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COC公式サプリなどで見つけた未来史

はじめに

 本稿では"Call of Cthulhu"(日本ではクトゥルフ神話TRPGおよび新クトゥルフ神話TRPG)の公式サプリメントにおける未来世界の紹介を主とする。本家ことケイオシアム社のMonographシリーズのブランド終了・終売の発表から一年経過が近いので忘備録も兼ねるものとし、また本稿の読者に向け「こんな未来像が公式であったんだべ。絶版しちゃったけど」と伝えたい。

COC世界における未来史

 COC世界における未来世界は、近未来では大きく分けて2つの時間軸が存在し、遠未来ではツァン・チャン帝国(西暦5000年以降)と惑星ウルス時代(地球から改称。紀年不明の超未来)といった世界観が存在する。ただし、他国公式やサードパーティー製のものは余談として軽く紹介する程度にとどめるものとする。

2つの時間軸が存在する近未来

 近未来においては先述の通り、2つの時間軸が存在する。一つは21世紀後半から22世紀前半にかけてクトゥルフ神話事象によって征服された時間軸の"END TIME"、もう一つは23世紀後半まで特に征服もされず技術革新と宇宙進出を経た時間軸の"Cthulhu Rising"である。
 双方の概要は以下の通り。

◆"END TIME"
 
公式ライターにして哲学教授であるマイケル・C・ラボシエ(Michael C. LaBossiere)が創造した時間軸。同氏のシナリオ『血染めの月(原題:Blood Moon)』から設定を拡張させたものでもある。
 
21世紀の後半に差し掛かるまでは月面基地の建設と、火星探査と入植計画が進められていたが、月で発見した『或るもの』がトリガーとなり地球は狂気の渦に包まれ、それに伴い神格が目覚めて全面核戦争が発生。それを経て地球は制圧され、残存人類は火星に入植した開拓者のみとなり孤立してしまう。(『或るもの』の正体については『血染めの月』に詳しく記されている。)
 火星に存在する異星人文明の遺跡からオーバーテクノロジーを接収し、僅かにテラフォーミングしたりと糊口を凌ぎつつ、地球への帰還と復興が主な目的となる世界観である。

 もともとはDeltaGreenに関係する企画としたものであるらしいのだが、その企画は頓挫。その名残としてグレイに扮したミ=ゴも暗躍している程度である。
 もしDeltaGreenと組み合わせるのであれば、MJ-12から同盟を解消し姿を消したミ=ゴの消息がどうなったかの補完資料としても面白いかもしれない。

"Cthulhu Rising"
 
ジョン・オソウェイ(John Ossoway)が創造した時間軸。またEND TIMEからヒントと着想を得て、インスパイアのもと創造されたものである。
 主な舞台となる23世紀後半に至るまで、地球はいろいろと技術革新やらエネルギー革命やら、サイキック能力の開発やら、自律型AIの開発やら、ヒューマンオーグメンテーションとサイバネ技術やら、人類同士の抗争やらでわちゃわちゃしていたが、クトゥルフ神話事象に完全に征服されずに発展と抗争を繰り返していた。
 宇宙開発、特に太陽系内外の開発も進んでおり地球圏から見て12光年以内の星系も探査・開拓、入植が進んでいる。また人類同士による星間紛争と宇宙海賊の出没と、例えるなら宇宙規模の大航海時代と植民地開拓時代を迎えているともいえる。神話生物やカルティストも地球外で暗躍していたりと、スケールも大きいのは確かである。

 このサプリではシリーズ展開もされており、木星圏を主題としたキャンペーン設定集"Jovian Nightmares"、マイケル・C・ラボシエが追加設定とルールを記した拡張データ集"Once Men"がある。
 ただしこれらも絶版しているため、未来探索者やAI・アンドロイド探索者を作ったり未来・SF武器を運用したいのであるなら、ファンメイドにして正統発展型のサプリメント"New Horizon"を参照することを勧める。

遥か先の遠未来

 遠未来では、人類史以後のものとなっている。1つは星辰が整い神格の目覚めと支配による世界を描いた"The Cruel Empire of Tsan Chan"、人類が遠い過去のものとなり、科学と魔術が融合した幻想的な超未来"The Chronicles of Future Earth"が存在する。

The Cruel Empire of Tsan Chan(ツァン・チャン帝国時代、紀元5000年代)

 
サプリメントの筆者・編纂者はクリスチャン・リード(Christian Read)。
 
ラヴクラフトの『時間からの影』に出てくるツァン・チャン帝国を題材としたものであり、COCに対応したキャンペーン設定やシナリオフックなどをまとめたデータ集となっている。
 主に紀元5000年に星辰が整い神格が目覚め、人類に替わり地球を支配するようになった狂気の時代となっている。神話生物やカルティストが覇権を握り地球上に跋扈しているというものである。
 またこのサプリメントでは探索者の作成ガイダンスもあり、狂気の時代を歩いてみるというのも一興だろう。またその狂気の時代を生き抜くか、タイムスリップをして歴史改変を行うか、それとも新たな覇者として戦い抜くか等、キャンペーンシナリオを構築するのも良いだろう。
 
The Chronicles of Future Earth(惑星ウルス時代 紀年 不明)
 
筆者は短編SFを得意とした作家とゲームデザイナー兼業で"Achtung! Cthulhu :Zero Point"シリーズ も手掛けていたサラ・ニュートン(Sarah Newton)。
 正確にはケイオシアム社の基幹システム"Basic Roleplaying"のサプリメントであるが、実はCOCのハロウィンシナリオ集の一つ"Bride of Halloween Horror"収録の"The Beloved Dead"でも惑星ウルスを舞台としているため、本稿で紹介することとする。
 ツァン・チャン帝国時代と比較すると、穏やかで謎と神秘に包まれた幻想的な世界観であり、人類もポストヒューマンが台頭し地球から惑星ウルスと称されるようになった超未来。他にも多様化しているヒューマノイド型生命体などの共存もしている。
 紀年は不明であるが、イメージとしてはスターウォーズにファンタジー要素を強めたものであり、科学と魔術が融合したSFファンタジーである。人類の子孫にあたるポストヒューマン、爬虫人類や蜘蛛型知的生命体などキャラクターメイキングも多彩である。

余談 その他の未来

 この項では他国公式やミスカトニック・リポジトリで見つけた未来シナリオを紹介とする。またいずれも2023年2月現在でも販売されているので、販売ページのURLも併記とする。

英国公式Stygian Foxの未来史
 Darkness In the Void
 
著:Glynn Owen Barrass

 あらすじ
 人類は太陽系の開発と並行し太陽系外の開拓も本格的に始まった時代。
探索者たちはガリレイ重工所属の惑星探査チームであり超光速宇宙船パヴェル・スコイ号に乗船していた。
 行き先は、地球人が居住可能とされる環境を持つと観測された惑星リズパ160-B、何千光年も離れているためコールドスリープも用いて航行するのである。
 往路の事故はなく、リズパ160-Bのある星系に到着しコールドスリープから目覚めたところから物語は始まる。

 Salo's Glory
 
著:Glynn Owen Barrass

 あらすじ
 人類は太陽系の開発と並行し太陽系外の開拓も本格的に始まった時代。
探索者たちはガリレイ重工所属の航宙ステーション トライフェナ号の試験航海に随伴するクルーだ。
 主な任務は太陽系外の進宙と運用テストであり、シャトルの中継基地としても運用に耐えうるかなのだが、太陽系外に出たとたん、救難信号をキャッチする。その信号の識別コードは母船と同じトライフェナ号。
謎の信号をキャッチするとともにガリレイ重工本社から極秘任務として通達されるのだ
「その信号の発信元を調査せよ」と。

 英国公式のStygian Foxでは明確な時代設定はされていないが、いずれも本編に出てくるガリレイ重工のミッションが大きく絡んでくる。そのガリレイ重工は太陽系内で唯一の恒星間航法技術を確立しており独占しているほどだ。またオーバーテクノロジーの宝庫とも言える状態で、その全容もブラックボックスとなっている。平たく言えば、エイリアンシリーズのウェイランド湯谷社のような暗黒メガコーポと言えるかもしれない。

◆ミスカトニック・リポジトリでの未来
The Titan Incident
著:William Adcock

 あらすじ
 22世紀も終わりが近い時代。人類は地球以外にも火星やセレス(火星-木星間の準惑星)、木星や土星の衛星にコロニーを作るまでに宇宙進出が進んでいた時代。
木星や土星での衛星は、現在では流刑地・採鉱地として資源採掘が行われている。
 特に土星の衛星タイタンは、日中気温が摂氏-172度であり、大気組成も窒素とメタンで主に構成されており、コロニー外では人間の生活には適していない。
 そんな流刑地に駐在する医師ヘンリー・ホルツァ―が不審死を遂げたと、コロニーおよび採鉱の運営元であるリヒター・ダイナミクス社に報せが入るのである。
 リヒター・ダイナミクス社はトラブルシューターとして探索者たちをタイタンに派遣するのである。

 The Titan Incidentはミスカトニック・リポジトリでライセンスを受けた個人製作のもの。22世紀末の太陽系内の開発が盛んな時代を取り扱っており、タイタンの極寒の地で探索とスリリングなものになっている。宇宙服が破れたりもすれば一瞬で凍死するくらいに寒い。要宇宙服修理キット。
 このシナリオでは、太陽系内の惑星・準惑星や衛星での資源採掘に勤しんでいるという背景が伺える。リヒター・ダイナミクス社はあくまで依頼人の立場であり、ガリレイ重工ほどの黒さはないといったところだろう。


おわりに

 本稿を記すきっかけとなったのは最初に述べた通り、Monographシリーズのブランド終了・終売の発表から一年経過したこと。また私情であるが本稿で紹介したサプリメント全てが絶版になってしまったことへの寂しさ、未来シナリオを遊んでもらいたいという欲求が募った結果でもある。また私個人としても、そろそろ誰も纏めていなかったCOC世界の未来史も纏めておきたかったのもある。
 忘備録とはいえ、長い雑記を最後まで読んでいただいた方には感謝を申し上げます。(新しい情報が入ったら本稿で更新とさせていただきます。

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