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警察関係者の違法行為における日本でのダブルスタンダードと闇

 犯罪率の低さや政治的不安が少なく、常に世界平和度指数のトップ10ヶ国にランクインする日本。国民はその平和を誇り、警察は国民の安全を守るべく毎日多くの事件や事故の対応に追われる。その一方で、人々は彼らを国営暴力団と呼ぶ。

 2015年の一年間で、懲戒処分を受けた警察関係者は293人と報道された。しかし、そのうちの99人が犯した窃盗、業務上横領、強制わいせつなどの法令違反に関して、警察は公表していなかったことが、毎日新聞社の調べで明らかになった。これらの数字は氷山の一角にすぎない。

 東京都警察情報通信部の技官が都内の地下鉄駅で女性の上半身に触れ、とがめたその女性を突き飛ばし、その上、駆け付けた駅員2名に暴行を加えたという事件がある。迷惑防止条例違反と暴行容疑で逮捕された。しかし、その事実はおろか、職員の部署や名前についても全く公表されることなく、事件はたった数ヶ月の減給処分で済まされた。

 もし仮に一般国民である男性が、その警察関係者と同じように電車内で痴漢をはたらき女性を突き飛ばし、2人の駅員に暴行を加えたとしたら、どうだろうか。警察はその男性に反省文を書かせるなどして、名前の公開もなく解放するだろうか。そんなことが起こるわけがない。警察は自らの手柄を誇り、罪を犯した者の名前や顔を公開して世間に見せしめる。江戸時代の市中引き回しだ。日本では犯罪行為の取り扱いにおいて、ダブルスタンダードは頻繁に見られ、多くの場合、警察、自衛隊、消防署、税務署、公立学校、官公庁関係者などの公的地位のある特別な集団に関連している。

 毎日新聞社は都道府県警察と警察庁に情報開示を要請した後、警察内部の犯罪を隠蔽していると思われる未発表の事実を、専門家やジャーナリストからのコメントの形で公表した。「秘密主義」として認識されると、国民の不信感が高まり、警察庁は「明確で統一された公表基準を確立すべきである」と専門家やジャーナリストは強く不満を述べている。

隠せない警察の不祥事

 警察による身内の犯罪の隠蔽を否定することは、次々と挙げられる事実を目の前にして困難すぎる。ある地域の記者が、地元警察の情報センターで、警察官や職員による犯罪についての文書を得た。それによると、処分内容として住居侵入、飲酒運転、文書偽造、わいせつなど多くの悪質な内容が目に入るものの、文章を一つ一つ辿ると、そこに書かれていることは、淡々とある記録よりも重く立派な犯罪だということがわかる。

 例えば、ひき逃げがその一つである。処分内容は「交通違反事案/救護等の措置を講じることなく、逃走した」とある。ひき逃げをすると、相手の容態など状況にはよるものの、通常では逮捕され、5年以下の懲役刑となる。しかし、その文書が表す限りでは、処分量定は「承認を得ることなく欠勤するなどした」と同罪扱いで、給料の1割カットがたった1か月のみである。

 加えて、先ほど処分内容の一つで触れた「わいせつ」について、元々の罪名は「強姦」であった。事件受理時点では「強姦」だった記録が捜査が開始されると「強姦未遂」になり、最終的には「強制わいせつ」へ落ち着いたというわけだ。ちなみにこれらの処分された警察関係者全員の職員番号や氏名、生年月日、所属については黒塗りで隠されている。

 このような警察の不祥事は、その記者が公文書開示請求をしたため知り得たことである。一般国民には公表されていない。警察官や職員など、内部による犯罪に関しては、法律のグレーゾーンどころか全く別の基準で処分が決定されている。彼らにとってはダブルスタンダードが当然であるかの如く、情報は警察の外部に対しても操作される。警察はメディアで公開されてもかまわない情報だけを与え、マスコミがそれを我先にと取り上げる。悲しいことに、事件や事故の全容が世間一般に明かされているわけではないのだ。

実名報道しない理由の矛盾

 警察関係者による犯罪の取り扱いと比較するために、2021年4月に起きた一般国民による事件の一例を挙げる。某国立大学大学院の準教授が路上で下半身を露出し、有罪判決が確定、大学は退職の懲戒処分にしたと発表した。実名は明かされていないものの、大学名や所属する研究科名、性別、年代が報道されている。この男性を知る人であれば、氏名が公表されなくとも想像に容易い。
 
 実名報道の判断は、捜査機関、報道機関に委ねられており、法的基準はない。例外的に、2022年2月8日、最高検察庁は、特定少年の実名公表の検討対象について「犯罪が重大で地域社会に与える影響も深刻な事案」とする基準を設定し、殺人などの裁判員裁判の対象事件を挙げた。

 警察は組織内の人間が犯した罪について、個人のプライバシー保護や、被害者がいる場合は被害者の権利の保護を理由に、情報の公開をしないと主張している。前述した地下鉄での事件の発表基準について警察庁は、「人事院の公表指針を踏まえて定めた警察庁の発表指針にのっとり行っている」と説明した。それらしい言葉を並べて詳細に触れることを避けるのは、日本ではよく見られる手法である。以下に、匿名扱いで、かつ、刑事罰も曖昧なままにされた警察関係者の犯罪の一例を挙げる。

性犯罪
・強制わいせつ致傷
・強制性交等
・路上で女性にわいせつな行為
・電車内で女性に痴漢
・盗撮画像1,000枚以上、5年以上
・のぞき
・捜査で知り合った女性にストーカー
・児童買春・児童ポルノ
・18歳未満の少女にわいせつな行為
・在日外国人女性の口に「DNAを採取」と綿棒挿入
・勾留されていた女性の前でわいせつな行為
・女性トイレに建造物侵入

その他の犯罪
・強要、暴行
・詐欺、横領
・動物遺棄
・速度60キロ超過
・緊急走行中のパトカーにはねられ男児が死亡
・飲酒運転当て逃げ
・パチンコで借金、路上で女性のバッグをひったくり
・架空の話を作りアリバイ工作
・スピード違反のデータ捏造、改ざん

 警察関係者は、人間の被害者がいる計画的故意犯であっても、書類送検となり、「勤務態度は真面目だった」「将来が有望されていた」と美化される。年齢はOO歳ではなくOO歳代と伝えられる。職務内容や職歴についても「捜査中」を理由に説明が拒まれる。「発表事案ではないのでコメントできない」「懲戒処分よりも軽い内部処分のため公表されていなかった」「減給1か月の懲戒処分を受け同日依願退職した」「県民の信頼を損なったことをおわびする」「再発防止に努める」といった詭弁で切り捨てられる。

 しかし、一般国民が同様の行為を行った場合には、当局は逮捕後に名前と容疑をマスコミに発表する。自身の名誉が傷つかない時、当局は被疑者の氏名や容疑についてマスコミへ情報を流すのである。

 日本では何十年もの間、実名報道について論争が繰り広げられているが、その裏では矛盾点も多い。520人の死者が出た、1985年の日航ジャンボ機墜落事故では、企業は乗客名簿を即時に公開し、報道各社は、死者全員と奇跡的に助かった4人の氏名、年齢や顔写真、旅行についてのエピソードを一覧表にまとめ、新聞へ掲載した。

 しかし1990年代後半から、匿名報道の動きは加速し始めた。1987年に日本弁護士連合会により「原則匿名報道」が提言されたからである。この提言は広い人権擁護を目的としたが、警察関係者の犯罪を「匿名発表」することへ都合よく解釈されるきっかけとなった。

警察により操作された情報の公表

 実名報道がされやすいケースとして最もわかりやすいのが、芸能人、スポーツ選手、棋士、漫画家、私立学校教員、医師、弁護士などの事件や事故である。たとえ軽微な法令違反であっても実名報道の的になり、過熱報道が繰り広げられる。

 警視庁や警察庁の肩書がある人間の事件や事故が全くないわけでなかろうが、記憶に残るような大々的なニュースがない。一方で、巡査や巡査部長などのノンキャリア組と呼ばれる末端の警察関係者の違法行為については耳も慣れている。不祥事が全く取り上げられないのも不自然であるため、体裁よく取り繕い、ごく僅かを選別してマスコミに公開しているのである。

 また、警察はマスコミをゴルフや懇親会として接待し、警察の不祥事を取り上げないように金銭を渡すなどする慣習が1990年代半ばごろまで存在したとされているが、現在もなお、一般国民の不祥事について、警察は面白おかしく垂れ流し、マスコミは面白おかしく書く。情報リーク、恣意性の犯罪性に関する文献は、1980年代から存在するが、インターネット時代になり、手口は益々巧妙化している。

 警察関係者による不祥事は発覚しにくくなったように見えた矢先、2003年、某テレビ番組がある地方警察の裏金工作についてスクープした。地元の新聞は、その警察全体の裏金を徹底的に追求し調査した。これにより、同署は不正を認め、関係者3000人以上を処分する大事件となった。

 その報道は多くの賞を受賞するまでに称賛されたが、自らの不祥事を暴かれた警察は黙っていなかった。同署はその地元の新聞社のみ取材を拒否し、詳細が記された捜査資料を渡さないなどした。そればかりか、新聞社への報復捜査を開始。同社の元営業次部長を横領で逮捕、そして裏金問題の取材班リーダーらは支社へ飛ばされ、チームは崩壊した。

 報復捜査から逮捕に至った経緯の裏では、警察との関係修復を望む新聞社トップの思惑があったと言われている。警察からマスコミに対しての報復が現実として存在するため、全国紙や報道局がある東京を管轄する警視庁や、警察庁の大規模なスキャンダルは、今でも公開されていない。

特権を持つのは警察だけではない

 マスコミをコントロールしたり、共謀するなどして身内の不祥事を隠蔽する警察。しかし、「特権」を利用しているのは警察に限ったことではない。日本最大の広告代理店であり、近年世界5位の規模を誇る広告代理店グループである電通でも、同様の隠蔽が行われている。

 2007年、電通社員の一人が痴漢事件を起こした。通常であれば、社名や氏名と共に詳しい状況が公表されるが、一人しかいない職位(室長)のみ明かされ、その人を知る人のみが特定できる情報しか報道されていない。事件を犯した男性は、容疑を認め翌日に釈放。その後は通常通り勤務し、大きな社会的制裁を受けずに済んでいる。

 当時、同社の社員であった男性の手記によると、情報の非公開について同僚は「電通の特権」と当然のように話したという。世の中の信頼を保持するために、電通ではこのような罪隠しが日常的に行われている。

 被害者が自ら実名を公表し立ち上がったことで、世界的にも知られた日本のレイプ事件がある。この事件の裏では、当時の首相と警視庁の刑事部長が大きく関わっている。

 2015年4月、ある女性ジャーナリストが元テレビ局の記者の男性から強姦の被害に遭った。女性は事件の数日後、警察へ被害届を提出し、元記者の男性は準強姦容疑で告訴された。2016年7月、東京地検は嫌疑不十分で不起訴処分とした。2017年5月、被害女性は、証拠不十分で不起訴処分となったことへの不服を検察審査会に申し立てた。
 
 元記者の男性に対して準強姦罪での逮捕状が出されたにもかかわらず、警察幹部の命令により捜査が直前でストップしたことが判明した。警察庁は、警視庁の当時刑事部長が執行停止した記録が存在することを認めている。強姦を犯したその男性記者は、事件当時の首相と深い交友関係があり、男性は総理についての本を出版しているほどである。国会では他議員らが、当時の首相へこの一連について追及したが、知らぬ存ぜぬを通しただけであった。

 2022年7月、女性の性被害について、元記者への賠償命令が確定した。もし被害女性が、自らの意思で事件を公表することがなければ、この事件は完全に警察と政界により揉み消され、世に出ることもなかったであろう。そして、元記者の男性は反省することもなく、同じ過ちを繰り返していたのかもしれない。

隠蔽がもたらす国民への影響

 現代では、技術の進歩により情報が瞬く間に拡散され、インターネット利用者からありとあらゆる憶測が流される。警察の直接の支配下であれば、これまでのように情報を操作することも可能だが、インターネット上に網羅されたら容易ではない。どこからともなく漏洩する警察にとって不都合な情報が、マスコミによりキャッチされ、個人では不可能な調査を行われる危険性がある。
 
 近年では社会的地位を有する人の犯罪が多く露呈するが、ひとたび芸能人やスポーツ選手など注目されやすいターゲットが違法行為を行うと、警察は必要以上に個人情報をマスコミに与え騒ぎ立てさせる。その裏で警察は情報を操作するばかりでなく職務を怠り、その結果、一般国民が本来ならば警察が防止できたはずの事件の被害者となり、受けるべきではなかったはずの社会的制裁に苦しみ、自ら死を選ぶ事件が起きている。

 組織的隠蔽は、警察や一部の人間だけが持つ「特権」を利用して、息をするように行われている。問題なのは、警察などが国民を欺いているにもかかわらず、多くの国民が世に出る情報を信用し、それが警察犯罪の隠蔽を助長させていることである。悲しいことに日本国民の真の平和は、警察らによる悪質なダブルスタンダードの闇に覆い隠されている。


こちらの記事は、以下の書籍を参考にしております。
小笠原淳「見えない不祥事 北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない」2017、リーダーズノート出版
粟野仁雄「警察の犯罪―鹿児島県警・志布志事件」2008、ワック
粟野仁雄「検察に、殺される」2010、ベストセラーズ
寺澤有「記者クラブとは」2019、インシデンツ
浅野健一「犯罪報道の犯罪」1984、学陽書房
浅野健一「新・犯罪報道の犯罪」1989、講談社
浅野健一「マスコミ報道の犯罪」1996、講談社
浅野健一「「犯罪報道」の再犯」1997、電子本ピコ第三書館販売
浅野健一「「報道加害」の現場を歩く」2003、社会評論社

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