no.10 あなたがいない世界を生きるのは

16年と9ヶ月ほど前、我が家に小さな命がやってきました。
その子は黒とシルバーの子犬で
まだ3ヶ月だけど、他の子より少し大きくて
だけど誰よりも怯えていて、小さなケージの中で丸まっていました。
半袖では少し肌寒い9月のある雨の日、私の膝の上で震えながら、我が家に舞い降りた天使でした。

今日は感情のままに、あなたへのラブレターをnote.で綴ります。

まだ8歳だった私。それでもあの初めての夜を覚えています。
全く寝ずに、おすわりしたままケージの中でじっと佇むあなた。ケージの目の前に布団を敷いて、「眠くないの?」と寝っ転がりながら聞く私。
オレンジ色の薄暗い部屋の中で、あなたと初めて過ごす夜。あの夜をずっと忘れない。
私はあの日から16年
小さな子犬と共に成長し、生きてきました。

泣いてると顔を舐めてくれるあなた
日向ぼっこが大好きで、狭いベランダで2人で外を見ながら過ごした日々
わざとトイレを失敗して、怒られる…近づくまいと逃げていくあなた
どんなに触られても決して嫌がらないあなたを撫でまわす日々
仕事から帰ってきたら必ず階段までお迎えに来て、ハグしてくれるあなた
行ってきますもただいまも共にした日々
存在も時間も、あなたといる何もかもが
私の日常でした。

思い出はあまりに多すぎて語れません。
後悔もあまりに多すぎる

彼女の意思やメッセージは、まるで言葉が聞こえるかのように、手にとるように理解できました。

具合が悪くなったり、雷や地震が怖い時、お散歩に行きたくない日。不安な時や助けが必要な時、彼女は必ず私のところへやってきました。
いつも、吠えるわけでもないのに『助けてほしい』と私には分かります。
2月の金曜の夜、私のベッドに珍しくやってきたあなた。気配で飛び起きた私。
あなたの呼吸はあの日から、少し苦しくなってしまったね。
そこからたったの1ヶ月で、逝ってしまいました。
原因不明の呼吸困難が続き、酸素室に入るしかなくなってしまいました。
動物病院から手の施しようがないと連絡を受けて、泣きながら病院へ走った私と母。
私たちの姿を見て、本当に嬉しそうな顔をして立ち上がったあの子の顔は、まるで昨日のことのよう。
覚悟なんてものは、先に言われてたとしてもできなかったと思います。できてるようで、できていなかった。あまりに突然の別れでした。

毎晩酸素室にいるあなたと、その前で寝ずに過ごす私。その日々は16年前のあの夜と一緒でした。変わったのは、来たばかりのあなたではなく、もうすぐ逝ってしまうあなたを見ているということ。

もっとお散歩に連れて行きたかった
もっとそばにいてあげたかった
もっと、もっともっと。
どれだけ抱きしめても、足りなかった。
一瞬も逃したくなかった。

最後のあの日になぜ、病院に連れて行ってしまったんだろう。おうちが大好きだったあなたはきっと、家でみんなと過ごしながら逝きたかったろうに。私は最後の最後に、一番大切な事をしてあげられなかった。
病院からの帰り道、腕の中でどんどん衰弱するあなたを抱きしめて、泣き叫びながら帰ることしかできなかった私は本当に弱い人間でした。覚悟を決めて、家にいさせてあげるべきだった。
それでもあなたは最後の最後まで頑張って、ぎりぎりのところでおうちに帰ってきてくれたね。でも私には後悔しかない。

彼女はきっと、私と一緒にいてくれているはずで、たまに感じることがあったりもします。
先日ふと空を見たら、突然桜の花びらが舞ってきて、顔にそっと落ちてきました。そんな素敵なこともあります。
でも、悲しくて寂しくて綺麗事なんか言ってられないほど悔しくて、涙が止まらない夜を過ごすことの方が多いです。

8歳から16年と9ヶ月
私はあの小さなバディを守ることだけを生き甲斐に、生きてきました。彼女のいない世界を歩んだことはないのも同然。
となるともう物心もしっかりついてる24歳フリーターは、フラフラ生きてくわけにもいかず、生きがいも目標も、自分には本当になにも無いことに今さら気づいてしまう。
どうやって生きていいか分からない

友達と会ったり、恋人と過ごしたり
そうやって一瞬一瞬を埋めてもらいながら
支え合って生きていくしかないって
本当は頭でわかっていながらも
なんか最近は体におっきな穴が空いたみたいな、むしろ体の一部が無くなったみたいな
そんな1ヶ月です。

家中にあなたを感じてふと探してしまう。
どこにいても、誰といても、何をしても
あなたを探して、この世界を見つめてしまう。
誰かのために生きようとしても、それは一体誰なのか。
あなたのいない世界を生きるのは、あまりに過酷すぎる。それでも、あなたと見た景色が、思い出が、私だけになってしまったこの世界を明るく照らしてくれる。別れの朝も暗くて長い夜も、冷たい雨の日も、凍えるほど寒い雪の日も、春の懐かしさも。切なすぎて苦しいほど一瞬一瞬にあなたを感じる。
戻れない過去を乗り越えようと、あなたと共に生きていくよ。

世界でいちばんかわいいです
愛おしくてたまらない
あなたへの愛が尽きません。
この先もたぶん一生、過保護でいるんだ。

ここ5年くらいは毎日あなたのために祈り、願った。
『いつか来るその別れの日が、どうかできるだけ先であるように』
特別何かを信じていたわけではないですが、藁をも掴む思いで、何かに縋らずにはいられなかったのです。

私の子供になって生まれておいでよ、と
ずっとずっと伝えていました。
今また、毎晩あなたに会いたいと泣きながら
この世界に、誰かに、何かに願っています。
『いつか来るあなたにもう一度出会える日が、どうかできるだけ早く来るように』

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