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アナゴの寿司が大好きな米軍の将軍は、なぜ日本で働いていたのか。私が生み出した人々 2

 彼はNSA高官として、サイバー戦争に積極的に関わる。NSAの伝統芸だった電波傍受の予算を大胆にカットし、インターネット上でのサイバー戦争に力を注ぐようにと上層部に提言し、受け入れられた。彼が出世したきっかけは、彼自身も従事した電波傍受を「捨てた」ことだ、と事情通は評価している。事実、米空軍に入隊して10年もしないうちに、彼はサイバー戦争にのめり込んだ。
 彼の提案は大胆すぎて、彼を嫌う上官も少なくなかった。しかし、インターネットの発達が、マイケルを後押しし、彼の判断が正しかったことが明らかになると、彼は昇進を重ね、より大きな仕事を任されるようになった。

 また、彼は日本の情報機関とも強いコネがある。NSAが通信傍受のための機材を開発する計画を推進したとき、日本政府が密かに出資してそれを支援した。だが、開発された機材の一部を使っていることに、違和感を持っている。もちろん、それは機密なので、マスコミも政治家も知らない。知っているのは、自衛隊の電波傍受組織や、警察の傍受組織・ヤマを統括する一握りの人間だけ。マイケルはジェフに、日本は手を汚さずに獲物をゲットしたよ、と言ったことがある。

 マイケルは後に、空軍大将に昇進し、NSA長官になった。彼のその後も、(この小説の設定として決めてあるが)、それはまだ内緒。

 マイケルは、かつて私が教えを受けた英語教師の名前。苗字のゴンザレスは適当に選んだが、アルバレスにすれば良かったかも、と今も考えている。

 マイケルが登場するのは、第24話だが、そのきっかけになった事件は、第21話に書いた。マイケルの友人、ジェフの会社に対するサイバー攻撃にNSAが介入したからだ。なぜ、そうなったのかは、第21話から読んでいただきたい。

 彼が電子情報機関NSAの一員だという設定にしたのには、いくつも理由がある。スパイ小説などによく登場するアメリカの情報機関はCIA ・中央情報局だ。それらに関心がない人でも、CIAの三文字はどこかで見たことがあるだろう。CIAは主に人的手段(ヒューミント)で情報を集める。

 だが、私が登場させたのはNSA・国家安全保障局。電波傍受やインターネット上の通信などの傍受と分析、暗号の解析などを行う組織。それらはシギント(電波・通信傍受と解析)やエリント(電子機器の情報収集と解析)と呼ばれ、ハワイや日本など、全世界にある傍受ステーションなどで諜報活動を行なっている。日本の三沢基地や沖縄には、かつて、象のオリというアンテナ群があった。それもシギントのシンボルだった。

 この組織は、米国で最も多くの数学者を雇い、最も多くのスーパーコンピューターを持っているとも言われる。今は、おそらく量子暗号や量子コンピューターの研究に力を注いでいるのだろう。

 私の「愛国者学園物語」で、マイケルがCIAなどでヒューミントを担当する諜報員ではなく、NSAで技術的な仕事をしている理由。それは、ハリウッド映画でありふれたCIAよりも、NSAのほうが、21世紀のインターネット社会に、ふさわしいと思ったから。


続く 

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