ジュエリーの金属アレルギーと製造物責任

ブランド立ち上げ直後に相談が多いのが、

PL保険や保証書などの注意書きについてのお話です。

今回はジュエリーブランドをはじめたばかりの若手ジュエラーが見落としがちなポイントをまとめておきます。

1 ジュエリーの金属アレルギー

一番おそらく問題になりやすいのが金属アレルギーですね。

いちばん起こりやすいのがピアスだと思います。指輪は表皮の厚い指につけるので、金属が体内に入りにくいのですが、ピアスは皮膚を貫いて皮下組織に直接金属が接するため、拒絶反応を起こしやすいのです。

金属アレルギーを起こしやすい金属はこのようなものがあります(危険度順)

<危険大> ニッケル、コバルト、クロム
<危険中> 亜鉛、マンガン、銅

クロムは、革製品をなめす過程で使われることがあるので、ウオッチの皮バンドなどで問題になることがあります。

ピアスなどにはチタンが一番起こしにくいといわれています。

これらを含有する地金を使った製品がないかどうか、把握しておき、その製品には特に後述の注意書きやお客様への説明を十分に行うことが必要です。

「金属アレルギーは、誰でもかかるというわけではありません。身に着けた金属と着けている人の条件でかかります。まず金属ですが溶け出しやすい金属かどうかということです。 ニッケルやコバルトなどの、低品度とされる金属ほど起こしやすいとされています。着けている人の条件では、まずその金属に触れる頻度があります。最初の接触により感作が起こる場合もありますが、何回も接触を繰り返しているうちに、例えば数十年間にわたって感作されることもあります。次にその金属に触れる条件があります。例えば汗をかくことの多い夏に身に付ければ、発症しやすくなります。これは汗は酸性で、金属は酸に弱いため、金属が溶けるからです。この点からいえば、冬は皮膚炎になりにくく、金属アレルギーと汗の密接な関係を知ることができます。その他着ける人の体質、例えば汗をかきやすい人かきにくい人、角質層の厚い人薄い人とさまざまな要因が組み合わさって、アレルギーが引き起こされます。」(水野孝彦ほか『ジュエリー・バイブル 基礎知識からビジネスまで』132頁)

2 法的にはどのような場合に責任を負うのか(製造物責任法)

製造物責任法第3条は、次のように規定しています。

第三条(製造物責任) 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

この条文は、故意又は過失を要件とする民法709条の一般不法行為の特則として、欠陥を責任要件とする損害賠償責任を規定したものです。

このPL法の制定当時はジュエリー業界も「無過失でも責任を負わされるらしい」「アメリカのような訴訟社会のはじまりだ」等と戦々恐々としていたと聞いたことがありますが、実際そこまで簡単に責任を認めるようなものではないので、以下の対応をきちんとしていれば過度に心配する必要はないと思われます。

上の3条は、要件として以下のようにわけることができます

① 製造業者等で、その製造、加工、輸入又は氏名等の表示をした製造物

 自社の名前で、またはブランドを輸入するなどして販売するジュエラーにとっては当然あてはまるでしょう。

② その引き渡したもの

 これも、ジュエリーを販売するときはあてはまりますね。

③欠陥

これは、その製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(第2条第2項)。

この「安全性を欠いている」ことについて、消費者庁の逐条解説は次のように解説しています。

「安全性を欠いているとは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮した上で、他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす危険性のある状態をいい、当該製造物の使用者のみならず、使用者以外の第三者に対する危害も含まれる。個々の製造物の欠陥の有無の判断に際しては、当該製造物に係る諸事情が総合的に考慮されることになる(以下略)」(消費者庁ウェブサイト『製造物責任(PL)法の逐条解説』

④ 他人の生命、身体又は財産を侵害したとき

 人の生命、身体または財産が保護法益ですから、金属アレルギーによって通院加療が必要になった場合には、その治療費や交通費等の人身損害が対象になります。

但し書きにあるとおり、そのジュエリーが壊れたから修理費が発生したというのはこのPL法の話にはなりません。

⑤ 欠陥と損害の間の因果関係

 当然ながらその発生した損害が、その製品の欠陥が原因であること(民法416条の相当因果関係)が必要です。


3 製品の注意書き、商品説明をどうするか

金属アレルギーのほかにも、サウナや運動時に着けるなど使用法を誤ると怪我の原因になることがありますし、形状が尖っていて怪我をするおそれがあったり、服などにひっかかりやすい構造だったりすると、これも怪我の原因になります。

百貨店やジュエリー展などに出展する場合には、これらのチェックポイントについて指摘が入ることもあるようですので、経験の浅いジュエラーは注意しましょう。

そして、もちろん、製品の説明や注意事項においてもこれらをふまえた内容が必要です。

最も基本になるのは、JJA(日本ジュエリー協会)推奨の注意書きです。

① 体質によって、かゆみ・かぶれを生じる場合がありますので、皮膚に異常を感じたときは、ご使用をお止めいただき専門医にご相談ください。
② 力仕事や激しいスポーツをする時、就寝時や幼児の世話をする時など、身体に危害を及ぼす場合がありますのでジュエリーをはずしてください。
③ サウナ等高温の場所、あるいはスキー場等極寒地でのピアスなどのジュエリーの使用は、火傷、凍傷の原因となる場合がありますので、着用しないでください。 (日本ジュエリー協会『消費者を守るPL法』

この注意書きについての解説は、『ジュエリーコーディネーター3級テキスト』237頁にも書かれていますので、ジュエリーコーディネーターの方はおららいしておいてください。

4 PL保険(生産物賠償責任保険)に入るのを忘れずに

以前「宝飾・時計業の「損害保険」について考える」という記事で、主に修理やリフォームなどで預かる場合の『受託者賠償責任保険』を中心にお話しましたが、今回の製造物責任についても、損害保険に入ることはマストだと思われます。

店舗総合保険などにはPL保険もセットで含まれている場合も多いかなと思いますが、特に無店舗でネット通販のみのような場合は、PL保険だけ単品で入るのがおすすめです。

たまに、デパート催事や新人作家向けのジュエリー展示会などに応募した際に、PL保険に入っていることが参加条件となっているのを知り、慌てて相談にくる若手ジュエラーの方がいらっしゃいます。

前回のnoteでお話したような、店舗を運営するような段階ではないジュエラー(個人で自宅で製作して、ネット等で販売するような形態)であっても、お客様に製品を販売してお金を頂く以上は、上記のような注意店はもちろんのこと、PL保険だけは最低限入っておく必要があります。

大手の損害保険会社のほとんどが扱っており、内容はほぼ似たようなものですので、お近くの代理店などに相談して加入しましょう。

例えば、

・三井住友海上(生産物賠償責任保険

・東京海上日動(生産物賠償責任保険

・損保ジャパン(国内PL保険

また、これらも中小企業向けの各種組合(ITCOOPなど)や商工会議所(東京商工会議所など)などで団体加入の割引などもあるようなので検討してみてください。

基本的には前年度の売上げ等によって保険料が決まるので、小規模、若手のジュエラーの場合は非常に安くなると思います。

5 まとめ(きちんと知って安心して自社のジュエリーを身に付けてもらおう)

以上、金属アレルギーの問題を中心に、ジュエリーの製造物責任(PL)法について解説していきました。

きちんと問題点を把握して、対策をとることで、お客様に安心して長く自社のジュエリーを身に付けていただきましょう。

ジュエリーの製造物責任に関するご相談は、相談フォームからどうぞ。


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