大切な何かを手に入れる為に、手持ちの大切なものを手放す必要があるこの世のルール
いま思っても最低だけど、ぼくには選択肢がありませんでした。将来の夢を決定するほど強力な呪いをかける彼女にとって、大学生のカップルを破局させるくらいたやすいわけです。
それでもってまた更にぼくの卑怯なところが、その時の交際相手のことを過度に傷つけず、且つ、それまでで培った大学のコミュニティも壊したくないと思ってました。
平たく言えば、「好きな人ができたから」ということを突きつけるのが嫌でした。
その時のぼくはまだ若過ぎて、大切な何かを手に入れる為に、手持ちの大切なものを手放す必要があるこの世のルールを知りませんでした。
守れるものの範囲とか、手が2本しかなくて、埋まってれば新しく何かを手に入れられないって、理解するのは結構遅い方だったかもしれません。
だからぼくは、その猫との復縁のために何も失う覚悟がなく、ただただ、それだけを手に入れようとしていたのです。
彼女からは時々連絡が来ました。
「大学生活は順調?」
「ごめん、もう少しかかりそう。」
「そっか」
「でも、本当に急いでる。」
「うん」
「もう少しだけ待ってて」
「私のこと大人に見えてるでしょう」
「どういうこと?」
「大人しくて物分かりがよくて、状況を冷静に理解できるって、そう思ってるでしょう」
「わからないけど、そうなのかな」
「案外そうじゃないの。常に不安定で、私自身どんな行動とるかわからない」
「なるほど、状況は理解した」
とにかく、急いだ方がいいらしかった。
大学では付き合っていた女の子と少しずつ距離をとるようになっていました。グループでは行動しながらも、なんとなくデートをしなくなったり、2人きりでいる時間が減り、別れの気配をそこはかとなく漂わせていました。
確か、結局別れるまでに半年近くかかったと思います。いやそこまでかかってないかな。とにかく、思ったよりも時間がかかりました。
でもようやく猫を迎えいれる準備ができて、彼女にすぐ連絡しました。
「かなり待たせてごめん。ようやく諸々済んだから、迎えに行きたいんだけど。」
「私ね、結婚するのよ」
どういうことだかよくわからなかった。ぼくと結婚するという意味かと一瞬思った。
「私は1人で生きていくには弱すぎるのよ。正直その人のことさほど好きじゃないし、あなたのことが好きだけど、誰かがそばにいてくれないとだめなのよ。」
なんだか気が遠くなる気がした。そして彼女の性格上、いまさらどうにもならないことをぼくは知っていた。
「一応聞くけど、すでに準備ができていたとしても、手遅れだってことだよね」
「うん、ごめんなさい」
1人で飲み歩いているときにバーで声をかけられ、そのままその男性と夜を過ごし、交際するようになって電撃的に短期交際で婚約を申し込まれ、彼女は承諾したとのことだった。
言いたいことはたくさんあったけど、いざなにを話すべきかわからず、ぼくは「元気で」と最後に伝えて彼女は誰かのものになった。
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