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酔っ払いたちが見た日本        愛国者学園物語34

 しかし、マイケルもジェフも「真夏の愛の夢」での、日本人の生き方について言いたい放題を思い出して、今の日本にため息をついた。

 あれから約15年経ったが、彼らが憂慮する日本人の閉鎖的な言動は何も変わっていない。もちろん、マイケルたちはそういう国民性というか、日本人たちの精神がすぐに変化するとは思っていない。むしろ、これからも変わらないだろう。どこの国の人間であれ、その生き方は変わらないし、それを他人が変えることは難しい。


 今、2020年代半ばの日本では、愛国者学園などが世の中に広まり、 徴兵制度も復活して、日本人至上主義がはびこっている。

「日本人は世界最高の人種だが、東アジア人たちは日本より劣る。日本こそがアジアのトップリーダーであり、アメリカとEUに対抗できるアジアで唯一の国なのだ」

「(第二世界大戦のことを無視して)日本の歴史は最高だ、これほど平和な国は人類史上存在しなかった」


「第二次世界大戦は欧米に支配された東南アジアや東アジアを解放するために、日本が戦った戦争なのだ。日本は正義のためにアジアを解放したのだ」

 このような、日本は最高だイコール日本人至上主義に陶酔する日本人は増えた。それは愛国心の高まりと、それを流布する人間たちへの無条件の服従、それに政府やインテリたち社会の指導層がそれに染まったからである。アメリカには白人至上主義があるように、日本には日本人至上主義があるというわけだ。

 こういう自己満足的、他者に攻撃的、かつ排他的な思想が日本社会に
あふれているにも関わらず、それを疑問視する人は多くなかった。それに、何か疑問を唱えれば、攻撃される時代になったので、これら日本人至上主義に疑問を呈する者すら少なくなったからだ。

何か発言すれば
「お前は偉大な祖国日本の敵だ」
「お前は左派イコール悪い人間」
「お前はパヨク(左翼だ)」
「お前は日本人じゃない」
「こいつを締め上げろ」
「脅せ」
「@せ」
と言われるのが普通になった。

 一部のインテリや芸能人たちもそう言う言動をするようになり、社会から多くのアクセスを得てそれを自慢しまくった。アクセス数イコール自分への賞賛だと勘違いしたからである。

 その主戦場であるSNSでは、それらサービスを提供する会社も、建前ではそのような過激な言葉のやり取りを禁じてはいたが、実際のところは、彼らの取り締まりは効果が薄かった。

 会社は有名人に対する攻撃はすぐに対応したが、無名人へのそれはほとんど無視するか、対応は遅かった。無名人など、会社の経営に何の価値もないからだ。利益だけが全てのビジネスでは、有名人だけが利益をもたらすから彼らを守る価値がある。それ以外は価値がないというわけだ。


 そして、ある研究では、平成の次の時代に最も流行した言葉は「非国民」だそうだ。マスコミはこの研究を無視した。それは愛国心からなのか、これを伝えると社会に差別を広めると過度の配慮をしたのかは不明である。だが、これは信頼できる統計手法による研究だったので、海外の日本研究でもよく紹介された。

 こういう日本の現状を踏まえて、海外では、日本は本当に民主主義の国なのか? という主張をするメディアが複数現れて問題提起をしたものの、日本のメディアは出来事の後追いに終始した。日本人至上主義者たちから圧力を彼らは無視出来なかった。日本のマスコミは主義主張の多様性を失い、特に保守系メディアは政府の広報機関と化したので、社会の信頼を失った。


 ジェフは思う。そのような苛烈で攻撃的な言動は、もしかしたら、ジェフたちがあの晩、「真夏の愛の夢」でぶちまけたことが、現実のものになったのかもしれなかった。ジェフたちの議論は酔っ払ったうえでのことなので、大げさだった。しかし、彼らが話したことは彼らが日本人と実際に角付き合わせて知り得た、血の通った体験談であり、あれが単なる馬鹿話とも言えなかった。

 日本人の消極性が、

自らを語らない、説明しない、議論しない、間違った主張をしている目上にやむなく服従せざるを得ない、多数派に無条件で従う、

というそれらの精神的姿勢が、燃え上がる日本人至上主義に油を注いだのではないか

 ジェフはジャーナリストだから、日本が好きだから、このような重要な問題を見逃すことはできない。彼は自分とホライズンの仲間が、日本社会のこういう暗部を変えられると思うほど、自分たちに自惚れてはいない。だから、日本が好きなマスコミ関係者として、これからもこういうダークサイドを見続けることになるだろう。

ジェフが日本の現状を悲しんでいると、マイケルが励ました。
「君はホライズンで、それを語れよ。日本が悪い方向へ行くのを止めるんだ」
ジェフは親友に感謝した。


続く 

大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。