風と音感(60句)
2019年6月から11月のうち、まだどこにも出せていない自分の句の中から60句を選びました。
──────────────
風と音感
丸田洋渡
春
たんぽぽや未来は演じられている
蜂は蜂に分かる字を空にきれいに書く
寝ながら歌うそんなこと思う春の昼
飛花落花二人ふたたび座りなおす
囀に葉書のように葉の揺れて
語りは語りにまで延びていて蝶の錯
流暢に春の砂丘は多楽章
夏
砂に灰混じつてゐたる西日かな
空中に虫震えたる花火かな
朽ちんとし朽ちる向日葵ばかりなり
眠りの神の兄は死の神かたつむり
階段に一つずつある夏の石
目は空にありつつ話す水ようかん
あまりりす遠くに行けば声小さく
鮎の川すべすべの手になっている
噴水の入れ替わるとき難しく
石鹸玉音感のある子どもたち
脳に雪ふり窓閉める半夏生
朝曇すべては居ない水牛のため
百合のための書法が変わりだす予感
○
沖に季の似かよひあつてひと休み
白昼の雨のときおり窓を抜ける
白い時間を延ばしてゆけばとても砂
風の外にいる
秋
吸ふあひだ飛びつづけゐて秋の蜂
心臓は何の実ならん鷹渡る
鈴虫を集めてみても鈴にならず
釘錆びてゆくは木のうち秋黴雨
もみじちるいろはとともにアクセント
葡萄樹の夜を駆けまわり言葉の密
秋蝶は一昨日の百の構想
椋鳥や射るとはすこし凍ること
野分立つ花の形をしている木
秋空という陥穽のなかにいる
すいすいと月が昇って絵が乾く
秋冷や光は鳥をもてはやす
雲にいれば人より傍を鷹が往く
半身は満月で濁る
文字のように蔦に呑まれてかわいそうに
鵙よ光は光のなかでやつれてゆき
銀杏散る庇のように陽のように
空中に垂直がある冬隣
冬
まぼろしを昼と思ひぬ浮寝鳥
姿見は雪を降らせてをりにけり
鳥はまだ本読めずいる冬の照
こんなにも雪が降りそう白鳥に
冬晴を歩けばこの世ときどき石
生きるのに慣れてしまって冬の虹
凩や人類に塔まだまだ建つ
白菊や海がまだ空だったころ
冬薔薇の未だに思いだす途中
かつて夕鶴は記述されなかった
舞いつかれた鶴をいたわる鶴の家族
柊の花晴れながら火が細る
春を待ちぶせ隼のかわいい目
書くうちにあかつき軽くなる氷
○
舷窓に騒がしくなる幼少期
濁るまでおもかげは水車を廻す
回帰する風の拍子を取っている
涯をゆく乱鴉よ四季もそうして来る
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?