ざ・ごーるでん・どろっぷ

 近鉄日本橋駅のコクミンドラッグで、ぼくはのど飴を買おうとお菓子コーナーに向かったところ、『黄金糖』のパッケージが目に入った。その名の通り黄金色に輝く四角柱型の飴で、大人になってからわざわざ口にした覚えもないのだけれど、子どもの頃たまにおばあちゃんががま口から取り出して何粒か握らせてくれた思い出がある。ぼくは舐めている途中の飴玉を掌に吐き出して太陽の光に透かしてうっとりと眺めるという汚い癖が昔あって、黄金糖の輝きは形状も相まって他の飴とは違い、より鉱物のような結晶のような印象だった。
 さらにパッケージを注視すると、『黄金糖』とシンプルに赤文字で中央にずどん、と書かれたその上に「The Golden Drop」と手書き風のフォントで記されているのに気がついた。「ザ・ゴールデン・ドロップ」っていうんだ。黄金糖って。かっこええやん。これでええやん。と僕はヒントを得て、黄金糖とキシリクリスタルをひと袋ずつ買った。やたら飴が好きな女だと店員から訝しがられたかもしれないけれど知ったことではない。
 お会計の後、ぼくは表に出て「The Golden Drop」と検索窓に入力して調べたところ、もうすでに00年代初頭に同名のアイドルが活動していたことがわかって、ああ、もうあったんだ。とがっかりした。が、機転を利かせてフランス語に変換してみる。「Bonbons Dorés」と出た。自動音声で発音させてみると「ボンボン・ドレ」とのことだった。やや正確に表記すれば「ボンボン・ドウレィ」といったところだろうか。なんかちゃうな、と次はイタリア語で叩いてみると「Caramella D’oro - キャラメラ・ドロ」で、「黄金の」がドロとかドレとか、あんまり可愛くない響きのようであった。となれば逆にアジアでいったろ。中国語で変換すると「黄金糖果 - シンスー・タンクォワ」で、けっこう格好いいのだけれどスッと入ってこない。となれば日本語でストレートに「黄金糖」のほうが真っ直ぐだしなおさら格好いいよね。ただ「黄金糖」をまんま拝借するのも、商品名だしあとあと揉めるのもいやだからはてさてどうしたものだろう、とスマホをバッグにしまい、一旦考えるのを止めて自転車で今宮の我が家に向かった。そのあと、浪速公園の横を通り過ぎるあたりでふと「ざ・ごーるでん・どろっぷ」とあえて平仮名にしてみるのはどうやろ、と閃いた。ちょっと可愛らしくってええやんか、とほくそ笑んで、明日ももねに相談してみることにした。花粉で黄ばんだ難波の空のもと、ぼくは希望に纏わりつかれていた。

ここから先は

34,959字

¥ 1,000

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポートしていただけますと、ありがたいですし、嬉しいです。