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「ケシ」ってどこまで呼んでいいの?主要なパール定義ガイドラインの比較

※本記事は2021年2月11日時点の調査に基づいています。将来各ガイドラインが改正される可能性もあるので常に原典にあたるようにしてください。

instagramを見ていたら、気になる投稿がありました。

ケシパールとは、海洋真珠に限定し、淡水真珠への使用を禁止することを推奨しているそうです。

とありましたので、気になって調べてみました(KJM様いつも楽しい投稿ありがとうございます)。

1 JJA/AGL定義命名法

どんな宝石でもそうですが、JJA(日本ジュエリー協会)とAGL(鑑別団体協議会)の「定義及び命名法」が、日本市場における最も重要なガイドラインだと思いますので、まずはこちらから確認してみます。

各種真珠の表記およびコメント改訂版 ( 2020-11-20 ・ 166KB )

http://www.agl.jp/publics/index/10/

この最新版を確認すると、平成26年に「3mm以下の海水養殖真珠に限定」という付則が付いたようです。

付則
1 この規定による鑑別表記は、平成 26 年 4 月 1 日から施行する。                              (略)6 真珠の暑さ(原文ママ)の最大径が3mm以下の海水養殖真珠に限定して、備考欄に「その形状から伝統的に〝ケシ”と呼ばれています」と記載する事ができる。

結論:JJA/AGL命名法では、最大径3mm以下の海水養殖真珠に「ケシ」とコメントしていい。


2 CIBJOパールブック

国際宝飾品連盟(CIBJO)のパールブックは、欧米中心であることから、養殖か天然かの区別についてはかなり厳しい傾向があります。

CIBJO Pearl Commission 2020/4/1

THE PEARL BOOK  p31

5.103 Keshi
an old Japanese trade name for small saltwater natural or non-beaded cultured pearl that is essentially baroque in shape.
Note: the term Keshi used without qualification has been misused and is not recommended terminology for any type of pearl product unless qualified with either 'natural' or 'cultured', whichever is appropriate.

グーグル翻訳で恐縮ですが、

5.103ケシ
本質的にバロックの形をした小さな海水天然またはビーズのない養殖真珠の古い日本の商品名。

注:資格なしで使用されるケシという用語は誤用されており、「天然」または「養殖」のいずれか適切な方で資格がない限り、どのタイプの真珠製品にも推奨される用語ではありません。

まとめると、CIBJOガイドラインによれば、

結論:海水真珠の天然または養殖無核に使っていいけど、天然ケシか養殖ケシか区別しなきゃダメ

ということになります。


3 日本真珠振興会の『真珠スタンダード』

真珠スタンダード2014(日本語)

Ⅱ- 2 - 2 「ケシ」、「芥子」、「Keshi」の呼称及び表記
海水産養殖真珠を浜揚げする際、副産物として採取される無核真珠は「ケシ」、「芥子」、「Keshi」の呼称、表記を使用すること。また養殖の副産物として「養殖」を明記すること。この際、産出母貝の種類を明記することが望ましい。
例:アコヤケシ養殖真珠、シロチョウケシ養殖真珠、クロチョウケシ養殖真
珠等。
                       (註 6)
註 6
 ケシは元来日本において天然真珠の時代から主としてアコヤガイから採取される小粒の真珠の呼称であった。養殖真珠の発明以降、浜揚時に副産物としてケシが多く採取され、薬用や宝飾品として使用されるようになった。またピースのみを母貝に挿入してケシが養殖されたこともある。ケシの成因については、その形成に人の力が全く関与しない天然なのか、あるいは一般的に言われるように、挿核手術の際、ピースが核から遊離してピースのみで形成されたものなのか明確でない。そのためケシは天然、養殖の区別なく、独自のカテゴリーとして扱われてきた。その後シロチョウ真珠、クロチョウ真珠養殖の際、副産物として産出する大粒の無核真珠もケシと呼ばれるようになった。このためシブジョ(CIBJO:国際貴金属宝飾品連盟)では新たなケシの定義を行い、これまでの「ケシは海水産真珠の副産物として産出する小粒の無核真珠を表す日本の商取引用語」から、「海水産真珠養殖の際、副産物として産出する無核真珠」とした。また養殖の副産物であるのなら「アコヤケシ養殖真珠」、「シロチョウケシ養殖真珠」のように「養殖」を明記することになった。
 ケシは養殖を終え、浜揚した時点での海水産無核真珠を指す。浜揚後有核真珠から何らかの方法で核を除去し、無核にした真珠は「ケシ」の定義から外れるので、「ケシ」と呼んではならない。

なお、手元にある赤松先生の『カルチャード・パール~真珠の魅力』付録の『真珠スタンダード』2002版を見てみると、かつては、

「海水養殖真珠無核真珠のうち、小粒(約2mm以下のもの)は『シード』、それ以上のものは『ケシ(芥子、Keshi)』の呼称、表記を使用すること。シード、ケシはその成因が天然か養殖か明確でない場合が多いので、これを区別しない

としていたのですが、CIBJOの定義に合わせて「ケシとシードの区別廃止」「養殖か天然かの区別をする」に変更されたということになります。また、2002年版にはあった「2mm以下はシード」という言及も2014年版では無くなっています。

まとめると、日本真珠振興会の真珠スタンダードでは、天然ケシについては名言しておらず(日本では天然ケシはほとんどとれないからでしょうか)、

結論:海水産養殖真珠を浜揚げする際、副産物として採取される無核真珠を「ケシ」と呼ぶ。母貝名の種類は明記する。

としています。

4 ケシ表記のまとめ

以上まとめると、国際スタンダードに従ってケシについて表記するときは、

(海水産母貝名)+ケシ+(養殖/天然)真珠

という言い方が100点満点!ということになります。


例えば、

・アコヤケシ養殖真珠

・シロチョウケシ天然真珠

など。

これが全て正確に分からないときには、

・AGLでは、母貝不明でも3mm以下にはケシと呼ばれていますというコメントはあり

・CIBJOは、養殖か天然か区別ない呼び方は推奨されない 

・真珠振興会スタンダードでは、大きさにかかわらず海水無核ならケシと呼んで良いけど、後から核除去したやつはダメ

など微妙に違いがありますが、あくまでそれぞれのルールが適用される場面がちがうので、

国内鑑別期間が鑑別書に使うのか、欧米向けに輸出するのか、日本市場向けの表記なのか、

などによって参照するようにしてください。

最後に、貴重な勉強の機会をいただきましたKJMパール様どうもありがとうございました。


おまけ(追記)

「じゃあ淡水のケシ風なやつはどう呼べばいいの?」という相談があったので、周辺の単語である「シード」と「バロック」の定義も調べました。

○JJA/AGL命名法:シード、バロックについての記述なし


○振興会真珠スタンダード:

・Ⅱ- 1 - 2 「シード」、「ポピー」、「ダスト」の呼称及び表記
天然真珠以外の小粒の真珠に、「シード」、「ポピー」、「ダスト」の呼称、表記を使用してはならない

・バロックについては言及なし


○CIBJOパールブック:

5.16 Baroque
an irregularly shaped natural or cultured pearl. Baroque was originally a French adjective used to describe objects or pearls that were not symmetrical in shape.

5.175 Seed Pearl
a small salt or freshwater natural pearl which is generally less than two but no more than three millimetres in diameter.

まとめると、

① 「シード」は、海水・淡水にかかわらず天然の小粒につかう

② 「バロック」は、養殖・天然にかかわらず不定形のものに使える

ということになるので、

淡水のケシっぽいやつは、

・天然で2~3mm未満の小さいやつはシード

・養殖または3mm以上の大きな不定形のものは一応定義的にはぜんぶ「バロック」

と呼んでいいのではないでしょうか?(あくまで私見です。)

あとは形を具体的に説明するとかでしょうかね。

淡水養殖真珠(花びら形)とかですかね?


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