『さいはてホスピタル』と『四月馬鹿達の宴』、フィクションという概念を活用した物語


・前置き

約10年前。
西高科学部という創作サークルから、二つのフリーゲームが世に送り出されました。

『さいはてホスピタル』と『四月馬鹿達の宴』です。

そして時は経ち、2020年8月15日。
この二つの作品が、公開停止申請中という話が舞い込んできました。

この話を聞いた時、「この素晴らしい作品を、やっていない人達にぜひとも遊んでほしい」と思いました。

確かに動画サイトには、プレイ動画が存在しています。
しかし、「ゲームとして体験する」というのは、ゲームとして遊んだからこそ得られるものです。
まだ手に入る間に、この二つの作品を紹介したいと思って記事を書きました。

vectorの配布ページは下記のURLとなっています。
https://www.vector.co.jp/vpack/browse/person/an048191.html
2020年9月頃に、このページは404になりました。


1.概要


『さいはてホスピタル』と『四月馬鹿達の宴』は、どちらもPC向けのフリーゲームです。
ジャンルはRPG。
RPGツクールで作成されており、起動には2000用のランタイムが必要です。

『さいはてホスピタル』は
『「さいはて町」に住む子供達が仲良く喧嘩する不思議RPG 若干ブラック』、

『四月馬鹿達の宴』は
『緩慢な死を迎えつつある世界で繰り広げられる冒険物語』と紹介されています。

個人的な意見を挟み恐縮ですが、これら二作の共通点は、
「フィクションという概念」だと考えています。

2.あらすじ

それぞれの作品の冒頭部分のあらすじを紹介します。

・さいはてホスピタル

物語は、映画館のような光景から始まります。
スクリーンには三人の人物が写され、彼らの行動を追体験していきます。

そのうちのひとつ。
プレイヤーであるあなたは、いつからか「さいはて」と呼ばれる土地に住んでいました。
友人や弟分と共に、噂話に聞いた開かずの扉を調べに来ています。
どうにかして開けようとしていると、扉は内側からこじ開けられました。
中から出てきたのは、病的に白い少女。

扉の中を調べて出てくると、そこには魔女のような格好をした女。
彼女はあなたに頼み事をします。それは、扉から出てきた少女への伝言です。

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理解する間もなく、突如降って湧くトラブル。
あなたは魔女の頼まれ事を覚えつつも、トラブルの解決へと乗り出します。


・四月馬鹿達の宴

プレイヤーであるあなたは「世界壁」と呼ばれる壁の前に立っていました。
壁を超えて先に進むには危険過ぎる、さりとて戻るにも同様に危険過ぎる。

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世界を隔てる壁、「世界壁」

しかし、あなたには「願う」ことで、願ったことを叶える力を持っていました。
そしてあなたは願います。どこかの誰かに呼びかけ、その声が届くことを。

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願うことで望んだ事象を引き起こす、プレイヤーだけの特権。

場所は変わり。ある街に住んでいたイツキと言う名の人物は、
いざこざに巻き込まれてしまいます。
そして、探偵見習いのテツロー、街に流れ着いたウィッチクラフト使いの少女マナみと共に、街を追い出されて旅に出る羽目になります。

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BGMも相まって、序盤にも関わらず盛り上がる旅立ち。

そして旅の途中、イツキ達は世界壁を開け、あなたと合流する事になります。

3.システム

攻撃したりスキルを使ったりアイテムを使ったり、という点は他のRPGと同様です。
しかし、そのスキル…「マホウ」を使うシステムが独特です。

マホウを使うためのポイントは、基本的に0から始まります。
「収束」というコマンドを使ってマホウを増やし、増やしたマホウを使ってマホウを使います。


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この辺はちゃんと実践形式で説明があります。

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マホウがゼロのときは、収束か必要コストが0のマホウしか使えませんが…

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必要なマホウを貯めることで、使えるようになります。


当然、強力なマホウほど、要求されるMPは高くなります。
そのため、収束するための時間が長くなるという仕組みです。
これは敵側にも言えることで、「収束をする」が「強力な行動の予備動作である」ことを示しています。

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「マホウ」というシステム一つで、計画的な戦闘の面白さや
相手の大技予告といった複数の要素を生み出している。

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後継作である『四月馬鹿達の宴』では、システムを引き継ぎつつ、
戦闘システムの改良が行われています。


成長システムも少々特殊です。
普通のRPGでは、戦闘して経験値を稼ぐとレベルが上がり、能力が成長して強くなります。
しかし、『さいはてホスピタル』と『四月馬鹿達の宴』では、貯めた経験値を支払うことで能力値を上昇させます。
支払うお金も、経験値を変換して入手することになります(四月馬鹿達の宴では、経験値で直接支払う仕様になりました)。

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現在所持している経験値を支払って、各種能力を上げます。
やろうと思えば初期能力クリアも出来るバランスになっています。


加えて、『四月馬鹿達の宴』では「装備を灰に」という成長システムが存在します。
これは身につけている装備を消滅させることで、能力をあげたりマホウを覚えることができます。
『四月馬鹿達の宴』では、装備している間は装備固有のマホウが使えますが、外すと使えなくなる仕様です。
それを解決するため、「装備を灰に」を利用して、マホウを覚えていくという仕組みです。

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利用する前にセーブは忘れずに。

これによって、「不要な装備も育成用に利用出来る」「安価な装備を買って能力強化する」といった利用方法や、
「手に入れたばかりの装備だが、灰にしてしまうかどうか」といった悩みが出てきます。


4.シナリオ

極力ネタバレを避けて、かつ、面白い点を伝えられるように書きますが、やはり限度があります。
気になった方はとりあえずダウンロードしておいて、遊んで確認することをおすすめします。

語るべきは、「作品の共通点」「プレイヤーの立ち位置」「ゲームであること」です。

記事の最初に、今回取り上げた二作品の共通点は「フィクションという概念」と書きました。
ゲームだから当たり前ではあるのですが、正しく言うなら「フィクションを物語の軸として組み込んでいる」のです。
本来ならばこれをもっと掘り下げて語るべきなのですが、詳しく書くとネタバレに引っかかるため、ここで書くことは残念ながらできません。
いくつかシーンは取り上げますが、実際にプレイすることをお勧めします。

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さいはてに何故か存在する、行き止まりの場所。

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シナリオの進み具合で行けるマップが増減する、「さいはて」という土地。

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あらすじ解説でも取り上げた、世界を隔てる壁。

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イツキたちを追い立てる、黒服(影響元から考えると灰色の男)たち。

作品のタイトルを思い返してください。
「ホスピタル」、つまり病院は、理由があるから行く場所です。
「宴」は開かれているから参加出来るイベントです。開催される理由があります。そして、いつか終わります。

何故そこに「居る」のか?
「参加した」ことで、自分に何が出来るのか?
これを理解できた時、「そういうことだったのか!」と唸るはずです。

そして、ゲームとは双方向性を有したものです。
プレイヤーが干渉したことで、物語が動き、作品によってはシナリオが分岐します。
『さいはてホスピタル』と『四月馬鹿達の宴』ではシナリオこそ分岐はしませんが、変わるものはあります。

『さいはてホスピタル』と『四月馬鹿達の宴』では、プレイヤーの干渉によって生じるものが違います。
あなたが歩んだことで、誰かがまたこの酷い現実を歩こうと決意してくれるかもしれません。
あなたが全てを賭して行ったことが、たった一つの小さな穴を穿つことだったとしても。変わることがあります。

この二つの物語は、遊んだあなたがいた事で完成します。
最初はゆるい雰囲気を楽しみなから、それぞれの世界を歩いてみてください。


5.最後に

本記事ではシステムやシナリオを取り上げて紹介しましたが、作中内の背景や演出も非常に優れています。


・おまけ

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この台詞好き。




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