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バスの新陳代謝

 仕事に行くため、バスに乗った。汗がにじむ暖かい朝だった。ゆらゆらと揺られながら、昨日とも一年前とも似た横スクロールの景色を眺めた。
 数箇所のバス停を過ぎたあたりで車内に目を向けると、乗客の顔ぶれがずいぶん変わったことに気がついた。年度初めだからかもしれない。
 先月までの車内を思い出そうとしてみる。すると、案外思い出せない。毎日、同じバス停で同じバスを待っていたはずの同志の顔もおぼろげだ。
 今居るひとが先月も居たことはまだ思い出しやすいが、先月居たのに今月居ない人は、とくに朝日の瞬きに紛れている。人は、あるものの変化は見つけられても、ないものを見つけ出すのがとても苦手だ。
 私はこのバスに乗りだしてから2年目になる。いつかこのバスの誰の記憶の断片からもこぼれ落ちる私だ。
 バスが停まり、綺麗なリクルートスーツの方を数人乗せた後、また走り出した。きっと、彼らは新入りだが、私は威張ることはせず、つつましく目的地を待った。

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