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日蔭のテトラポット

海岸のそばには砂浜がある。砂浜の反対側には防波堤と放置されたテトラポットが並べられていた。市街地から離れた海岸の特性。警察と地元の住民の眼が届きにくい、そこに便乗してテトラポットの「FOCUS」の落書きの前でポーズを決めている赤い髪の女が笑顔をカメラに向けていた。法の網の目の隙間で、親子連れが仔犬と子供を遊ばせている。そんな場所だからこその風景があった。
「その考え方は間違ってないと思うよ。」と笑顔をカメラに向けていた。
「彼は金を騙し取り、嘘を重ねて、法の網をある時点までは抜群の語学力で切り抜けた。英語好きとしては彼の活きたレッスンを受講してみたい。それが本音。」と城山は左右にアングルを変えながらシャッターを切っていった。
海からの強い風が二人に吹き付ける。その向かい風を捻じ伏せるようにヒロミはカメラに視線をぶつけていた。
「道ならぬ恋、アルコール依存症、薬物依存症、そんな不道徳なアーティストを手本にして、私はギターを謳わせて、声で客を魅了する。邪道を昇華して、常識に揺さぶりを与える。それってクールだよ。」とヒロミは言った。
「世界通じる著名な被疑者の我々の大先生をこの海岸に招待して、是非とも講義をお願いしたい。」と城山は日陰から太陽に背を向けて、カメラだけは降ろさずに撮影だけは続けていた。天気は晴天、風は春の風。
「ジェラートが食べたい。巨額詐欺師を連邦捜査局から奪還作戦なんちゃって会議はジェラートの後でどう?」
「そうだね~。」と城山はカメラを降ろした。
それからは犯罪予備軍の二人組は路地裏のいつもの店に向かった。
#小説





そこは白波が引きながら、押し寄せる砂浜。転記は晴れ、家族連れは子犬を連れて、波と戯れる。
赤い髪をしたヒロミは防波堤に沿って列べられたテトラポットの前でポーズを取りながらカメラを構えている男に相槌を打った。
「その考え方に間違いはない。知らんけど」とヒロミは笑った。
「彼は金を騙し取った、法を犯した、信用を裏切った。だから起こした」

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