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【400字の独りごと】 気配

 気配


 古い生家に住んでいた頃、夜の闇は、真の暗闇ではなかった。どのような感覚かと問われてもうまく答えることはできそうにないのだが、空気がやわらかく、行く先をふんわりと導いてくれるような暗闇だった。そこにはいつも、何か「気」のようなものが漂っていたように思う。
 新築の家に暮らし始めた今感じるのは、あのやわらかな暗闇など何処にも存在していないということだ。
 真の暗闇。
 それは生きるものの息吹が聴こえることのない、先人たちの足跡がひとつもない、全てのものを拒絶している空間。大地から立ち上がる大いなる力が、私たちを固く拒もうとしている。
 おかげで闇が怖くなってしまった。
 いったいあとどのくらい世代交代が進めば、この家に穏やかな気配が染みついてくれるのだろうか。


(2004年12月13日)


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