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#15 タバコ

最初は何かの箱の名前かと思った。幼い頃、それは日本語だと思っていた。
でも、言葉よりもモノとしての最初の出会いはもっと歪だった。喘息持ちの自分にとっては悪いもの、親を責めることができる唯一のものだった。いつもタバコを吸う親の前で咳き込んで早くタバコをやめてくれと日頃の不満をそれに転嫁してぶつけていた。きっとそれが初めての親への反抗だったのだろう。
子供でも発音しやすくて、何か昔から知っているような馴染みのある響きで、僕が唯一この歳までずっと続けてこられたもの。
初めてタバコを教えてくれたのは、素行の悪さで有名な高校の友人だった。卒業して1年後ぐらいに飲酒運転の車に轢かれての葬儀で、彼が俳優の道に進もうとしていたことを知る
彼が勧めてくれたのはMarlboroだったけどすぐに真っ赤なパッケージに惹かれてLARKにした。それが自分なりの個性であり、タバコを吸ってしまうことは譲るとしても、銘柄まで友人の影響では格好悪いと思っていた。
「喫煙所はありますか」と聞くことの恥ずかしさは、きっと過去への恥ずかしさなのかもしれない。

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