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Palworldレビュー - Pocketpairの邪悪パワーを考える

『パルワールド』が史上稀に見る大ヒットとなるなか、インターネットでは様々な議論が盛り上がっています。しかし、発売からまだ日が浅いこともあってか、ゲームの中身についてはまだあまり掘り下げられてないのではないでしょうか。

この記事ではポケットペア社の過去作品の作風を分析し、『パルワールド』のレビューを試みます。


突如現れたユニコーン「Pocketpair」

2015年に設立されたインディーゲーム企業Pocketpairは、1月19日「オープンワールドサバイバルクラフトゲーム」『Palworld』を、4作目のタイトルとしてリリースした。

Pocketpairのこれまでのタイトルには、『Overdungeon』(2019)、『Craftopia』 (2020)、『AI: Art Impostor』(2022)があり、開発中タイトルに『Never Grave: The Witch and The Curse』がある。
3名のチームで開発が開始された『Overdungeon』はリリース1年未満で5万本、より規模を拡大して臨んだ『Craftopia』は2022年6月時点で100万本の売り上げを記録。破竹の勢いで成長するPocketpairは、まさにノッている注目株だったと言えるだろう。

そのPocketpairが、3年の期間と10億円の費用を投じて開発した新作が『Palworld』だ。

すでにご存じの方も多いだろうが、『Palworld』は4日間で600万本(180億円以上)、Steamの同時接続者数が『PUBG: BATTLEGROUNDS』に次ぐ史上2位と凄まじいヒットとなった。
筆者は、Pocketpairのこれまでの実績や今作品のSNSでの評判を見る限り、初週100万本程度は見込めるだろうと考えていたが、まさかここまで売れるとは思わなかった。ここまでのヒットを予想していた人は誰もいないだろう。

インディーをどう定義するにせよ、Pocketpairはもはや注目株のインディーゲーム企業ではない。日本のゲーム業界に突如として現れたユニコーン企業である。

一方、インターネットでは『Palworld』のキャラクターデザインが『ポケットモンスター』シリーズのポケモンに酷似しているとして、賛否両論が飛び交っている。この記事で、著作権法や創作モラルの論争に深く立ち入るつもりはない(理由は後述する)。それよりも筆者が今やりたいのは、『Palworld』のゲームの特徴を見て、論じることだ。

しかし『Palworld』について論じる前に、振り返っておくべきことがある。Pocketpairのこれまでのタイトルと、その開発姿勢だ。

Overdungeon・Craftopiaの課題

Pocketpair3タイトルのうち、重要なものは『Overdungeon』と『Craftopia』だろう。両タイトルをざっくりと言ってしまえば、『Overdungeon』は「『Slay the Spire』と『Clash Royale』を混ぜたゲーム」、『Craftopia』は「雑多な要素をかき集めながら、自動化を組み込んだオープンワールド」だ。

私達は、ローグライク、タワーディフェンス、そしてカードゲームを融合させた、全く新しい新感覚アクション・カードゲームを生み出しました。

https://store.steampowered.com/app/919370/Overdungeon/

『Craftopia』は、狩り・農業・ハクスラ・建築・自動化などの要素を全て融合した、全く新しいマルチ対応のオープンワールドサバイバルアクションゲームです。

https://store.steampowered.com/app/1307550/Craftopia/

どちらも、人気ジャンルや人気要素を掛け合わせた目を引くコンセプトと言える。特に『Craftopia』は「狩り」「農業」「ハクスラ」「建築」「自動化」「オープンワールド」「サバイバル」「アクション」と、検索に引っかかりやすいキーワードが羅列されたサイトのように、ゲームの内容を想起させる語が列挙されている。

こんなゲームができたらさぞかし楽しそうだが、人気要素を混ぜるだけで面白いゲームになるなら誰も苦労はしない。そもそも、あるジャンルが確立している理由は、その単位のまとまりに必然性があるからだ。ジャンルを越えた配合を行うと、各要素が干渉し合い、体験を損なう可能性が高い。雑な比喩をすると、焼肉と寿司を同時に食べても美味しくはない。

では両タイトルは、この問題をどう解決しているのだろうか。結論を先に言ってしまうと「解決していない」。

Slay the SpireとClash Royaleは水と油

まず『Overdungeon』から見ていこう。『Slay the Spire』と『Clash Royale』を混ぜる難しさの1つが、『Clash Royale』は「フェア」な状況下で細かなリソースの損得を競うPvPタイトルで、『Slay the Spire』はランダム性のもと前提条件の変化を楽しむローグライト・カードゲームなことだ。

どちらも人気タイトルではあるものの、『Slay the Spire』の視点で見れば『Clash Royale』のカードは退屈だし、『Clash Royale』の視点で見れば『Slay the Spire』のようにデッキやカードの強さが激しく変動するとまともな試合にならない。

ここで『Overdungeon』は「まともな試合」にすることを放棄し、圧倒的な戦力で対戦相手を叩き潰すことを楽しむゲームにしている。もちろん『Slay the Spire』に軸足を置くならば、シングルプレイのゲームなのでPvPのようなバランス調整は必要ないのだが、『Overdungeon』のまともさの放棄は『Slay the Spire』の視点で見たとしても極端だ。

ローグライトもカードゲーム(ここではTCG)も、ランダム性やアイテム・カードの組み合わせから、変化が生まれ、常に新鮮な選択肢が供給されることで高いリプレイ性が生まれている。しかし、ランダム性や組み合わせの影響があまりに強すぎれば、ランダム性のみで成否が決まったり、特定の組み合わせ以外の選択が無意味になってしまう。

よって、ローグライトもTCGもランダム性や組み合わせによる「アンフェア」さが要求される一方、一定の節度も求められる。開発にはそれなりのノウハウやコストが必要だ。このノウハウで言えば、例えばカードゲームにおいて「何かを2倍にする」などの、効果量が大きく変化するカードはあまり頻繁には作られない。適切なUXになる状況の幅が狭いし、効果量を読み間違ったときのゲーム全体への影響が大きいため検証コストも高くなるからだ。

インフレによる突破

しかし『Overdungeon』はそんなことは気にしない。あらゆるものを気軽に倍々ゲームで増やし、1・2・3…と等差数列と見せかけて5・8・13とフィボナッチ数のように効果をエスカレートさせる。

建築物を増やす建築物と、建築物を倍にする呪文を多用した結果、画面が迫撃砲のエフェクトで埋め尽くされた。このようなことが簡単に起きる。

このように『Slay the Spire』の視点で見たとしても、『Overdungeon』は「まとも」ではない。
『Slay the Spire』『Clash Royale』や様々なTCGがこのようなことをしないのは、前述のように高いリプレイ性を担保するためなので、『Overdungeon』のリプレイ性は『Slay the Spire』と比べると高くない。

とは言え、添付のスクリーンショットのような絵面はインパクトはあるし、ローグライトやTCGにおける「常識」を知っているプレイヤーからすれば「味方の建物を倍にする」などのテキストは、何か「悪用」できないかと思わず考えてしまう魅力があるのも事実だろう。
『Overdungeon』のストロングポイントはまさにこの点で、ストアページでもインフレした映像・画像が多く掲載されている。

Q. どんなゲーム?
A. カードを出しまくる → アルパカ無限に出る → 相手は死ぬ

https://store.steampowered.com/app/919370/Overdungeon/

つまり『Overdungeon』は、『Slay the Spire』と『Clash Royale』の相性の悪さやシビアなバランス調整の要求を、リプレイ性を犠牲にしたインフレによって塗りつぶし、従来のタイトルとの差別化を図っていると言える。
『Overdungeon』の開発チームに、どのような意図があったかは分からないが、既にコストがかけられ実績の証明されている『Slay the Spire』と同じ土俵で戦うのは小規模なチームにとっては不利なので、これは合理的な選択だろう。

自動化オープンワールドの矛盾

2作目の『Craftopia』にもこれと似た思想が見られる。『Craftopia』は先ほど述べたように、狩り農業ハクスラ建築自動化オープンワールドサバイバルアクションゲーム(マルチ対応)だが、「自動化」と様々な雑多な要素はおおむね相性が良くない。

ゲーム内の多種多様な諸要素は、そのゲームの中で意味があるからこそ、プレイヤーに認知され、プレイヤーの行動の幅(≒ 自由度)を増やす。無意味な要素はプレイヤーに無視され、プレイヤーの自由度に寄与しない。これは「精神と時の部屋」のような広大かつ何もない空間が、自由な空間ではなく、牢獄として機能するのに近い。魅力的なインタラクションのない空間は、どれだけ広くても「オープンワールド」ではない。

一方、『Factorio』に代表されるゲーム内のあらゆる事柄を自動化する、自動化自体を主目的とする要素(以下、ハードな自動化)は、当然ほかの要素を無意味にしてしまう。そもそも、自分でやりたくないから自動化してるのである。雑多な要素があるゲームの視点で見れば、そのゲームにハードな自動化が組み込まれているのは望ましくない。

ハードな自動化の視点で見ても、雑多な要素は邪魔だ。空間に設置されている様々なインタラクションは自動化を妨害する障害物でしかないし、また、インタラクションに現れる予測困難な要素(例えば気まぐれに動くNPC)は、精緻に組み上げられる自動化施設の「バグ」としてプレイヤーを不快にする。

ハードな自動化は、細かな必然性を積み重ねることでプレイ開始時は想像もつかなかった巨大な工場という偉業に、いつの間にか導かれることが最大の快であり、プレイヤーの解法の幅はあまり広くない。自由度をアピールする創発的なゲームとは、逆の魅力を持っているのだ。

よって多くのゲームにおける自動化は、面倒なことを省略させてくれる便利機能(以下、ソフトな自動化)か、もの好きだけが行うオプション要素であって、ハードな自動化はメイン要素にはならない。そして「もの好き」がハードな自動化の追求の果てに『Minecraft工業化modから分離独立したのが『Factorio』だ。わざわざ分離独立したものを、もう一度マージしようとしても勝算は低い。

Craftopiaの開き直り

『Craftopia』がこの問題にどう対処したのかというと、やはり対処していない。

『Craftopia』ではハードな自動化に利用可能な設備が多種用意されているが、設備を使って自動化を進めていけば、もともと繋がりの希薄だったハードな自動化以外の要素の価値が激減する。『Craftopia』はこのことを自覚的に推進しており、ゲームがある程度進むと「ヘリ」などの乗り物によって、フィールド探索や滑空・クライミングなどを自ら必要なくしてしまう。「オープンワールド」から多くの人が想起する『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が、シリーズの人気アイテム「フックショット」の実装すら拒んだのとは対照的だ。

「正直に言うと、フックショットはクライミングメカニクスを完全に無意味にしてしまったんです」と藤林は続けた。「偉い人も含めて、スタッフにもフックショットのファンが多くて、入れてくれと何度も言われたんです。僕としては頑なに『ダメだ、フックショットは使わない。このゲームにフックショットを入れるとうまくいかない』と断り続けるしかなかったです。

https://jp.ign.com/the-legend-of-zelda-hd/20258/news/botw

そして、自動化施設の中に「牛」などのNPCを組み込む際は、じっとしていない挙動に苛立たされることになるし、フィールドは徹底したゲーム全体の自動化に明らかに向いていない形状をしており、ハードな自動化のみを追求するタイトルと比較すると、1/4くらいのボリュームで自動化対象が打ち切られてしまう。
さらに、先ほど「予測困難な要素」がプレイヤーにとって「バグ」になると書いたが、開発者にとってもバグの温床となっており、オブジェクトが頻繁に異常な挙動をする。これは論理の積み重ねを楽しむ自動化ゲームとして見れば、劣悪なUXと言わざるを得ない。

(注:これらは主に、アーリーアクセス開始時の印象によって書かれている。アップデートによって改良されている部分も多いかもしれないので、大きく改善された点を把握している方はご指摘いただけるとありがたい。)

端的に言って、『Craftopia』はあらゆることができそうに見えて、専門のタイトルと比較すればあらゆることが中途半端に実装されている。
それではミリオンヒットの人気作『Craftopia』の魅力はなんなのか。『Overdungeon』と同様に、開き直ることである。

まず、ゲームの多くの要素が無意味になったり、自動化対象がなくなるのは、その時点でゲームが終了すると考えれば悪いことではない。単にゲームクリアしただけのことだ。
強力なアイテムを入手することで、ゲームの世界を征服する。このこと自体は悪い体験ではない。筆者も40時間ほどプレイし、ある程度は満足することができた。いつの間にか110時間プレイしていた自動化ゲーム『Dyson Sphere Program』と比べればボリュームは少ないものの、購入して損をしたという気持ちにはなっていない。

また、長時間遊びたい人には「#クラフトピア学会」がある。これは、バグによって多発する不自然な挙動を楽しむプレイヤーがいることを、Pocketpairが察知し、便乗したムーブメントであり、要するにバグのコンテンツ化だ。

溝部氏:
基本的に、直さないように開発を頑張っています。「一部のバグを直さないように、バグを直している」状態です。ただ厄介なのが、そういうバグは開発側も再現の仕方を知らなかったりするんですよ。複雑な壁力学の仕組みもあまりよくわかっていないので、特定のバグがうっかり直ってないかをユーザーに確認してもらうフローを用意してます。物理周りの挙動を変えちゃうと、バグが知らずに直っちゃう可能性があるんです。バグを直したいわけではないので、うっかり直っていないかをアルファユーザーに確認してもらっています。

https://automaton-media.com/articles/interviewsjp/20210123-149862/

こうしたことは、バグは少なくするべきと考える(一般的な)開発者やプレイヤーからするとセオリーに反した、もっと言えば良識に欠ける行為とも思えるが、絵面が面白いことも事実であり、実際にSNSでよくバズっていた。

OverdungeonとCraftopiaの邪悪さ

ここまで『Overdungeon』と『Craftopia』を見てきて、両タイトルに共通するのは、以下の点である。

・訴求力のある複数のジャンルや要素を掛け合わる
・掛け合わせる要素のうち、1つを軸とし、残りを軸要素によって破壊する
・破壊することで、プレイヤーに達成感を与え、絵面の面白さも確保する
・またゲームの破壊を許容することで、バランス調整、レベルデザイン、デバッグなどのコストを圧縮している

つまり『Overdungeon』と『Craftopia』は、「悪」を為すゲームである。

Pocketpairは、参考にするタイトルやゲーム業界に暗黙に含まれている規範を無視する。カードゲームでは安易に数を倍にしてはいけない、オープンワールドでは移動力を高めすぎてはいけない、バグは直さなければならない…そのような規範は破るためにある。

そしてプレイヤーはPocketpairの共犯者として、画面を迫撃砲やアルパカで埋め尽くし、ヘリでフィールドを蹂躙し、バグをSNSに面白おかしく晒し上げる。このようなゲームを破壊する「悪行」が2タイトルに共通する魅力であり、絵面の面白さによるバズの原動力でもある。

もちろんリプレイ性やボリュームは犠牲になるが、裏を返せば参考元のタイトルがリプレイ性やボリュームを求められているがゆえに実現できないことを実現し、新奇性を生み出しているとも言える。Pocketpairの溝部氏の発言からも、リプレイ性やボリュームを過度に追求しない方針が伺える。

でも、あるとき「ゲームって、どこまでいっても消耗品だな」ということに気づいて、それからは消耗品であることを意識するようになりました。これ、言葉尻だけ捉えられると、すごく批判されそうなのでちゃんと話しますね(笑)

(中略)

クリエイターって、自分が作ったものに対して、我が子のように愛情を感じてしまうもので、消耗品って言われると本当にガッカリするんですが、それでも耳の痛い現実だと受け止めて、「それでもみんなに楽しんで欲しい」という気持ちで作っています。

https://news.denfaminicogamer.jp/interview/201217a/2

要素の組み合わせの美しさや破綻の少なさなどの「上質さ」を求める人には受け入れにくい方針かもしれないが、「リプレイ性の高いジャンルのリプレイ性を放棄する」こと自体は幅広く有効な手法ではないだろうか。

Palworldってどんなゲーム?

さて、これでようやく『Palworld』の話ができるようになった。

広大な世界で不思議な生物『パル』を集めて、戦闘・建築・農業を行わせたり、工場で労働させたりする全く新しいマルチ対応のオープンワールドサバイバルクラフトゲームです。

https://store.steampowered.com/app/1623730/Palworld/

こいつ、いつも「全く新しい」って言ってんなというのは置いといて、『Craftopia』と似たような人気ワードが多く含まれる説明だ。

しかし『Palworld』の中身は『Overdungeon』『Craftopia』とはかなり異なる。『Palworld』は過去の2タイトルと異なり複数ジャンルの融合ではなく、『AI: Art Impostor』のような新しい技術を使ったゲームでもない。
基本的なシステムは、2022年6月の段階で3810万本を有料販売したサバイバルクラフトの代表作『ARK: Survival Evolved』にかなり近く、これまでのタイトルの中でゲーム的な新奇性が最も低い。

『ARK: Survival Evolved』に対する『Palworld』の最大の強みは、ストアページにも記載されている「パル」である。ポケモンに似た生き物(念のため書いておくが、本記事の「酷似」や「似た」は著作権法における「類似性」を意味していない)であるパルが『ARK: Survival Evolved』の恐竜と置き換えられており、プレイヤーはパルを捕獲し、戦闘させたり、使役することでゲームを進めていく。
『Palworld』は平たく言えば『ARK: Survival Evolved』と『ポケットモンスター』を掛け合わせたものだが、『ポケットモンスター』要素の多くはパルのビジュアルデザインであって、ゲーム的な掛け合わせは少ない。

しかし『ARK: Survival Evolved』と『ポケットモンスター』風のビジュアルの組み合わせは極めて高い効果を発揮している。

『ポケットモンスター』風のビジュアルには強い訴求力があり、ビジュアルに惹かれてやってきた人は、序盤からパルを捕獲したり、パルの様子を見ることで楽しみを得ることができる。
最序盤のプレイ導線はパルの捕獲を中心に整備されるし、パルがモチベーションを与えてくれるため、サバイバルゲームとして序盤からプレイヤーに死のリスクを負わせる必要性も薄くなる。『Palworld』の序盤はかなり平和で、わざと危険な行動をしない限り、あまり死なないし、生活必需品も不足しない。

パルの可愛さは、ビジュアルに惹かれてやって来たプレイヤーが離脱しないよう開発者がゲームをマイルドにする理由になるとともに、マイルドにすること自体にも貢献している。この点を重視するなら、『Palworld』は従来のサバイバルクラフトがリーチしない層にプレイしてもらうのに最適なタイトルだ。

繰り返しになるが『ARK: Survival Evolved』+『ポケットモンスター』の威力は絶大で、ポケモンの利用法としてこれほどしっくりくるものは『Ingress』(『Pokémon GO』)以来に思える。このタイトルが「ポケモン」ではないことが、残念でならない。

勝手に動く可愛いパル

『Palworld』のゲーム的な新奇性を評価するとき、最も重要なのがパルによる生産活動の自動化だろう。『ARK: Survival Evolved』でも放浪モードの恐竜が資源を採取してくれたり、NPCを使役する機能を搭載したサバイバルクラフトもあるが、『Palworld』は少なくとも『ARK: Survival Evolved』よりNPCによって自動化できる範囲が広い。

またシミュレーションゲーム『RimWorld』を参考に「感情を伴うオートメーション」を目指しているとインタビュー記事にあるように、パルが自律的に行動しているかのような、プレイヤーにとって簡易的かつ便利で、なおかつ愛情の湧くものが意図されている。この点にもパルのビジュアル的な強みが活かされている。

パルの自律行動が理想的に機能していれば、この部分は『Palworld』の持つ魅力的な新奇性と言えるだろう。しかし、現状パルの挙動にはバグが多く、プレイヤーのアサインに何の反応もなかったり、どこかでスタックして動かなくなったりするため、どのような状態が正常なのかよく分からなくなっている。また、パルの行動管理システムのUIは使い勝手が悪く、「正常な状態」からプレイヤーを遠ざけている。

自動化の程度も、一部の資源採取や生産を省略するソフトなものだ。そもそも、パルが感情を持って自律的に動いたら自動化を志向するプレイヤーには不快だろうし、自律的かつプレイヤーに快適に動いたらプレイヤーが拠点でやることがなくなってしまわないだろうか?もしかしたら『Craftopia』と同様「パル帝国」の完成によってこのゲームが終わる、という見込みなのだろうか。

今後のアップデートで、自動化する行動の対象・パルの自律性の高さ・プレイヤーが可能な指示の範囲・UIなどが変更されたとき、プレイヤーの快適さ・自動化と他要素との関係・パルの魅力・作品のボリュームなどがどうなっているかが、『Palworld』の評価にとって重要なものになるだろう。
現状の評価を敢えて述べるなら、拠点構築はパルが甲斐甲斐しく作業してる様子を視覚的に楽しめるし、プレイヤーの負担を軽減してくれるものの、面倒な作業や不快なトラブルも多く、ゲーム的に褒められる状態には達していない。

Palworldのダメな点

先ほど「ビジュアルに惹かれてやってきた人は、序盤からパルを捕獲したり、パルの様子を見ることで楽しみを得ることができる」と述べたが、この点が『Palworld』の欠点にもなっている。パルのビジュアルに魅力を感じない人は、モチベーションの低い状態でゲームをやることになるのだ。

筆者は『Palworld』のプレイ時間がまだ長くないし『ARK: Survival Evolved』などのサバイバルクラフトにも詳しくないので、正確な比較は難しいが、『Palworld』の序盤はサバイバル要素がかなりマイルドに(あるいは、ほぼ完全にオミット)されており、パルの可愛さが刺さらない筆者にとっては退屈に感じられた。

またフィールドは、魅力的なインタラクションの密度が低く、地形からもあまり興味が喚起されない。レベルデザインの品質はあまり高くないように感じる。結局のところ『Craftopia』と同様、飛行パルへの騎乗によって機動力が激増すればレベルデザインの品質の低さも気にならないのかもしれないが、いくらなんでも退屈な時間が長く、面倒な作業が多いのではないかと感じた。

これらの問題は筆者がソロでプレイしているからかもしれない。サバイバルクラフトは基本的にはマルチプレイ向けのジャンルであり、面倒な作業を複数人で圧縮すれば、プレイ体験は改善するだろう。

また、コンテンツの量にも不安がある。現状PvPが実装されておらずPvPの方針自体が検討中なこともあり、これと言ったエンドコンテンツがなさそうに見える。もちろんこれまでのPocketpair作品からすれば問題ないだろうが、『ARK: Survival Evolved』と比較するとウィークポイントになるだろうし、予想をはるかに超えて殺到した大量のプレイヤーの熱意がいつまで続くかも未知数である。

Palworldの「悪」は見掛け倒し

このように『Palworld』は、まだアーリーアクセス開始直後ということもあって、現状は荒削りの部分が多い。1月15日の時点で完成度や開発状況が「基本機能は固まってきているので、60%ぐらい」とされているように、今後のアップデートが重要だ。

現状の『Palworld』をどのように洗練し、コンテンツを充実させていくか…Pocketpairの置かれる状況が全く変わってしまったいまとなっては難しいかもしれないが、それでも2018年の『Overdungeon』アーリーアクセスからPocketpairのタイトルをプレイしている筆者としては、『Overdungeon』『Craftopia』と同様に「悪」によって問題を『Palworld』ごと粉砕するようなアップデートを期待したい。

『Palworld』は「悪く」ない。確かに『Palworld』ではパルを労働させたり、解体したり、盾や砲弾にするなど露悪的な表現は目立つし、ストアページでもパルに対する扱いの悪さがアピールされている。

この世界には危険があふれています。生き残るためには手段を選んではいられません。時には、パルを食らってでも…。
(中略)
労働法はパルには適用されませんので、ご安心ください。
(中略)
パルは餌さえあればずっと働きます。寿命が尽きるまで。
(中略)
いざとなったら、パルを身代わりにしましょう。あなたの為なら、命も捧げて守ってくれます。

https://store.steampowered.com/app/1623730/Palworld/

パルに対する扱いはビジュアル的な面白さがあり、以前のトレーラーではより強く押し出されていた。

これらの様子は『Palworld』のトレーラーが出るたびに話題になっていた。『Craftpia』でも牛がオートメーションで生産され無限に鍋に落とされる様子や人間が回し車で発電させられる様子が話題になっていたし、YouTube映えを意識したり、まず見た目の面白い動画を公開し、その反応によって開発方針を決めるという開発スタイルも紹介されている。

ポケットペアではゲームをつくる前に開発中の動画を公開し、その反響を見て開発にも役立てるという開発の仕方をしています。これは一般的なゲーム開発ではまずしない手法ですが、実はハイパーカジュアルゲーム(ユーザーの性別、年齢、国を問わず遊べるシンプルなスマートフォン向けゲーム。ゲーム内広告によってマネタイズしている)であれば一般的な手法なんです。

https://wired.jp/article/why-stay-independent-5-pocketpair-takuro-mizobe/

一見『Craftopia』から続く流れだ。そのため筆者としては「悪」を面白さとして見せる作風を一貫させているものと期待していた。『Grand Theft Auto』シリーズが典型だが、やはり悪いことは面白いのだ。

しかし実際にリリースされてみると『Palworld』の「悪」は2つの意味で見掛け倒しである。まず『Palworld』の「悪」はゲーム的な要素との結びつきがない。『Overdungeon』『Craftopia』の「悪」はゲーム的な規範を破ることで、従来のゲームとの差別化を図り、少ないボリュームで満足感を与えることに成功していた。現状の『Palworld』の「悪」は、ビジュアルやフレーバーテキストなどフィクション的な「悪」が全てで、ゲーム的な喜びに欠ける。

さらに、フィクション的な「悪」も大したことはしていない。第一、我々は日常的に動物を使役し、解体して食べ、それを何とも思っていないではないか。

パルへの扱いがなぜ「悪い」と感じられるか。それはパルがキャラクター化され、人間のような感情表現を与えられているからである。

そして『ポケットモンスター』のポケモンも同様にキャラクター化され、人間のような感情表現を与えられているが、『ポケットモンスター』では人間とポケモンとの関係を良好に見せるために感情表現が用いられている。気絶するまで戦わせて金を賭けるという闘犬のような行為を日常的に行っているにもかかわらずである。

『Palworld』の「悪」は感情の張り替えに過ぎず、『ポケットモンスター』においてポケモンが笑顔で「ピカ~」と言うのではなく「すいません、もう勘弁してください。本当に無理です」と言うだけで反転してしまう程度のものだ。これはウマや犬が擬人化され、人間に使役されることを望んでいるかの如く描かれるのと同様だ。筆者は『ポケットモンスター』のこの問題が以前から度々気になっていた

人間が動物に対して行っていることを、動物のキャラクター化によって露悪的に面白おかしく見せるのと、善良な風に見せるのの、どちらが「悪い」ことかはこの記事の本題ではないので、各個人の判断に任せたい(ちなみに筆者の好きな食べ物は焼肉である)。

Palworldを破壊せよ

話を戻すと、やはり筆者としてはPocketpairの邪悪パワーに期待したい。

現状の『Palworld』の「悪」は、フィクション的には軽薄で、ゲームとの結びつきにも欠ける。フィクション的にもゲーム的にも意味のある「悪」が個人的には欲しい。現に『Palworld』はゲーム的な改良・拡充が求められるタイトルであり、何らかの要素は足さなければならない。

より露悪的であり、ゲーム的な関連も強い題材としては、我々がうっすらと知りながら日ごろ目を逸らしている工業的な畜産や、劣悪な環境におけるペットのブリーディングの再現があるだろう。

例えば、将来PvPでパルの「強化」や「厳選」が必要になるならば、パルの生産・選別・処分をオートメーション化するのはどうだろうか。フィクション的にはもちろん、パルの大量生産・処分によって一気にパルのステータスをインフレさせられればゲーム的にも「悪い」。

ここまで酷いことはできないにせよ、拠点のオートメーションを改良する際、序盤はパルの自律性に任せるが、ゲームが進むにつれプレイヤーが細かく指示を出せるようになっていき、フィクション的にはパルの自律性が徐々に失われていくような見せ方をする、くらいの選択肢もある。

ゲームの理解度の高まりに応じて、自動化範囲や細かな指示がアンロックされていくのはUXの上でも合理的だし、「パルが勝手に動いて可愛い」というプレイヤーの気持ちも徐々に薄れていく。
また、組織が大きくなるにつれ、メンバーの自律性を保つのが難しくなり、自由や個性が失われていく、というのもリアルだ(もしかしたらPocketpair自身が体験するかも…)。

Pocketpairに送る言葉

しかし実際にはこういう要素は実装されないと思われる。『Palworld』はもはや『ARK: Survival Evolved』+『ポケットモンスター』だけで十分な訴求力を持っており、幅広い層にリーチしている。
『Craftopia』時代のようにわざわざ悪ぶって人目をひく必要はなく、むしろ拒否されるリスクになる。牛を鍋に落として喜んでいた企業が、パルをベルトコンベアに載せなかった時点で、何らかの変化があるのだろう。

そうして見ると、資金力がなくチームが小さいうちは、尖ったゲームでニッチな需要を狙い、チームが拡大してきたらゲームを保守的にし、ビジュアル勝負でマスな需要を狙うというのは、ベンチャー企業として美しい成長の仕方である。

──そのポケットペアではどういうゲームを作ろうと、こころざしていたんですか? 商業的に成功したソーシャルゲームなどと比べると、『Overdungeon』はそういう方向性の作品ではないですよね。

溝部氏:
 そこは、とても難しいところですね。たとえばいまも、売れることはつねに念頭に置いて作っているんですけど、結果として売れる市場が狭いものができてしまっている。そこは自分の中ではまだ、咀嚼している最中ですね。
 やはり売れるものは正義だとは思います。それ自体は間違いない。けっきょくのところクリエイティブというのは、「自分が作りたいもの」と、「売れるもの」のあいだにあるギャップを解決することですよね。その溝を埋める作業は絶対に必要だと思うんです。
 その中で、理想は自分の作りたいものが、そのまま売れてくれるのが一番いい。「どこまで寄せるのか」という話だと思います。

https://news.denfaminicogamer.jp/interview/190906a

5年の歳月を経て、Pocketpairは売れる作品を世に出した。それも完膚なきまでに売れている。今後開発が開始されるタイトルは、もしかしたらもっと「クリーン」で「マス」な作品になっているかもしれない。

最後に以下の言葉で『Palworld』のレビューを締めくくりたい。

「お前、ビッグになっちまったよな……昔はアルパカや牛をオモチャにして一緒に遊んだじゃねえか……たまにはこっち(OverdungeonとCraftopiaのアップデート)にも戻って来いよ……」

Xのパクりパクられ論争はクソ

蛇足にはなるが、この記事で「パクり」問題に触れない理由も一応説明しておく。

SNSのパクりパクられ論争は生産性が低い。主な理由は以下の3点である。

・「パクり」という幅広い意味を持つ言葉が使われすぎている。そのため、話がかみ合わないことが多い。例えば、ビジュアルに対する話とゲームメカニクスに対する話が混同されるし、法的な問題なのか倫理的な問題なのかも混同される

・法的な問題は線引きをするのが難しい。裁判にならないと分からない。特に著作権法は、理解することが難しい

・法的な問題がどうあれ、倫理的、社会的にどうあるべきという議論は残るが、SNS(特にX)の議論は実効性がないため、SNSのアルゴリズム上「得な」発言に偏ってしまう

さらに法的な問題は個別事例を追求するしかないが、倫理的な問題を論じる場合、個別事例に囚われすぎるのは危険だ。

パクりパクられ論争はTwitter / Xの人気コンテンツだが、いつも大体同じ話でループしているので、そろそろ飽きたなというのが正直な意見である。ループから脱出したい場合は、X以外で議論したり、専門家による解説を読んでみるのが良いのではないだろうか。

そして何より『Palworld』がこれほどの成功を収めたにも関わらず、ゲーム的な「良さ」について、議論が深まらないのはもったいない。この記事にも筆者のプレイ経験の浅さから至らない点はあると思うが、ゲームの中身の議論の一助となれば幸いだ。

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