浜松支部が、戸籍上の性別変更にあたって生殖能力をなくす手術を必要とする法律の規定は憲法に反していて無効だと判断したことについて、「お気持ちだけで戸籍上の性別が変更できる」という性自認のみで性別変更できるかのような言説が拡散しました。これは誤りです。静岡家裁は、手術以外の医学的な診断があることなどから、申立人の性別変更を認めました。性自認のみで性別変更ができるという判決ではありません。


検証対象

2023年10月12日、X(Twitter)で「お気持ちだけで戸籍上の性別が変更できます♂️↔️♀️」などとするポストが拡散した。このポストにはNHKのニュース映像がついており、10月23日までに、157万回以上の表示回数と6400件以上のリポストを獲得している。

検証過程

拡散したポストは、静岡家裁浜松支部が、戸籍上の性別変更にあたって生殖能力をなくす手術を必要とする法律の規定を違憲無効と判断したと報じたNHKニュースを引用して、「最も心配していた判決が出ました。お気持ちだけで性別変更ができます」と書いている。性自認の表明のみで性別変更ができるという言説だ。

現行法上、戸籍上の性別を変更するには「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)」が掲げる、6つの要件を満たさなければいけない(下の表参照)。

性別変更に必要な6つの要件

性別変更に必要な6つの要件 特例法に基づき、日本ファクトチェックセンター(JFC)が作成

今回の裁判では、戸籍上の性別は女性で、男性として社会生活を送る人が、手術を受けなくても性別の変更を認めることを求めた。申立人は、「生殖腺を取り除く必要がある」とする規定(いわゆる「4号要件」)について、「手術を事実上強制するもので、人権を侵害し、憲法に違反する」と主張。

静岡家裁の決定は、申立人が4号要件以外のすべての要件を満たしていると述べ、手術を受けていなくても戸籍上の性別を変更することを認めた。

また、静岡家裁は「(4号ーJFC注)規定が存在することに伴う性同一性障害の人権制約の態様、程度は、その性質上重大」と指摘。身体への強い侵襲(痛みや苦しみーJFC注)を伴う性別適合手術が、医学的な治療方法として必須ではないとも述べた。

4号要件を必要としない場合でも「軽率あるいは安易な性別の取り扱いの変更の申立がされるなどの弊害が生じる状況にあるとは認められない」と述べて、仮に安易な変更の申立があっても、「審理を厳格に行うなどして対応すればよい」との考えを示した。

つまり、今回の決定は、性別適合手術を受けていないすべての人が戸籍上の性別を変更できるとはしておらず、「お気持ちだけで戸籍上の性別が変更できる」などとは述べていない。

判定

静岡家裁の決定は申立人が、4号要件を除いた特例法のすべての要件を満たしていると認定した上で、手術なしでの性別変更を認めた。したがって、「お気持ちだけで戸籍上の性別が変更できる」は誤りと判定した。

検証:高橋篤史、堀祐理
編集:宮本聖二、古田大輔、野上英文、藤森かもめ


検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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