アニメ「KLAUS (クロース)」のアニメ制作方法を考察してみた。

井上ジェットです(@jetinoue)。

Netflixオリジナルアニメで、2020年アカデミー賞にもノミネートされた「KLAUS(クロース)」というアニメがあります。アニメ関係者の人の多くはこのアニメのことをご存知でしょう。

クロース予告編「Klaus | Official Trailer」

この作品に参加した友人から「作品をぜひ見てくれよな」と連絡があったので、見たらびっくりすごいクオリティで、アカデミー賞にもノミネート。残念ながら受賞にはならなかったですが、ノミネートでももちろんすごすぎることです。
この作品は、2D作画によるアニメであることを知りさらに驚き、どのように作られているかが気になりました。するとラッキーなことに「クロース」のアニメスタジオ「The SPA Studios」はYOUTUBEにメイキング動画を沢山公開してくれていました。https://www.youtube.com/channel/UCU5ThXAtxgt2AXNru7r7veg/featured

また、アニメーション制作はデジタルで作画されており、そのパイプライン(制作管理や、制作システム)は、Toon Boomのアニメ制作ソフトHarmony等を主軸として作られているということで、さらに興味は深まったわけです。※Toon Boomは「天気の子」や「君の名は。」の新海誠監督も、「絵コンテ」のソフトを使っている同じブランドのアニメ制作ソフトの1つです。

しかし、クロースの映像を見るとまるで3DCGのような、陰影がついているのです。むむむ、どのようにしてこれができたのか気になって仕方がありません。

このSPAスタジオのアニメの、クオリティを見れば、途方も無いレベルの差に1、2日寝込んでしまうアニメ監督もいるかもしれません。私は頭を抱えました。

頭を抱えていても仕方がないです。SPAスタジオのメイキング動画を見て、どのように作っているか分析してみましょう。いくつかの動画を見ると、以下のような作画工程になっているだろうと私(井上ジェット)は分析しました。

●アニメ制作方法の予想
※予想です。

(1)フォトショップによるラフ作画(1原画)
 ※原画枚数は多めな感じがします。しかもすごく丁寧。
 ※メイキング画面がフォトショでしたが、toonboomでやっている人もいるかも。

 ↓
(2)Toon Boomのアニメ制作ソフトHarmonyにラフ原画を取り込み。
 ※おそらくラスターで取り込み。
 ↓
(3)Toon Boom上での、クリンナップ(2原画=動画)+作画中割動画
 ※動画=インビトゥウィーナー(中割の人)と言われているようです。
 ※ここでベクター化(パス作画)していると予想。
 ※ツールはどうであれ日本のデジタルとやっていることはほぼ同じ
 ↓
(4)Toon Boom上での、インク&ペイント(仕上げ)
 ↓
 ※ベクター化しているが、次の工程のためにここからマルチパスレンダーで、ラスターでマルチレイヤーで書き出ししている可能性もある。

ここまではおそらく、このように作られていのでないかと思います。
ここからが、詳細が謎なんです。
メイキングでは(4)の次の工程が……

(5)ライティング

と書かれています。このライティングがおそらく企業秘密っぽいやつかもと思ってます。
しかしここのメイキングの記事などを読んで
http://kai-tei.daa.jp/2019_1121_11934/

予想することは、2通りのやり方です。
A、B、どちらかじゃないかなという予想です。

●予想A案
帽子や顔、目などのパーツをキャラクターの色などから分析するとか……
そういった謎のAIシェーダーがあって、それによって陰影を出してくれる。

●予想B案
書き出された素材を人が見て、ブラシで影つけしている。つまりここでも、ブラシ作画のようなこととコンポジットのようなことを両方やっているのではないか。ということです。

●予想C案
C案は、補足なのですが、Aのような自動のシェーダー処理っぽいものが
軽くあって、B案のような手作業もやっているという足し算案。

メイキング記事を読むと、ライティング工程には以下のようなことが書かれています。

 最大8レイヤーのライティングを導入します。アンビエントオクルージョン、サブサーフェススキャッタリング、リムライト、目の鏡面反射光、バウンスライトなどがあります。
 これらのレイヤーのそれぞれには、アーティストがショット用にレイヤーの下に作成するシェイプのセットがあります。Les Films Du Poisson Rougeのツールのトラッキングシステムを使って、レイヤーをいくつも通過します。次に、それらをマージして 「ベイク処理された」 ライティングの外観を作成します。
http://kai-tei.daa.jp/2019_1121_11934/
から引用

とあるように。ここから推測するのは、
帽子やいろいろなパーツ分けされた「シェイプのセット」をマスクとして、アンビエントオクルージョンや、リムライトなどの方向を決める作業があるのだと思いました。
目のハイライトなどの位置を決めるのはアーティストで、トラッキングシステムによって自動追従されるのではないかと思うのです。
つまりは、やはり1カット1カット、アーティストが調整しているのだろうと思うわけです。さらに、服の生地などもテクスチャリングされていますよね。これもトラッキングで動いているように見えます。

このように分析すると、だんだん光明が見えてきます。
しかしながらこのアニメは、謎のライティング工程を除いたとしても、作画枚数も作画のクオリティもとても高いということは、間違いなく言えるのです。世界TOPレベルの作画スタジオ、SPAスタジオ、素晴らしいですね。

●まとめ
Toon BoomのHarmony、使いたいですね。
日本のアニメスタジオは、OLMさんなどがToon BoomのHarmonyで作っているアニメがあると聞いています。
しかし日本のアニメでは、まだまだRetasでトレース&二値化&仕上げ、デジタル原画はクリスタ多勢、AfterEffectでOLMスムーサーをかける作り方が多いのではないかと思います。

もちろん、アニメ作品によってツールは使い分けられるわけですので、Toon BoomのHarmonyがいつでもベストだとは言い切れないですが、絵コンテから、コンポジット前までの書き出し工程までを、2Dでベクターベースで、カットアウトアニメーション機能なども使う人には便利な機能も兼ね揃えたToon BoomのHarmonyは2Dベースのアニメソフトの最強ボスの座にあると言えるでしょう。
2位はRetasと言いたいですが。かつては1位だった。
デジタル原画は、原画マン様の画がそのまま動画の1枚にもなるし、悪くはないですよね。良いところは多いと思います。また日本は撮影さんの技術も高いので、しばらくは既存の制作スタイルは続くのでしょうね。

井上ジェットでした(@jetinoue)。


●参考
Harmonyでのカットアウトキャラクターアニメ作成方法
https://docs.toonboom.com/ja/help/harmony-15/essentials/getting-started-guide/cut-out.html

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