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りんご音楽祭2022 「パリピはTwitterをやっていない」

りんご音楽祭には2018年に一度だけ行ったことがあった。非常に独特なフェスティバルだったので強烈に記憶に残った。今回は4年ぶりの参加である。感染症の流行で2020年、2021年、全国のあらゆるイベントが中止になる中、規模をかなり小さくしてでも続けてきた数少ないフェスティバルの1つがこのりんご音楽祭だ。

久々に参加して、とにかくいろいろ書きたいことがある。

まず松本に着いて、駅前から会場までのシャトルバスの値段が直前の告知とちがってて戸惑った。往復1人1000円となっていたのに現地に行くとしれっと1500円だった。これについてなんの説明もないしみんな仕方なく受け入れていたようだったがあれはなんだったのだろう。単なる記載ミスなのか、何か理由があって急遽値上げしたのか。
悔しいから2日目以降はタクシーで行こうかと思いタクシー運賃を調べたら絶妙にバスのほうがちょっとだけ安そうで、ちくしょうと思った。

ブッキングのこと

今年のりんご音楽祭は6ステージ3日間で265組も出るとかやばいし頭おかしい。6ステージ分のタイムテーブルがぎっしりになってて笑えた。

たぶん、お茶の間(という言い方がすでに古いと思うけど)で知られているレベルの出演者は水曜日のカンパネラくらいで、音楽が好きな人なら曽我部恵一や七尾旅人、あとは呂布カルマあたりを知ってると思う。よく音楽のイベントに出かける人にはKan Sano、yonige、DYGL、OGRE YOU ASSHOLE、奇妙礼太郎、GAGLE、どんぐりず、yonawo あたりは知られてるのではないか。
総勢265組のうちここまでにあげたのが12組で、人によってはこの人も知ってるでしょというのが数組あると思うけど、あとの残り250組余りは正直なところなんだかよくわからない人たちである。

ただ、このりんご音楽祭のすごい所は、ここにブッキングされた「なんだかよくわからない人たち」の多くが翌年・翌々年あたりの音楽シーンに必ず台頭してくるところだ。それは主催者が各地のライブハウスやクラブでのライブをちゃんと見て、今キテる人たちに出演オファーしているからという、考えてみたら至極当然のことなのだけど、それをやってる主催者がどれだけいるかというと甚だ疑問である。大手イベンターではなく瓦RECORDという地方都市松本にある1つのクラブが主催だからこそ、所属事務所やレコード会社とかそういう政治的な力やしがらみとは距離をおいて、現場感を最重視したメンツを揃えることができているのだろう。その結果、りんご出演者が近い未来にたくさん台頭してくるという現象が起きていて、出演者にギターロックよりHIPHOP勢が多いのも今の「現場」がそうなっているのだから必然的なことなのだと思う。

ちなみに以前、瓦RECORDが実際どんなところなのか見に行ったことがあるけど、クラブといってもなんか普通の家みたいだったし周りは繁華街ではなく川と寺と住宅地だった。

地方の多くの人が地元のイベントに望んでいるのはWANIMAでありスカパラでありVaundyやKing Gnuでありマキシマムザホルモンだと思うけど(King Gnuは2018年に出てたね)、そこらへんに対して真っ向に背を向けて独自路線を突き進んでるのはかっこいいし、それを東京じゃなく松本でやってるのがさらにかっこいいと思う。

客層

他のフェスの会場でよく見かける「My Hair is Bad」とか書いてあるバンドTシャツを着てる人や「ROCK IN JAPAN 2019」とか書いてあるよそのイベント公式Tシャツを着てる人がほとんどいないし、靴はメレルかkeenでハーフパンツにハットみたいなフジロック系アウトドア勢もほとんどいない。みんな町で遊んでるような格好で来てる。あとフリフリの服とかコスプレみたいな格好の人も少しいた。そういう人たちは足元が悪くて靴が泥だらけになってて大変そうだった。

お客さん達の服装からもわかるけど、普段から夜な夜なクラブ遊びしてるようないわゆるパーティーピープルの人たちが客としてたくさん来てる。「あれはミュージシャンなのかな?そうでなければどう見てもカタギじゃないな」という見た目の、遊び慣れている感をめちゃくちゃ醸し出してる人たちがとにかくとても多いし騒ぎ方を見ても普通のフェスとは違う。帰りのシャトルバスよりタクシーを待つ列のほうが長いのも、いかにもそういう感じがした。ただ、それで会場の治安が悪いかというとそんなことはぜんぜんなくて、ゴミも落ちてないし(若いスタッフたちがごみ拾いをめっちゃがんばってた。頭が下がる)みんなちゃんと喫煙所でタバコ吸ってるし、どっちかというと変なところにシート広げたりライブ中の撮影をしてるのはキョロ充みたいなのばっかりだった。

フジロックやRISING SUN ROCK FESTIVAL、サマーソニック等の大型フェスティバルと比べると開催中Twitterにあんまりリアルタイムの情報が流れてこないと感じた。来客数がぜんぜん違うというのももちろんある。会場で一部の場所を除いて携帯の電波が悪いとも特に感じなかったのでそれもあまり関係なさそうだ。これはどなたかのツイートで見てなるほどと思ったのだけど、パリピの人たちはそもそもTwitterを使ってないのだ。

マスクのことだけど、もういいんじゃないかというのが私の正直な気持ちで、特に屋外ならなおさら気にする必要もないと思う。屋内や乗り物の中では、気にする人がいるし嫌な気持ちをする人がいると思うのでマスクは付けるし、それに関して文句は無い。で、パリピの人たちはもちろんマスクなんてしない。当たり前のように見事にだれもしてなくて、それはそれですごい。それに対して悪いとも良いとも何も思わない。コロナ以前から2020年、2021年、そして今年と連続で出ている呂布カルマがステージ上からお客さんを見て「年々マスクの人が減ってきて、いいと思います。もうやめませんか建前」と言っていた。

運営上のこと

会場となっている公園内の道に出演者を乗せた車や機材車、飲食の在庫補充の車が入ってきて、お客さんがいっぱい歩いてる中をかきわけながら通っていく。それをスタッフが自転車に乗って「車が通りまーす!」と先導している。ちょっと危ない気もするしお互いストレスだと思うからあれはどうにかした方がいいと前回も思ったけど、松本市の公園を借りてやってるので、一部をクローズドにする等の方法で動線を分けるのは難しいのかもしれない。

さっきまでステージ上にいた人たちがお客さんと同じように芝の斜面でのんびりしてるし、出演者がキッチンカーのフードの行列にもちゃんと並んでるし、水曜日のカンパネラの子が客から日焼け止めを借りてるし、女装したでかいおじさんがうろうろしてるし(この人も出演者らしい)、ライブ中にふと横を見たら中尾憲太郎も一緒にライブを見てるし、タイから来たKIKIのバンドメンバー達が「えんぷてい」というバンドのライブで客のど真ん中ですごい笑顔で踊ってるし、いろいろすごい。

出演者の楽屋の使用が時間制になっているらしく、早く会場入りしても楽屋に入れないし、終わるとさっさと追い出されるため、その結果、出演ミュージシャンたちがそこらをウロウロする事態になっているのだそうだ。運営的にそれでいいのかよと思うけど客として来てる身からすると、その状況は見てておもしろく感じる。

いわゆる「ロックフェス」「夏フェス」「野外フェス」と呼ばれている他のイベントに参加したことがある人がりんご音楽祭に来たらいろんな点で戸惑うと思うし、逆にりんご音楽祭しか行ったことがない人は他のフェスやイベントに行ってみたら「こんなに親切快適で至れり尽くせりなのか!」とびっくりすると思う。でも気候は9月の松本のほうがいいよね。

ステージのかなり近くまでイスやシートを広げている人達がたくさんいるのは前回も今回も同じで、最初は正直なところなんだよこいつら邪魔やし後ろ行けやと思ってたけど、ここでは特にゾーン分けのようなこともされていないし、こういうものなんだなと思うことにした。フジロックを出禁になったことでおなじみのヘリノックス型のイスたちがここでは元気に広げられてたくさん並んでました。

前回来たときとくらべて、Red Bullがかなり強力にスポンサードをしてくれてるのを会場のあちこちから感じた。Red bullっていろんなところにお金出しててすごいけどそんなに儲かってるんだろうか。あと、メインステージであるりんごステージの見た目が以前と比べて若干しょぼくなっていた。やっぱり2年続けてかなりの縮小開催だったことや音楽業界自体が厳しい状況だったことなどで経済的に厳しいのかなと感じた。

Red Bullのロゴマークが入った屋根のある「おやきステージ」(青いやつ)

りんご音楽祭はパーティだしフェスである

以前参加したときに薄々感じていたのだけど、りんご音楽祭は野外フェスの皮をかぶったパーティだと思う。クラブのパーティをあんなでかい公園でやってる。しかも朝から。出演者のラインナップや来ている客層もそんな感じである。GAGLEのHUNGER氏が今回のライブ中、DJを称える内容の新曲を紹介するときにMCで「りんご音楽祭はDJのイベントだ」と言っていて確信した。DJのイベントということはやっぱりパーティなんだと思う。

私はどちらかというと、というかはっきりと、クラブ遊びしているような人たちはあまり得意ではない。苦手だ。ただ、日常でそういう人たちと接することはまず無いので何も問題無い。

そして、りんご音楽祭がパリピ以外の人を受け入れないということは全く無くて、地味な若者も地味なおじさんおばさんも、家族連れも普通にたくさん来てるし、犬も来てるし、おじいさんも来てる。特定のバンドのファンも来てるし普通に野外フェスだと思って来てる人ももちろんたくさんいる。あの場所にはあらゆる人を許容する空気がある。

しかもこれは祭りである。

私が好きで何度も行っているRISING SUN ROCK FESTIVALのプロデューサーを務めていた人が昔のインタビューで「フェスティバルとイベントの違いは何かということを常に考えてきた」と言っていた。奇しくもりんご音楽祭の主催者も同じようなことを言っている。

「フェスってお祭りじゃん?全員参加したくて参加してるはずなのに、ただバイトで来ていてつまんなそーな顔している人とかもいるの。実際そう思ってるかはわからないけどね。それがどうしても許せなくて。フェスティバルって言ってんのにつまんなそーなやつがいるのはなしだろって」


「つまんなそうな人がひとりでもいると冷める。お金のために働きに来てるつまんなそうなアルバイトがいるとか。うちはあれがイヤで。だってさ、フェスティバルって祭りだよ?」
「それなのに誰かがイヤな思いをしているのはおかしい。そんなのはもう、フェスティバルという名のイベントになっちゃってる。イベントと祭りは全然違う。祭りを冒涜してんじゃねえ!っていう」

「フェスは祭り。祭りだから、イヤな思いをする人がひとりでもいたらヤダ!」という精神が根底にあるから会場の雰囲気がお祭りになっているのだと思う。

そんなわけでいろいろ言ってきたけど、みんな一度は行ってみるといいと思う。


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