「監視資本主義」を読んでゲームの未来を想像した話

少し前に「監視資本主義」という本を読んだので感想などを書きます。

「監視資本主義」はGoogleやFacebookなどの企業が、人の行動データを収集することで、人の行動や思考の予測・修正を行うことできるようになっている、という趣旨の本です。
ユーザーの行動から生まれる微細なデータ「行動余剰」の蓄積によって、人の行動・思考の予測・修正が可能になり、莫大な利益が生まれる一方、プライバシーのみならず、人間の自律性が脅かされていることを警告しています。

原書が出版されたのは2019年ですが、今年になってアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件もあり、SNSによる人間の行動の修正は帰結として行くとこまで行ってしまった感があります。

Facebookを利用した大統領選挙への介入のスキャンダルについては「マインドハッキング」という本も面白いのでおすすめです。

さて、人間の行動や思考の修正…と言えば、ゲームが思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか。レベルデザインのノウハウなどが典型ですが、ゲームはまさに人間の行動・思考・感情を誘導する技法の集大成と言えます。

「監視資本主義」にもPokémon GOの話が登場しますが、ゲーミフィケーションの流行を持ち出すまでもなく、現実世界の行動を修正するためにゲームデザイナーが洗練させた手法は有効です。また、ゲームデザイナーの側にとっても、膨大なユーザーデータと分析・利用技術はゲームを面白くするために重要です。

例えば、「マインドハッキング」に詳しく書かれている、Facebook上の行動からユーザーのパーソナリティを推定し、パーソナリティに合致したコンテンツを見せることで行動を促す手法があります。これはゲームにおいても有効で、パーソナリティと好むゲームの傾向・要素には相関がある可能性が指摘されています。
(Magic: The GatheringのTimmy、Johnny、Spikeは経験則によって、近いことをやっています)

パーソナリティを推定しなくとも、行動から好むコンテンツを推測する手法は、YouTubeやTikTokで我々が日常的に目にしています。TikTokほど何も考えずに見れるメディアは他にはありません。

このような相手の好みに合わせてコンテンツを照射するテクノロジーが、ゲームの世界に進出してくることは、近い将来において間違いないと思います。相手の好みのコンテンツを照射するには、

A:投稿側ユーザーが作成した無数のコンテンツの中から、プレイ側ユーザーが好むコンテンツをレコメンドする
B:ユーザーの行動に合わせて、面白く感じるコンテンツ・展開・状況を自動生成する

の2種類の手法があり、AはYouTubeやTikTokなどで行われています。

Apple Arcadeなどのサブスク・クラウドゲームは、キラーソフトとなるような大作を揃える路線でしたが、成功していません。クラウドゲームはゲームをインストールする時間が0で、起動時間もほぼかからないことが強みです。そのため、個人的にはTikTok + ハイパーカジュアルのようなビジネスモデルの方が相性がいいと思っていたのですが、まさにそういうサービスが出てきました。

このプロダクトが成功するかは分かりませんが、路線としては非常に興味深いと思うので、いま注目の流れだと思っています。

Bについても今まさに研究されている手法です。プレイヤーの行動に合わせて難易度を自動調整するのは古典的な手法ですし、レベル・シナリオ・キャラクターなどの自動生成技術も研究が盛んです。
あとはユーザーの感情を読み取ることが必要だと思いますが、例えばVRゲームであればカメラの情報が使えますし、カメラがなくとも研究者とゲームデザイナーの連携が進めば、少なくともユーザーの望ましい行動の定義はできるのではないでしょうか?ゲームはユーザーの行動が多様かつ膨大なので、「行動余剰」の取得と相性がいいかもしれません。

こう考えたとき、10年後、20年後のゲームの世界はいまと全く違うものになっているかもしれません。この話はまだまだ論じれる部分があると思いますが、長くなってきたので今日はこの辺で切り上げたいと思います。

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